(カーター)107 駄目だこりゃ
(御者の男:カーター)
こんにちは!
僕はグリード家お抱えの御者<カーター>!
糸目のお目々がチャームポイントな僕は、御者になるにはとても優れている才能ギフトに恵まれていたため、運よく伯爵家グリード家のお抱え御者の座につくことができたのだけど……希望に満ちあふれていたのは、グリード家に務めた初日までだった。
『俺に従え、そして俺のために死ね。それが当たり前だろう?』な当主のルストン様。
『私は世界で1番美しいぃぃ〜!だから皆、私にひれ伏すのが当然でしょ?』なフルート様。
『俺達は神に選ばれた愛し子!地位、才能、顔、全てが最上級の上位種。だから他の下位種は全部俺達に捧げろ!』なライアー様とスティーブ様。
そんな馬のウンチよりも遥かに最悪なグリード家の人達に夢も希望も砕かれたが、この時はまだ、自分の意思はあったと思う。
その当時、正妻であった<サラ>様と、正式なグリード家の御子息であった<ルーク>様。
ルストン様から完全に無視され、更に堂々と正面からやってきた愛人のフルート様には酷い意地悪をされ……更にはそんな両親のミニチュア版であるライアーとスティーブ様にもバカにされて虐げられる。
そして『強い者の味方』の様な執事や侍女達は、競い合う様に嫌がらせをしていたのだ。
なんていうかさ、最初はその異様な世界に心の底から恐怖したし、可哀想な二人を救いたいという気持ちもあった。
でも、人間って、どうしようもできない巨大な『悪』の前では、心はどんどん麻痺して楽な方楽な方へと流れていってしまうんだよね。
だから何をされても耐えるだけのサラ様とルーク様も、きっと俺達と同じ様に無駄に戦うより耐えるのが1番楽だったから流されて、自分を救おうという気持ちもなくなってしまったのだと思う。
そして僕も救いたいという気持ちより、段々とこのままサラ様達が虐げられている状態の方が楽だし、これが当たり前なんだと思う様になっていった。
だって虐められている張本人がさ、いいって言っているんだ。
それに、自分を救おうとしない人を、なぜ他人の僕達が自分が損してまで助けないといけないの?
戦おうとしないサラ様達も悪いじゃん!
最初に感じていた助けたいという気持ちも助けられない罪悪感も、全てはこの言い訳によって消えていく。
要は、この言い訳に逃げていたって事だ。
心を持ち続けるには苦しかったから。
しかし、そこでこの世界全てを壊す者が現れた。
それがなんと虐められても耐え続けていたルーク様だ。
ある日、毎日の日課(?)であるルストン様とフロート様のパーティーからの帰宅後、僕はとんでもないモノを見る。
顔を大きく腫らし全裸になっていく執事や他の使用人達に、同じく美しい顔を腫らし、坊主になっていく姿。
更にあんなに普段えばっているクソガキ……いや、ライアーとスティーブ様二人も、裸にされて木から吊るされていたのだ。
とてもじゃないけど現実だと思えない!
「…………。」
ポカン……とその光景を棒立ちで見つめる僕。
しかしその後、僕の馬車がぶっ飛んできたルストン様によって破壊されると、その破片が勢いよく僕に直撃し、顔や胴体に大怪我を負う。
まるで焼けた棒を当てられている様な痛みのせいで、「ヒィヒィ……!」と悲鳴を上げたが、こんな僕などお構いなしに、全裸&坊主になった使用人達は全員、屋敷の外へと歩いて行った。
流し流されここまで来た僕。
もれなくコレにも流され……気がつけば痛みを抱えたまま全裸でずらりと並ぶ使用人達に混ざって3日間、屋敷の前に立ち続けたのだ。
その間、そりゃ〜もう!
ジロジロ、ジロジロ、ジロジロジロ〜!!と街の人達から見られる見られる!
使用人の半分くらいはルストン様やフルート様の愛玩用で、元は平民だったという者達も多く、彼らを知っている者達など指を差して「ざまぁ〜☆」「いい気味〜!」と言う者達まで多くいた。
それだけで、どんな人生を送ってきたのか分かる様な気がして、そんな奴らと同列に並んでいる自分に心は奈落の底まで落ち込む。
真面目に生きてきたつもりだった。
普通に生まれて才能が判明したら努力して努力して……やっとこの地位について、今まで『幸せ』にやってきた。
幸せに幸せに────…………??
そこで頭を過ったのは、自分達がやってきた事。
そして今まで『悪』だと考えていた行為を当然だと考えていた自分の事だった。
あれ……?僕、悪いヤツじゃん。
突然冷静になった脳みそが、今の自分を冷静にジャッジする。
すると、自分が『悪』と捉え、それを不快と憤りを抱えていた過去を思い出し愕然としたよ。
だって自分がそれになっているんだもん。
ビックリしたよ。
大人数位で『正しい』と認定される事は、どんなに自分の心が『悪』だと思っている事でも、こんなにアッサリ『善』になるのか!
それが本当に衝撃的で、体の痛みに加えて心の痛みもプラスされるモノだから、本当に3日間は地獄の苦しみを味わった。
その間も、あっさりと変わってしまう自分のちっぽけな正義と、直ぐに楽に流されてしまった心の弱さに打ちのめされ……その後は、こんなおかしな世界を完膚なきまでにぶち壊したルーク様に強烈な憧れを抱く。
凄いな凄いな!
僕が直ぐにひれ伏した世界の中、立ち直って、さらにそれを壊すだなんて!
この時立たされていた者達は、二分化していて、一つは僕同様、本来持っていた正義の形を思い出す者達と、自分の居心地のいい場所を壊され嘆き悲しみ、それを壊したルーク様を恨む者達だ。
「く、くそ〜……っ。このまま人生イージーなままのはずだったのにぃぃぃ〜……っ。
これからどうやって生きてきゃいいんだよぉぉぉ〜……。」
「私の顔……顔が……髪が……。なんで……なんでよ……。私はただ『幸せ』に暮らしていただけなのにぃぃ〜……っ。これじゃあ、もう良縁なんてこないじゃないっ。
ルーク様さえ大人しくしていてくれたなら今も……。」
こういう人達を見て思うのは、『もう駄目なんだな。』という事。




