第22話 感情の具現化
この世界における魔法とは、こういう力なのでした。
カガミと共に授業参観をお楽しみください。
感情の具現化
どうぞ。
——ルミナによる公開魔法試技も終わり、教室に戻る一同。
ここからは、彼女が見せた魔法を参考に、その仕組みを紐解いていく。
教壇に立ったヨヨは、皆が席についたのを確認し、早速説明を始めるが——。
「魔法を使う上でまず知るべきは、マナの”特性”と”属性”についてだ。始めに、マナの特性を——」
「——はいっ! 私から説明します!」
突然、手を挙げたニーテは、立ち上がり、すらすらと口を動かした。
「——マナとは、主に女性に多く潜在する魔力の総称。対象者に付与し傷を癒したり——具現化により攻撃に転じる事が可能とされる、緑色の発光が確認された力。また、それらは全て”魔法”と呼ばれます」
百点満点の説明に、ヨヨは微笑み着席を促す。
「ありがとうねぇ——座ってよろしい」
「このぐらい、当然です——」
目を瞑り鼻高らかに着席したニーテは、薄目を開き、左隣にそっと目を配った。
「……うう」
そこには、顰めっ面で俯くルミナの姿。その様子に彼女は優越感に浸り少しだけ口角を上げる。しかし、当の本人は——。
(すごいわ……ルキのやつにも、爪の垢を煎じて飲ませたいくらい——)
ルキとさほど歳の変わらない少女の秀才っぷりに、魔法のまの字も知らない彼を憂いてるだけだった。
「さて、次に説明するのは——その、具現化魔法の発動条件、”感情の制御”についてだよ——」
やがてヨヨは、先ほど見た五つの魔法を元にそれらを説明する。
「まずは、炎の属性だ。
——怒りや情熱、心が外へ燃え立つように働いた時、それは発火し現れる。
次は氷。こちらは逆だ。
——悲しさや寂しさを胸の奥に押し込み、心を閉ざした時、冷気が形を取る」
彼女曰く、この二つの属性は、比較的具現化のしやすい属性だとの事。
「それから雷……こいつは、少し難しくてね。——好奇心だったり、何かを楽しんだり——跳ね上がる様な感覚が、発動を促す魔法。”変わり者”に多い属性と言えるね——」
また、こういった感情の制御を主とする魔法の適性は、それぞれの性格によって決まるとの事だった。
「——感情を表に出すのが苦手な人は、氷の属性に適し。楽観的に物事を考える人は、雷属性が適している。——中には、怒りが爆発して、その辺を焼け野原にしちゃったやつも、いるんじゃないかねぇ?」
——すると、ヨヨの注意を促すような言葉に、ニーテは呆れる様子を見せた。
「うまく感情を制御すれば、それらの魔法なんてすぐに扱えます。それに、私なら——そんなヘマはしませんね」
既に三つの属性を持つと言う彼女。感情を制御する事など、お茶の子さいさいだと言うが——。
「……そ、その通りね」
何度も心当たりがあったルミナにとっては、それは胸の痛い言葉だった。
「ただし、複数の魔法を使えるからといって、それが必ずしも有利に働くとは限らない。単色の魔法使いであっても、それを特化させ磨いていけば、強力な魔法が扱える——」
若くしてその才を見せるニーテに、ヨヨは釘を刺すように説明を続ける。
「多く長所を持つ者は、安定こそするが特化には遠い存在にもなり得る。この世界での魔法とは、そういった特性、特徴を持つものなんだよ」
周りに、失笑が漏れた。鼻を明かされムッとなったニーテは、すり替えるように次の話題へと目を向けた。
「そ、そんなことより残りの属性について、詳しく教えてください!」
残る属性は二つ——。
ここにいる誰もが、完全には使いこなせてないこの魔法については、皆も気になるところだった。
「風と土。自然を操るこれらはちょいと特殊で、説明が難しいんだよ——」
するとヨヨは、少し難しそうな顔で続けた。
「まずは風だ——この条件は、とにかく逆らわないこと。その場の空気に身をまかせ、そっとマナを重ね合わせる事で、“空気の制圧”が可能となる。風は刃にもなるし、汎用性が高い魔法だね」
そして次に、彼女は困った顔を見せる。
「残るは土の属性なんだけどね——これに関しては、私もうまく扱えないから、よくはわからないのさ」
この二つの属性に適応できる人間は、あまり多く存在しておらず、土の属性に関しては、ヨヨでさえも完全に使いこなすに至らなかった。
