(ルストン)15 卑怯者は……
(ルストン)
……ドッ……ドッ……ドッ……。
突然心臓の音が嫌に大きく耳に響く。
「……ハァッ……!……ハァッ……!……ハァッ……ッ!!」
そしてそれと同時に自分の息も荒くなっていくと、特に痛む顎辺りを押さえたが……顎の骨は折れているのか、大きく腫れてコブの様になっていた。
恐らく先程、ルークは俺の顎にアッパーパンチを食らわせ、その後横から蹴ったのだと思われる。
「────ま、待てっ!!お、お、お前……本当にル、ルーク……なのか?!!だって……あまりにも……っ!!」
「んん〜?そうそう、俺は正真正銘ルークだよ〜ん。アンタの正式な息子だよ。お父様〜?────で、降参って事でいい?」
ルークはうっすら笑みを浮かべながら近づいてくるので、俺は反射的に身体を強張らせてしまったが、それでも怒りによって必死にそれを押さえた。
だってルーク如きにこの俺が……このグリード家当主の俺が、怯えるなど許される訳が無い!!!
「────くっ!!!」
俺は上着の裏ポケットに装備してある小さな小瓶型の回復薬を飲み干すと、直ぐに体から痛みが引いていく。
< 回復薬 >
自身の体力値を回復し、現在の怪我を直す事ができるアイテム
ただし、その性能はピンからキリまであり、レベル1〜レベル10まで存在している
レベル1が最低ランクでレベル10が最高ランク
痛みが消えた事で少し冷静さを取り戻す事ができた。
これは恐らくルーク本人の力ではない。
きっと何かとんでもないアイテムでも手に入れたに決まっている!
「フッ……なら、先程の戦いで使い果たしたに違いない。
戦闘用アイテムは基本使い捨て……恐らく使用人の誰かがそれを横流しでもしたんだろう。
……裏切り者め!あとで犯人を探し出して必ず殺してやるからな。」
血と涙で顔を濡らしたまま下を向いている使用人達を睨みつけた後、俺は余裕そうに立っているルークに視線を向ける。
「この卑怯者め。戦いとは純粋なモノであれ。
そんなアイテムを使い、勝った気になっているなんて憐れなモノだな。
真の強者とは、己の腕のみで相手をねじ伏せる。お前は────……。」
「ごちゃごちゃうるせぇな〜。弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったもんだ。
キャンキャン鳴いてないで、さっさとかかってこいよ。犬ころが。」
俺の言葉を遮り、心底面倒くさそうに言い放つルークに……俺の額の血管はプチンと切れた音がした。
「がぁぁぁぁぁぁぁ────ッ!!!!!」
俺は大きく剣を後ろに引いて、そのままスキルを発動すると、剣がキラキラと青く輝く。
【剣匠人のスキル】
< 水世剣 >
剣に水属性魔力を付与し、物理属性ダメージと魔法属性ダメージの両方を相手に与える事ができる攻撃系スキル
(スキル条件)
一定以上剣と水属性魔法による熟練度があり、一定回数以上剣と魔法の両方で勝利する事
これなら物理も魔法も両方のダメージが与えられるため、相手がどんな手を使ってこようが、完全に防ぐ事は不可能!
勝利を確信した俺は、ニヤッと笑いながら剣を地面に突き刺した。
すると、地面から剣の形をしている水の塊が一斉に飛び出し、ルークを襲う。
「ハ〜ハッハッ!!全身串刺しだぁぁぁぁ!!!」
穴だらけになったルークの姿を想像し、大きく口元を歪めて笑うと、絶体絶命のはずのルークは……ニヤッと笑った。
「へぇ〜魔法って結構なんでもありな力なんだな。こんな事もできるのか。
でも、こんな水遊びじゃ〜俺は殺せねぇよ。」
ルークは足元に落ちていたライアーの剣を足で蹴り上げ、右手でキャッチすると────自分に向かって飛んでくる水の剣をアッサリと切り裂いていく。
「────はっ……??」
目の前で起こっている事が理解できず、ポカンと口を大きく開いて次々と消えていく俺の水の剣達を見つめていた。
そして最後の水の剣が消えた瞬間……俺は腰を抜かしてその場でへたり込む。
「ば、ば、ば、馬鹿な……。あの無能が……俺の……スキルを…………。」
到底信じられない出来事を前に、頭の中はパニックを起こして、今までの自分の栄光の記憶達が頭の中に蘇っていった。
生まれながらのエリートとしての道を歩んできた俺の人生。
誰もが俺を褒め、認め、正しいと言ってくれる絶対正義を持つこの世界の事。
「こんな事……あり得ないっ!き、貴様ぁぁ!!一体どんな反則アイテムを使った!!
この卑怯者がっ!!!恥を知れっ!!! 」
「卑怯者……ねぇ?」
いつの間にか目の前にいたルークは、それはそれは冷たい目で俺を見下ろし、そのまま俺の顔にストレートパンチを打ち込む。
「────グゴっ……っ!!!!」
ゴキッ!という音が鼻から聞こえ、更に暖かい液体が鼻から流れたのを感じると、どこか遠い所で、『あぁ、鼻が折れて鼻血が出たのか……。』と思った。
「ひっ……あ・あ・ぁぁぁぁぁ〜…………っ!!」
初めて見る自分の鼻血を呆然と見下ろしていると、突然髪の毛を鷲掴みにされ、無理やり上を向かされる。
「────ふざけてんのか?お前。」
「────ひっ……っ!!」
感情が一切感じ取れない『無』の目で睨まれ、たまらず悲鳴をあげてしまった。
しかし、無感情でありながら体中を刺されるような感覚に晒され……そこには確かな殺意がある事に気づくと、自然と震えが止まらなくなる。
そんな俺を、やはりルークは静かに睨みつけていた。
「明らかに力の劣る子供を、お前の様な大人が虐げる事は卑怯じゃないのか?
暴言と暴力で全ての選択を取り上げ、機会も取り上げ、言葉も取り上げる……。絶対に勝てる相手だけを狙い自分を強く見せる方が、俺は卑怯者だと思うがな。
心底弱くて情けない野郎だ。お前は。」
「ひ、卑怯……?弱い……?こ、この俺が……っ??」
初めてぶつけられた暴言により、今度は怒りで体が震える。
だって俺は、なにも間違った事などしていない!
俺は生まれながらに地位も才能も与えられた選ばれし存在なのだから、それ以外のモノをどう扱おうが別にいいのだ。
それが世界の正しいルールなのに……っ!!!




