118 王子様とお姫様
(ルーク)
「いや〜建物内も凄いけど、魔法って本当に便利なんだな〜。
さっきの変な水晶もそうだけど、こんなモンまで魔法で補えるなんて。」
俺は手に持っている魔法陣が書かれたカードをプラプラと振る。
これは魔法によって個人情報が刻み込まれたカードで、受験生にあらかじめ配られていた物だ。
これがないと試験は受けられないらしい。
前世の世界では、魔法ではなく科学の力が進化した世界だったので、こういったセキュリティー系のモノは沢山あったが、魔法となると原理がサッパリ分からない。
そのせいか、未だに俺は魔法というモノを上手く扱う事ができなかった。
「ん〜……セブンいわく、聖グラウンド学院は、それぞれの個性を評価するって言っていたし、大丈夫だろう。……多分。」
正直座学と魔法は自信なし。
だが、どうやらこの学院は総合点だけで合否を決めるのではなく、それぞれの特化した能力値で合格を決めると聞いた。
「とにかく頑張ろう、拳で。うん。」
やる気に目を光らせ目的の部屋につくと、ドアの前には数人の教員らしき男女が立っていて、カードの提示を指示してくる。
そのため素直にそれを差し出すと、そのカードから小さな魔法陣が浮き上がり、それを見た教員はニコッと笑った。
「グリード家のルーク様ですね。お待ちしておりました。それでは中へお入り下さい。」
事務員たちの後ろには、大きな扉がありそこへ手を差し出してくれる。
「ありがとう。」
お礼を告げて扉に手を掛けると、僅かにぶつけられる殺気に気づき、振り返った。
すると、その殺気をぶつけてきた教員らしき男は慌てて視線を外したので、俺はまぁいいかと思い、前を向き直す。
多分、『グリード家』という名が出た瞬間に睨んできたので、ルークの父や母に何か関係する誰かだろうと予想した。
あの二人がまだ諦めてないならアッパレ。
お次はどんな手で来るんだか。
ニヤァ〜と悪い顔で笑いながら部屋の中に入ると、もう既に沢山の受験生達がいて、それぞれ席について談笑したり、本を見ていたりと各々好きに過ごしている様子だ。
「席は自由席か。空いている席は〜……。」
非常に広い部屋の中をキョロキョロと見回していると、見知った顔を見つけ『お?』と目を僅かに見開く。
向こうは俺をまるで殺さんばかりに睨みつけていて、随分と元気そうな様子にニッコリ笑いながら片手を挙げた。
「よぅ、久しぶりだな〜。怪我はもうすっかり良くなったみたいで安心しました〜。ライアーお兄様とスティーブお兄様?」
「…………っ!」
「〜〜っ!!」
俺の挨拶に対し、二人は憎々しげな目で睨むだけで返事はなし。
戦う力を持たない俺ではないルークを虐めていた悪ガキ二人は、あれだけやり返されたというのに、俺への憎しみの火はまだ消えてない様だ。
その負けん気はよし。なので今後はぜひぜひ真っ当な人生を謳歌して頂きたい。
ただし、また周りに迷惑かけたらぶっ飛ばすけど。
ギラギラとした目で睨んでくる二人にニッコリ笑顔を見せた後、俺は少し離れた場所に空いている席を発見し、そこに着席した。
すると────誰かが入ってきた瞬間、突然教室内に緊張が走る。
「<オーティス>様と<エヴァ>様だ……。」
「堂々とした立ち姿……なんて素敵なのでしょう。」
どうやら王族の二人が入ってきた様で、その事で周りの貴族である受験生達は緊張した様だ。
攻略対象の一人と悪役令嬢の一人……流石はゲーム上の主要人物といえる二人、全身に纏うオーラはモブでは決して出せない存在感をビンビンと周りに振りまいている。
「流石〜。やっぱり違うな、主要キャラ様達は。」
周りに聞こえない様、ヒューヒューと口笛を吹きながら、入ってきたオーティス様とエヴァ様とやらをコッソリ観察した。
最初に入ってきたのは、勘違い暴走王子様の<オーティス>様。
パッと目を惹く容姿は流石で、キラキラ太陽をイメージさせる輝く様な鮮やかな金色の髪、センター分けのミディアムショートヘアーで爽やかさもアゲアゲ。
身長はそれなりに高いが、体格は筋肉質という感じではなく程よく締まっている感じで、外見はザ・王道王子様という感じ。
そんな王子様風なオーティスさん、頭も勿論いいのだが……。
「……ちょっとだけ周りが見えなくなる事が多い迷惑キャラなんだよな〜。」
汗を一筋タラっと垂らしながら、密かにため息をついた。
オーティス王子様は、このまま行けばリリスにベタ惚れになり、結構な問題を起こしまくるトラブルメーカーになる。
果たしてその通りに進んでいくのか、これはリリスの行動次第になると思われるが────……。
「良い予感はしねぇな。」
思い浮かぶのは、初めてリリスに出会った時の事。
正義感に溢れ、心に迷いがある攻略対象達を救っていく清らかな乙女……のはずの、主人公リリス。
それが何故かどす黒いトルネードの様な捻くれ少女になっていた。
「アレと暴走王子……嫌な予感しかない。」
痛む頭をいたわる様に優しく擦りながら、今度はオーティスの後ろを歩くエヴァ王女様を見た。
オーティスと同じ鮮やかな金色の髪は腰までの長さがあるサラサラストレートヘアーで、歩く度に風に靡いてキラキラ輝いて見える。
色白で華奢な体つきからは、『戦闘』というイメージが沸かないが、漂う魔力反応はかなり大きく、多分一般兵士くらいの実力なら瞬殺されるレベルかもしれない。
美しい顔は思わず二度見する程で、切れ長の目元やニコリともしないで歩く姿は近寄りがたい高嶺の花を連想させる……まさに、元祖クール系美少女!といったところだろうか。
「とんでもねぇ美少女〜。これがジョアンルートの悪役令嬢様にねぇ?」
あまり熱量が高い『恋愛』という感じのイメージが当てはまらず……つい考え込んでしまった。
エヴァはジョアンルートにて、ジョアンを『1番理解している女性』として登場する。
『私達は同志。アナタの言葉はジョアンを地獄へ送る言葉なの。』
そう言ってはジョアンにケンカップル的な態度で近づくリリスを、幾度となく妨害するのだ。
「『同志』か……どういう意味で言ったんだろうな?まぁ、このへんはよく分からん。」
疑問には思ったが、それはモブ的立場にいる俺が知る事はないだろうと思う。
モブな俺にできることは、せいぜい見守るくらいか。
オーティスとエヴァが揃って隣同士で着席した所で、ちょうど試験官らしき者達が入ってきたため────俺は全意識を集中し試験に望んだ。




