(ルストン)7 グリード家の思惑
(ルストン)
「グリード家の御子息であるライアー様とスティーブ様は、戦闘系の伯爵家に相応しい実力をお持ちの様で非常に優秀と聞いております。
流石はグリード家ご当主のルストン様、これからも期待していますよ。」
ニコニコと穏やかな笑みを浮かべているのは、腰まである長い銀色の髪を持ち、中性的な美しさを持った壮年の男性だ。
その男性は、ただ立っているだけだというのに人を圧倒するオーラを持っていて、私もそれに当てられ一瞬クラッとしてしまう。
相当な実力者である事は間違いなく、流石の私も格が違うと認めざるを得なかった。
この方こそ、この国のナンバー2と言われている上級貴族────公爵家【ロゼイル家】当主<ガレット>様だ。
私はそんな格上とも言える人物を前に、慌てて頭を下げた。
「勿体ないお言葉でございます。まだまだ跡取りとして未熟でありますので、これから我がグリード家はより一層精進していきたいと思っております。全てはこの国と、次期王である<ライン>様のために。」
そう告げると……ガレット様は満足気な表情でニヤッと笑った。
現在この【ザンガス帝国】を治めているのが、<アース>王。
アース王は、賢き王とも言われる程知力に長けた方であり、他国との小競り合いも攻撃に打って出るより、巧みな戦術による防衛を主にして国を守ってきた方であった。
そのため、こちらから他国に攻め入る事は固く禁止しており、今まで自国でのみの発展を進めてきたのだが、それに異を唱えているのが、公爵家であるガレット様とそれを指示する貴族達だ。
そして志を同じくし、ガレット様たちを導いて下さる存在こそが────アース様の実の御子息である王太子<ライン>様である。
他国を侵略し土地を増やせば、その分国は豊かになれる。
更に周辺には大した防衛力もない国が沢山存在していて、こちらはほぼ無傷の状態で手に入れられるというのに、王はそれを許さない。
それに不満を感じているライン様とガレット様、そして志を同じにしている同志達が、現在一丸となって、国のために動いているのだ。
勿論我がグリード家も、ライン様を支持する家の一つ。
そして現在は、そんなライン様を支持する貴族が集まった内輪のちょっとした交流会を、ガレット様のお屋敷で開いている真っ最中というわけだ。
私は手に持つワインに口をつけ、隣で満足気に微笑む妻<フルート>と目を合わせて笑い合う。
代々王家を支えてきた由緒正しき伯爵家【グリード家】は、王家を守る剣となり、幾度となく国の平和を脅かす敵と戦ってきた。
国を守る【ザンガス騎士団】を除けば、その実力は5つの指には入るという自信もある。
そのため、跡取りの俺には優秀な子孫を残す義務があったため、歴代の当主たちと同じ様に強力な才能ギフトを持つ女と政略結婚をする事になったのだが……。
『始めまして……。サラと申します……。』
顔を赤らめて挨拶する結婚相手を見て、当時の俺は心底ガッカリした。
華などどこを探してもない地味な顔立ちに、薄汚れた泥の様なダークブラウンの髪に貧相な身体……どこにも魅力などない女だったからだ。
俺にとって女は、常に追い続けてやっと手に入れる強く美しいモノ。
周りの目を惹きつける様な美しい外見は勿論の事、気が強く怒鳴り返すくらいの度胸がなければ、追いかける気になれない。
強き男の横には、強き女が並ぶべき。
それに全く合わないサラを早々に見限った俺は、派手に遊び始めた。
そしてその時出会ったのが、当時男爵家であった<フルート>だ。
フルートは美しい顔とセクシーさを合わせ持った非常に魅力的な女性で、気位は高くパーティー会場で迫ってきた男性相手に鼻で笑って罵っていた。
その姿に強さを見出した俺は、直ぐにフルートと口説き落とし、真の妻として扱い始める。
すると、俺に気に入られたい使用人達はこぞってサラに冷たい態度を取り始めたが……それは仕方ない事。
それに抗う事すらしない弱者に居場所はないのは、当たり前だからだ。
それでも素晴らしい才能ギフトは持っていたため、一応子供は一人作った。
それが<ルーク>。
しかしルークは幼き頃から、母親と同じく弱者を思わせる気質を持っている腰抜けであり、半年前に生まれていた優秀なフルートとの双子の子供、ライアーとスティーブと比べるまでもない子供であったのだ。
やはりどんなに血統は良くとも、所詮は弱者が産んだ子は弱者か……。
俺はルークもさっさと見切りをつけ、戦闘の素晴らしい実力を持って生まれてくれたライアーとスティーブを我が子とする事にした。
そのため、法律的に跡取りになってしまうルークは邪魔者。
早々に病気に見せかけ始末してしまおうと考えた。
完璧なグリード家。
そんな我家の汚点は、完全に消してしまわねば……。
直ぐに実行に移そうとしたのだが、それに待ったをかけたのがフルートだった。
「始末するのはもう少し待ちましょう?ライアーとスティーブが【聖グラウンド学院】に入学するくらいまでが、いいかしらね。」
「?なぜだ?────あぁ、ちょうど息子達とアレが15歳になって、才能ギフトを鑑定するからか。
仮にアレに良い才能があれば、どこぞやの令嬢に婿入りさせて人脈を作れるからな。
少しは我が家の役に立つ。」
「────フフッ、流石は私の主人ね。こうして話が早いのは嬉しいわ。でも……それだけじゃないの。」
「……ほぅ?では、他にどんな目的が?」
フルートは、真っ赤な唇を大きく歪めて笑うと、俺の耳元に顔を近づける。
「明らかに劣っている存在を置いておけば、愛する息子達のモチベーションが上がるしょう?
自分のいる場所がどんなに素晴らしい場所か、それを理解しやすい環境を作ってあげる事も、親の努めだわ。
敗者の惨めな姿を見せて、息子たちを楽しく学ばせてあげましょうよ。
そして二人の輝かしい未来が見える学院の入学前に……完璧な家族に戻ればいいわ。」
「フ……フルート……お前……っ。」
俺はフルートの話を聞いて、ブルブルと震えてしまった。
────感動で!!




