(ジョアン)99 力
(ジョアン)
手のひらが焼け焦げ、そこから焦げ臭い匂いが鼻に入る。
痛い。
熱い。
苦しい。
それでもその手は離すことはできないと強く誓い、僕はその場に踏ん張り続けた。
「ここで僕が避けたら全部失う……そんなの嫌だっ!!」
しかし強い決意とは裏腹に、やはり加護付きの攻撃は重く、このままでは長くは持たないと悟る。
どうすれば……。
どうすればいい?
証拠は謎のスクリーンのお陰で十分に揃った。
あとは、僕一人の命で足りるなら────……。
『間違ってはないが、それじゃあ〜下を守る事もできないな。
お前は無力。戦う力がない生まれたての子鹿みたいなモンだ。
そんな弱いヤツは、そもそもこの無常な世の中で何も守れんのよ。残念ながら。』
不意に先ほどルーク殿に言われた言葉が思い浮かぶ。
的確に自分の心を打ち抜く言葉で、何も言い返す事はできなかった。
「僕は……弱い……一度もモンスターは答えてくれなかった……だから……力がない……。」
自分の無力さに対する悔しさに唇を噛みしめると、ルーク殿に言われた言葉を更に続けて思い出す。
『だったら、それをどうにかしてくれそうなヤツにめちゃくちゃ頼んで、助けを乞うしかない。
それが今、お前が選べるベストな選択肢じゃねぇの?
自分でできねぇ事は人を頼る、やってもらう。それで世界は回ってんだ。
全てができるヤツなんて世の中にはいないからさ、だから足りない分は他のヤツに頼んでやってもらって……いつか他の誰かを助けてやればいい』
下を向いていた視線を上に上げれば、スクリーンの中で、街民達が必死に戦っていた。
自分にできない事は他の人達が頑張ってくれている。
だから僕はそれに答えて、自分は自分のできることを頑張る、それだけだ。
「……ぐ……うううぅぅっ〜!!」
後ろに押し出されそうになっている腕を、必死に前へ前へ。
手が溶けたって、この手は後ろに下げるものか!
「……絶対に……絶対に、負けない……ぞ。僕は────……。」
《────ジョアン!》
踏ん張る自分の眼前に、突然小さな女の子が現れ自分の名前を叫んだ。
「────っ!!??」
驚き過ぎて咄嗟に手が落ちそうになったが、必死に耐えてその女の子をジッと見つめる。
手のひらサイズくらいの小さな女の子……どうやら人間ではなさそうだ。
「き、君は……?」
謎の女の子は、自分をポカンと見つめる僕を見上げ、キラキラ輝く目で僕に話しかけてきた。
《私は<フェイス>!【創造の精霊】!
ねぇねぇ、私と契約して!そしたら【創造の加護】をあげる!》
「は、はぁ!???」
精霊!?ま、まさか……!!
「あ、アナタ様は精霊様……なのですか……?」
《様だなんてつけないで!フェイスでいいよ、これからパートナーになるんだから。》
えっへん!と胸を張って宣言するフェイス様に、僕は更に目を見開いた。
「ぼ、僕と契約して下さる……?そんな能力、僕には……。」
《んん〜……確かに今は全然レベルが足りないから、契約コストは必要かな!だけど……ジョアンは強いよ。
だから私は呼ばれたの。それって凄い事なんだ!》
契約コストは召喚した相手との契約を望む場合、下のレベルの者が上のレベルの者へ支払う代価のようなモノ。
それは同じではなく、相手毎に違うと聞く。
「……僕は強くなどありません。今まで母を盾に後ろでずっと隠れていた腰抜けですよ。
精霊様と契約する権利など……。」
今までの自分がどういう生き方をしてきたかを思い出せば、とてもじゃないがそんな資格はないと思った。
しかしフェイス様は首を横に振る。
《負の称号を自分で吹っ飛ばせるのは強い証拠だよ。
【黒心色】は消えて、【&$%#のピース】が新しくついてる。
それは強くないとつかないモノだよ。ジョアンの今までの努力が認めてもらえたからだね!》
「??な、なんて???」
称号?
黒心色?
更には発言が何故か理解できない【&$%#】???
