101 独裁者の果て
(ルーク)
《ガ……っ……!!??ガ……アガガガガッ……!!》
ドン・スネークの体はまるで雷に打たれたかの様に痙攣した後、そのままムックリと起き上がった。
「な……なんですか……?あの体は……っ。」
「さぁ?分からん。」
目に映るドン・スネークの体は、先程とは打って変わった外見をしており、目は血走って真っ赤だし、巻き付いた黒いミミズの様なモノ達は完全に皮膚と同化していている。
ドクン……ドクン……と波打つソレは、まるで血管の様だ。
「なんか明らかにヤバそうなイメチェンなんだが……。これはゲリーの奥の手的なヤツ?」
疑惑の目をゲリーに向けてやったが、ゲリーはというと俺の視線など完全無視で、変化したドン・スネークを見上げ、また大声で笑っていた。
「ハハハッ!なんだか分からんが、まぁいい!!ドン・スネーク、奴らを殺せ!!皆殺しだぁぁぁぁぁ!!!!」
ゲリーは上機嫌で俺とジョアンを指さしたが……ドン・スネークの視線はゲリーに向いたまま。
この時点で嫌な予感がしたのだが、ゲリーは気づかず怒りに顔を赤らめ怒鳴り散らす。
「おい!聞いているのか!?さっさとアイツらを殺せ、このデカいだけの役立たずが!!
お前は俺の道具なんだから、役に立たなきゃ存在する意味がないんだぞ?!分かっているのかっ!!この愚図!ノロマ!!木偶の坊!!」
《…………。》
ドン・スネークは静かにゲリーを見下ろしていたが────……やがて大きな口を開けて、ゲリーに向かって飛び掛かる。
「────っ!?う、うわぁぁぁぁぁ!!!」
ゲリーは悲鳴を上げて間一髪逃れたが、どうやらわざと避けさせた様で、ドン・スネークはネズミで遊ぶ猫の様に目を三日月型にして笑っている様に見えた。
「パワハラ上司にブチ切れたか〜?でも、契約モンスターって、ああやって突然契約者に襲いかかれるモンなのか?」
「あ……は、はい……。確かに契約コストを払えない場合、モンスターの自由意志が優先されますので……。
しかし……やはりおかしいです。あの黒い虫の様なモノは、明らかに異質なモノの様な……。
それに今のスピード……さっきとは別物の様です。明らかにパワーアップしている……っ。」
俺が考えるより遥かにモンスターとの契約は、公平なモノらしい。
それは理解したが、あの黒いミミズみたいなモノに関しては、ジョアンも知らないとの事。
「……別の誰かのスキルか?強化系の……??」
ある可能性を考えている間に、ゲリーが転んでしまい、その下半身をドン・スネークがパックリと咥えた。
「ぎっ、ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」
ゲリーは激痛を訴え悲鳴を上げたが、ドン・スネークはゲリーごと頭を持ち上げそこから少しづつ少しづつゲリーを飲み込んでいく。
「ひ、ヒィィィィ!!!」
ゲリーは痛みと恐怖に錯乱しながら、自分を飲み込んでいくドン・スネークの頭をがむしゃらに殴りつけていたが、その動きは止まらない。
すると目の前にいるジョアンに向かい、手を伸ばした。
「た、助けてくれぇぇ!!頼むぅぅぅぅジョアン!!父を助けてくれるよな?なっ?頼むからぁぁぁぁ……っ!」
「…………。」
ジョアンはただジッ……とゲリーを見つめ、何も答えない。
多分それがジョアンが示した答え。
それを悟ったのかゲリーは顔色悪くガタガタと震えながら、今度はスクリーンに映るローレンの方へと今度は手を伸ばした。
「ロ、ローレン!俺を助けろ!お前は俺を愛しているもんな?ご、誤解はあったが、これからはもう少し優しくしてやる……だからっ!!」
ローレンはそんなゲリーを静かに見つめ────ゆっくり口を開く。
「私がアナタの言う事を聞いていたのは、貴族として母親として街民とジョアンを守るため。それが何より優先されるモノなの。
だからアナタを助けない。……分かるでしょ?」
ローレンの答えを聞いたゲリーは、絶望に顔を大きく歪めながら、涙と鼻水、そして沢山の血を吐き出しながら、自分を見つめる沢山の目に向かって泣き叫んだ。
「あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁッ!!!!だ、誰でもいいからだずげでぇぇぇぇぇ死にたくない”い”い”い”ぃぃぃぃ!!!!あ、あ、あ…………俺はゲリー……様……せ、せっかくここまでのし上がってきたのにぃぃぃぃ〜……ッ!!
くそっくそっくそっ!!アァぁぁぁぁぁっ!!!」
最後は自分が犠牲にしようとしていた街民に手を伸ばすも、街民達の目はとても冷たい。
ゲリーは絶望の中、必死に体をくねらせなんとか食べられまいと踏ん張っていたが……その抵抗は虚しくドン・スネークの口の中にゆっくりゆっくりと消えていった。
すると、姿が見えなくなった後、ドン・スネークの中から少しの間悲鳴が聞こえたが、それも聞こえなくなると、ジョアンは少しだけ辛そうに下を向く。
「……さようなら。」
その心中は複雑だと思ったから、あえてそれは聞かなかったフリをして、俺は残されたドン・スネークを見つめた。
そいつの目はスクリーンに映る人々と俺とジョアン、全ての者達に向いていて、その奥にどんな想いがあるかは……ダラダラと口から垂れるヨダレの様な液体を見れば一目瞭然だ。
ヨダレは床に落ちる度、シュ〜……シュ〜……と音と煙を出しながら床を溶かしている。
「食いしん坊の大ヘビだな。……いや、もう別物か?気配が完全に別物になっちまったみたいだな。」
体に巻き付いていた黒いミミズもどきは、どんどんと太くなっていき、まるで本体を乗っ取る様に体を覆うと、なんと真っ黒な体を持つヘビへと姿を変えてしまった。
「こ……これは……っ。またステータスが一気に上がって……?」
《普通に存在するモンスターじゃなくなっちゃった……。この力は……。》
姿形だけではなく、パワーUPまで果たしたらしいドン・スネーク。
俺にその微細な変化は分からないが、確かに元の面影はなくその目には既に一つの意思しかなくなっているのは分かる。
『────食べたい』
《シャァァァッ!!!!》
「────っ!」
《あ……!》
凄まじい速さでコチラに向かって突進してくる黒いヘビに、行動が遅れたジョアンとフェイス。
気がつけば大きく広がる口と、いつの間にか生えたのか、立派に生えている二対の大きな牙が目の前に迫っていて────……。