「発動条件としては、風と似たものを持つが、このように言われている。えっと、確か……——」
口が止まり、何かを言いあぐねている彼女に、そっと言葉が添えられる。
「——自然の摂理に逆らわず、それでいて、盤石なる静の心を持つこと。焦らず安定したそれは、大地を揺るがす程の力となる」
その声の主は——ルミナだった。
流れるような説明を施す彼女に、皆が息を飲み唖然とする。
「ルミナさん……どうして、何もかも知ってるの?」
「えっ! ええ。まあ……アリヴェルにいた頃に、ちょっとね」
——女神の一族に生まれ、大陸一とも言える英才教育を受けてきたルミナ。
この程度の魔法の文言など、彼女の頭の中に既に叩き込まれていた。
「あなたは……一体?」
常人離れした彼女の知識に、ニーテはやがて、不信感すらも覚える。
しかし、その問いに答えられず、ルミナが口をごもらせていると、今度はヨヨが言葉を返した。
「おお。そうだったねぇ……助かるよ、ルミナ。さて今日は、ここまでにしようか——」
そして彼女は、終業の合図を告げる。ルミナの助けもあり、今回の魔法講習は幕を閉じられたのだった。
——その場にいた弟子達は、再び訓練場に足を運んだり、寮へと帰宅したり、皆それぞれの持ち場へとついていった。
皆が席を離れる中、初日を終えたルミナが一息ついていると、目の前に魔導書を抱えたニーテが立ち尽くす。
「——ルミナさん。アリヴェルでは、ずいぶんと英才教育を施されたようですね。でも、私だって——」
一瞬だけヨヨの方に目を配った彼女は、何かを言いたそうにごもっていた。
だが、その先の言葉を吐き出す事なく、反抗心の混じった瞳だけをルミナに向ける。
「絶対、負けませんから——」
しかし、彼女は立ち上がり、それを流すように笑った。
「——そう硬くならないで。ニーテだって、たくさん勉強していて凄いと思う。だから私、是非あなたの魔法も見たいわ!」
その攻撃的な態度など気にも留めず、ただ彼女に期待を寄せるルミナ。
「えっ⁉︎ は、はい。ルミナさんが、良ければ……」
——ニーテはとっさに、魔道書で口を隠し頬を染めた。
まんざらではない気持ちを隠しつつも、ルミナにやきもちを妬いていた彼女は、少し複雑な心境を覚えるのだった。
* * *
——その後ルミナは、魔法使いたちが暮らす“寮”へと案内されていった。
そして、残された教室には、並べられた書物を整理するヨヨの姿。
(……むぅ、この世界の魔法は複雑なんだなぁ。このままじゃ熱が出そうだ)
『ふふ、そのようね。それにしてもあのニーテって子、ルミナさんよりも幼いのに、よく勉強しているわね——』
若くして、魔法の原理をよく理解していた彼女に、マリラは感心していた。
(ああ。ニーテはヨヨ婆の弟子である前に——実の孫だからな)
俺は、彼女達の関係をあっさりと暴露した。それを聞いたマリラも少し驚くが、すぐに納得した様子を見せる。
『通りで……あんなに優秀なのね。お孫さんがいるってのは聞いてたけど——あの子将来は、きっと素晴らしい魔法使いになるわ』
——あの時、ルミナに何かを言おうと迫っていたニーテ。
最も優れた魔法使いと言われる“法王”の称号を持ち、その血を引く自分だって負けてはいないと、きっとそれを言いたかったのだろう。
(ルミナもそうだが、格式高い生まれを持つ者は大変だろうなぁ——)
——そうこうしているうちに、日は傾いていた。皆が寮へと戻り、辺りからは人の気配がなくなっていた。
書物を片付け終えたヨヨは、ようやく一息をつき腰をかける。
『ヨヨ婆様……疲れたのね』
しかし、マリラがそう思ったのも束の間、その口は——突然開いた。
「アリステラや——そこに、いるんだろう?」
『——えっ! カ、カガミさん⁉︎』
慌てふためくマリラ。
真っ直ぐとこちらを向いていたヨヨには、俺の存在が見えているようだった。
——だが、その信じられない光景に、なぜか俺は——平静を崩さなかった。
初めて見るはずの姿、初めて聞くはずの声、それなのに、このヨヨという人物だけは、俺の全てを預けられる。
俺の中の心が、自然とそう思っていたからだ。
たまに登場しますね。
カガミを視認できる存在が。
彼女は一体……?
お次は火曜日!




