(ルストン)14 無能なルーク
(ルストン)
「な……な……ななな……っ。」
「き……きゃあぁぁぁぁ!!!」
俺が呆然としながらその惨状を見つめると、隣に立っている妻フルートが悲鳴をあげた。
「ラ、ライアー!!スティーブ!!────あぁっ!!なんてことっ!!!こんな……こんな……っ!!」
パニックを起こしているらしいフルートの横で、俺は冷静に現状を把握し始める。
原型を留めないくらいボコボコになった顔で、更には全裸という屈辱的な格好で吊るされている我が息子ライアーとスティーブ。
周りにはやはり同じ顔をした屋敷の使用人達全員が、自ら泣きながら男は裸に女は坊主になっていく、そんな異様とも言える姿を見回した後────視線をライアーとスティーブが吊るされている木の方へと視線を戻す。
すると……二人の前には一人の少年が立っていて、こちらをニヤニヤしながら見ていた。
「……まさか……お前が何かしたのか?ルーク。 」
「あぁ、したぜ〜。暇つぶし♡」
手に持っていた木の実をポンッと投げて、ライアーの下半身のモノに当てるとライアーの下半身からはポタポタと黄色い液体が流れ出す。
それを見て、ルークはゲラゲラと下品な声をあげて笑い出した。
「おいおいオムツは卒業したんじゃねぇの〜?また漏らしたのかよ!せっかくの暇つぶしも、これじゃ〜楽しめないよな〜。
遊びも満足にできないなんて、なんだコレ?
まともな教育を受けさせてもらえなかったのかな?親の顔が見てみたいわ〜。
────あ、そういえばお前らが親だったっけ?」
「────っ!!!き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一瞬で怒りは頂点に達し、腰に差している剣を抜いて俺はルークに斬りかかる。
どうやったのかは知らないが、完璧な存在である自分、そしてそんな完璧な自分の子供である息子と我が屋敷に仕えている使用人達が害されたのだ。
それは到底許されない事である。
ましてやこんな無能なゴミクズが、グリード家の当主であるこの俺に舐めた口を聞くなどあってはならない事!!
怒りで真っ赤になった目で睨みつけながら、ルークの首に向かい剣を振った────が……?
「……??あ、あれ……????」
気がつけばクルンッと視界が回り、沢山の星が輝く夜空が目の中に一杯に広がった。
なぜ夜空が……?
その理由が分かる前に……腹に強烈な打撃が与えられ、口からは悲鳴が上がる。
「────っがぁぁぁぁッ!!!」
「息子と同じ、ただ早いだけの大ぶり攻撃。これで伯爵家か……この世界にまともに戦えるヤツ、いんのかな?」
自分の悲鳴の合間にルークの呆れた様な声が聞こえ、ハッ!として俺は直ぐに飛び起き、一度大きく後退した。
そしてズキズキ痛む腹を押さえ、俺はまだ唖然としているフルートへ尋ねる。
「な……何が起きた……?俺はルークの首を落とそうとしたのに……一体何が……?」
未だに何が起きたのか分からない俺に代わり、フルートは小さく震えながら答えた。
「と……特別な事はなにも……。貴方の剣を避けて……そのまま足を払った……??みたいで、気がついたら貴方の方が仰向けに倒れていたわ……。その後は、倒れている貴方の腹をアイツが踏み潰して……。」
「…………っ??!」
まるで化け物を見るかの様な目でルークを見つめるフルート。
私はその話を信じられない気持ちで聞いていた。
だってアイツはルークだぞ?
あの戦闘系の才能など皆無であった無能なルークだ。そんな無能がこの俺に攻撃など……。
同じ事を考えているだろうフルートは、「あり得ない……。」「無能がどうやって……?」とブツブツ呟いている。
そうして緊張が走るこちらとは反対に、ルークは呑気な声でこちらに向かって話しかけてきた。
「お〜い?これで終わり?もう降参って事でいいの?」
「〜っ!!ふ、ふざけるなよ?!!ちょっとまぐれで避けたからといって、調子に乗るなぁぁぁぁ!!!」
スキル<身体強化術>を発動し、更にもう一つ俺はスキルを発動する。
【剣匠人のスキル】
< 剣人のオーラ >
剣による攻撃の威力が上がる攻撃強化系スキル
(スキル条件)
一定以上剣による熟練度があり、一定回数以上剣で勝利する事
「一体どんな手を使ったのかは知らんが、我が息子達と仕える使用人達にした所業の数々、許される事ではないぞ!
お前の様な無才能の弱者は、才能ある我が家のために生き、我家のために消えるべきだ。
『役立たずの無才は、存在する価値はなし。』それが人としての、正しい世のルールであろう!!」
「……ふ〜ん。いいんじゃね?それがお前の考える正しい世のルールなら。」
耳を指でほじりながら、こちらの言う事を全く聞いてない様な舐めた態度に……俺はキレた。
「このクソガキがぁぁぁぁぁっ!!!」
────ダッ!!!
最速級のスピード!
こんなスピードを出せるのは、それこそ選ばれしエリート集団である一握りだけ。
現にルークは俺のスピードについてこれないのか、目の前まで一瞬で移動した俺に目もくれず、呑気に耳に入れていた指に息を吹きかけていた。
俺はそれを見下ろしニヤァ〜!!と大きく顔を歪めて笑う。
コイツは無能な母親から生まれた無能で無価値な存在!
そんなゴミの役目は、息子達にいい環境を与えるための道具、かつ俺達全員のストレス解消の道具である事で、グリード家の結束を強めるという点では役に立ったが……それももう無用なモノとなった。
「ハッ〜ハッハッ!!消えろ!!無能な弱者が!!」
振り下ろした剣で、ルークを真っ二つに────なったと思った瞬間、突然顎に軽く何かを当てられた感覚がし、更に身体が大きく上へと持ち上がっていくのを感じる。
「……?あ……ん??」
そして自然と背がしなり、のけぞる形になると……視界はまたしても変わり、星が輝く夜空が見えた。
な、なんでまた夜空が……???
そう思った瞬間、その景色はグニャグニャと歪み、足から力が抜けると……いつのまにか俺の横に歪んだ形のルークがいる事に気づく。
「100点中3点。一応息子より上だぞ、良かったな。」
────ドカッ!!!
どうやら横の腹を蹴られた様で、バキバキッ!!と肋が何本かイッた音が聞こえる。
「────……っかっは……っ!!」
続けて与えられた衝撃に耐えられず、口からは息が詰まる音が漏れ、そのままふっとばされてしまった。
「え……え……え……???」
すごい早さで変わる景色の中、フルートのポカンとした顔が見えたが、それも一瞬で消えて、後方に停まっていた馬車に激突する。
「な……なにが……??」
見事にバラバラに壊れた馬車の残骸の中、全身を襲う痛みに耐えながらなんとか上体を起こすと、傷一つない状態で……ルークは俺を静かに見ていた。