サッパリ意味が理解できず黙る僕に、フェイス殿は僕の鼻先を触る。
《私の契約コストは、『その強い心を失くさない事』!
それってこの世界の中で持ち続けるのは、とってもとっても大変で辛い事だと思う。できる?ジョアン。》
「僕は……。」
ずっとずっと、今の自分の置かれた状況が辛くて悲しくて……自分の思考全てを手放してしまいたいと思った事もあった。
でも、それがどうしてもできなかったのだ。
自分をかばい続ける母様のため、貴族として守らなければならない街民の存在、義務、責任……その全てが僕の足を止め続けた。
だから努力する事は止めずに辛くとも『いつか』を想い、心をしっかりと持ち続けてきたのだが……そんな努力を強さと呼び、更にそれによって契約したいと言ってくれる精霊様が目の前にいる。
それは、何よりも自分の今までの人生全てを肯定してくれる事だ。
「フェイス様、僕は誓います。これから先、何があっても今持っている心を持ち続けると。
そして、この無情で厳しい世界の中、そのために努力し続けると誓います。」
《────っ!うん!じゃあ、契約成立ね!》
僕が誓いを立てると、フェイス様は嬉しそうにクルクル周り、そのまま僕の両頬を軽く叩く。
すると、体が沸騰する様に熱くなった後、自分の中から力が湧き出てくるのが分かった。
《【創造の加護】は、進化し続ける特殊な加護に分類されるよ!
だから、ジョアンがこれからこれの加護をどうやって使ってどんな加護にしていくのか……楽しみ!》
わーい!と喜んで飛び回るフェイス様に「ありがとうございます!」とお礼を告げると、僕は自分の心が描くまま、右手と左手、両方に別の魔法を発動させる。
【魔才師】
<創造主の手>
別々の魔法を同時に発動し、それを混ぜて全く別の魔法を生み出す特殊創造系スキル
魔力操作、想像力、努力値、器用さが高い程、精度が高く混ぜる事ができる魔法の数も増える
(スキル条件)
【創造の加護】を持っている事
一定以上の魔力、魔力操作、想像力、努力値、器用さを持っている事
右手に防御魔法、左手には魔法を反射するリフレクト魔法を発動させ、それを混ぜ合わせて新たな魔法を作り出す!
「────っ!!攻撃を跳ね返せ!!」
目の前に新たな魔法を発動させる魔法陣が現れると、ドン・スネークの火球の玉は見事に跳ね返った。
「な、なにぃぃぃぃぃ!!??」
自分の方へ跳ね返ってきた攻撃を見て、父は驚愕に目を見開く。
《ジャッ!?》
ドン・スネークは自分の吐き出した火球の玉を、慌てて同じ火球の玉を吐き出し相殺した。
そして、そのままドン・スネークはドドドド!とまた複数の火の玉を吐き出したが、そんなモノは当たらない。
軽々避けて上に大きく飛び上がると、それを見た父はニヤァ〜!と笑った。
「ハハハッ!馬鹿め!宙だと逃げ場はないぞ!このド素人が!!」」
父は僕を指さし、ドン・スネークは僕を丸呑みしようと大きく口を開けてこちらへ向かってくるが────……僕の手にはもう既に新しく創造した魔法がある!
「右手には爆発魔法、左手には雷魔法。」
右手と左手に出現させた魔法を混ぜ合わせ、バチバチと激しく帯電する槍を作り出すと、完全に油断して大きく開いたドン・スネークの口に向かい、それを思い切り────投げる!
《────シャッ……!?》
自分の優位を確信していたらしいドン・スネークは、突然予期せぬモノが口に入ってきたため、慌てて口を閉じて吐き出そうとしたが、もはや手遅れ。
────ドドン!!!
内部で大爆発が起きた様で、大きな爆発音と共にドン・スネークの体が大きく膨らみ、口からは黒い煙が勢いよく吹き出した。
《────ガッ……っ……!!?》
プスプスと焦げ付く匂いがドン・スネークから漂い、その巨体は崩れ落ちていく。
「な……な……ななっ……。」
父は目と口を限界まで大きく開け、自分の契約モンスターが倒れていくのを見つめていた。




