第20話 芽生える友情と……
少年隊の、仲睦まじき物語。
まさに青春!って感じの展開です。
芽生える友情と……
どうぞ。
「——今日はこれまでだ。各自ゆっくり休み、明日の訓練に備えるように」
「「「はっ!」」」
夕暮れ時、リデルの号令と共にそれぞれの宅へと戻っていく訓練兵達。
しかし、皆の背中を見送る彼は、怪訝そうな顔で辺りを見回していた。
「——リデルさん? 何かありましたか?」
それに気づき、彼の元を尋ねたのはテゴラ。
「ナポルはどこへ行ったんだ? ルキの案内を、任せるつもりだったのだが——」
新兵の、兵舎への案内を任されていたナポルだったが、彼はいち早くその場を後にしていた。
すると、待ちぼうけをくらうルキを見つめていたテゴラが、手を挙げた。
「それなら、私が案内します! 私の兵舎も近くなので——」
「それならば、助かるな——」
ルキへの当てつけだったのか、幼なじみが放り投げた仕事を快く受けたテゴラは、足早に彼の方へと近づいた。
「ルキ君! 私についてきて。兵舎まで案内するから——」
「兵舎なんてあるのかぁ……どんなとこか、楽しみだな!」
新たな生活に目を輝かせるルキは、彼女の背中へとついていった。
『——テゴラちゃんは、いい子ね。それより、ナポル君は一体どこに……?』
二人を微笑ましく見守るラキだったが、それよりも彼女は、姿をくらました少年を心配するのだった。
* * *
——兵舎には、いくつかの合同施設があった。
食堂や医務室、それから”剣庭”と呼ばれる、訓練場とは違い、自由な時間に剣を振り鍛錬を許される場所。
だがそこは、ほとんど使われていなく寂れている状態であった。
それぞれの施設の案内を終え、ルキはようやく、無数の扉が立ち並ぶ廊下へと足を運んでいた。
「——ここが、ルキ君の部屋よ」
テゴラが扉を開けたそこには、三畳もの寝床があった。少年隊の一人一人に与えられる部屋だ。
「ここか! へぇ、結構広いんだな——」
訓練の疲れがどっと出たルキは、思わずベッドに座り込み、一息ついていた。
「ルキ君、初日だったもんね——私の部屋は、扉出て右奥んところだから、わからないことがあったら何でも聞いてね!」
彼の疲労を労り、優しい言葉をかけてくれるテゴラに、ルキは呟いた。
「テゴラは、優しいやつだな——すげえ助かるよ」
感謝の意を見せた彼の瞳に、照れ臭そうに目を伏せるテゴラ。
「ルキ君にはさ、感謝してるんだ……ナポルの事——」
「ナポル? なんであいつが?」
壁にもたれかかり、天井を見上げていた彼女は、さらに語り出した。
「あいつさぁ——小さい頃から何でもできて、少年隊でも、すぐに一番になったの。そのせいで、訓練もあまりしなくなっちゃったもんだから、誰かにその鼻、へし折って欲しかったんだ——」
少しだけ、すっきりしたように笑うテゴラだったが、その表情に徐々に悔しさを滲ませる。
「頑張ったら、もっとできるくせに……それに、なんだか腹が立って——本当は、私があいつを負かせてやりたかったんだけどね。……私って剣の才能ないし、魔法だって、一番簡単なのしか使えないし……」
明るく接してくれていた彼女が、内に抱いていた劣等感。それを見ていたルキは、ふと疑問を投げた。
「なんでテゴラは、それでも兵士になろうとしたんだ?」
その質問に——目を輝かせ、顔を向けるテゴラ。
「——ジーンさんって、知ってる?」
ルキが首を横に振ると、彼女は自慢げに言葉を並べていく。
「ジーンさんはね、すごいの! かっこよくて、強くて、こないだついに——女性で初めて”上位六騎士”に就任したんだよ!」
女戦士ジーンの存在は、少女兵みんなの憧れだった。彼女の勇姿を知って剣を取った女の子は、この国では少なくなかった。
「女なのに、強ぇんだな——」
「そうなの! だからね。いつかジーンさんみたいな、すごい戦士になりたいと思って、兵に志願したんだ」
——ルキには、彼女の強い憧れがよくわかった。
いつしか、マルクの様な強い戦士になりたいと、他者を目標にし、力にしているのは彼も同じだったからだ。
「でも実際は——私なんかには、遠すぎる夢なんだけどね……」
声高らかに語っていたテゴラは、やがて、その憧れを誤魔化すように、作ったような笑顔を見せた。
——すると、その様子に納得のいかなかったのか、ルキは突然立ち上がり、彼女の手を握った。
「ルキ君——⁉︎ ちょっと、どこ行くの?」
そのまま走り出す彼の行動に、驚きを隠せないテゴラ。
「剣……庭、だったか? まだ開いてるんだろ? 今すぐ行こう!」
彼が向かおうとしていたのは、先ほど通り過ぎたばかりの中庭の広場、剣庭——。
「剣庭? あんなとこ、誰も使ってないよ」
兵舎に戻るのは、クタクタになるまで訓練に励む若者達。こんな時間にまで出てきて自分を追い込む者など、ここにはいなかった。
しかし、戸惑う彼女の手を引き、歩を進めていたルキは言い放つ。
「——なりたい自分がいるなら、立ち止まってる暇なんてねぇよ! やれることやんなきゃ、なれなかったときに絶対後悔するぜ」
「……それは、そうだけど」
——彼女だって、頭ではわかっていた。
自分なりに、努力はしていたつもりだ。でも、いくら頑張ったってやれない事も世の中にはある。
現実ばかりが頭を離れず、彼の激励を受け取れないテゴラ。
「……そんなの、私にできっこないよ——」
——すると、前を走るルキの背中がピタリと止まり、彼女へと振り向いた。
「俺も一緒に手伝ってやるから——だから、やろうぜ! な?」
それは、前向きで無邪気な笑顔だった——。
「ルキ君と……一緒に——」
彼が一緒にいてくれるなら、傍で笑顔が見れるなら……。
そう思ってしまったテゴラにとっては、彼の存在は大きな力になっていた。
「……ありがとう。ルキ君——私、頑張ってみる!」
ようやく笑顔を見せ、彼の手を握り返し、自分から足を動かしたテゴラ。
「——そうこなくちゃ!」
——彼女は、まっすぐな彼の心に、少しだけ近づけた気がしていた。
鳴り止まぬ鼓動と共に、初めて芽生える——特別な想いを灯しながら。
* * *
——剣庭にて。
そこには、無我夢中になって剣を振る一人の少年兵を見守る、ラキの姿があった。
『——あの子、あんなに頑張って大丈夫かしら。今日の訓練でも、一番頑張ってたのに……』
訓練中、最も汗をかいていた彼の事が心配になり、ずっと見守っていたラキ。
——やがて彼女は、そこに近づいてくる二人の足音に振り向いた。
『あ、あれは⁉︎ それに、あの子も——』
——やってきたのは、テゴラと手を繋ぎ現れるルキ。
すると、手を離した彼女は、彼へと目を向けた。
「うそっ⁉︎ あんた、一体こんなとこで何やってんのよ——」
そこにいた少年の名は、ナポル。
合同訓練を終え、早々に席を外していた彼は、この剣庭へと足を運んでいた。
「——別に、お前こそどうしたんだよ……そいつまで連れてよ」
ルキを見るなり、腕を組み顔を背けるナポル。
「私、決めたの。ジーンさんみたいに強くなって、副隊長——いや、隊長の地位まで上り詰めるって」
「隊長って……お前、何言って——」
彼女の無茶とも言える発言を、呆れた様子で見つめていた彼は、さらに言葉を詰められた。
「あんただって! 何かを変えたくて、ここに来たんでしょ?」
——何も言い返せず、下を向くナポル。
その言葉の一つ一つが、彼には刺さっていた。
今までで一番だった彼は、突然やってきた新兵に敗北を喫した。
悔しくて、惨めで、このままじゃいけないと思った彼の足は、ここに向かわずにはいられなかったのだ。
——すると、沈黙を続けている彼に近づき、そっと手を差し出すルキの姿。
「せっかく出会えたんだし、一緒に強くなろうぜ。それに、お前がいてくれたら、俺達もっと強くなれるんだから——」
「……ぐぐっ」
すぐにその手を取ろうとせずに、幼い自分と戦いながらも——彼は思い出す。
初めての敗北の時も、ルキはこうやって握手を求めていた。
敬意を持って、相手を認めていた——この心こそが、彼にあって自分にないものだったのだ。
——そして、ナポルはようやく、自分の敗北と向き合った。
「——そこまで言うなら……やってやるよ」
さらに勇気を振り絞り、ルキへと向き直った彼は言い放つ。
「言っておくが、最後に勝つのは俺だからな——それから……俺だって、いつかは隊長になってやる! わかったかルキ!」
真正面から彼を見据えるナポルは、拳を突き出した。自分の弱さを認める事ができたこの経験は、彼にとっては、大きな一歩だった。
「——俺だって! 負けねぇからな、ナポル」
握手の代わりに、拳を合わせた二人。
同じ目標を持った彼らの思いが、やっと重なり合い、新たな友情がそこに生まれていた。
——そんな中、二人の仲睦まじい光景を、満足そうに見守るテゴラ。
幼なじみだったナポルを、彼が変えてくれた。
夢を諦めようとしていた自分を、変えてくれた。
ルキとの出会いによって、前に進む事が出来なかった彼女の時間は、ここでやっと動き出したのだ。
——しかしそこに、高なる鼓動を胸で抑えながら、彼に色づいた視線を向けていた少女を、草葉の陰から見守る者が一人だけいた。
『テゴラちゃんってば——もしかして……』
彼女を見つめていたラキは、素敵な友情を見せた弟の行動に感心しつつも、彼が作ってしまった一つの罪に、複雑な思いを抱くのだった。
揺れ動く色んな感情との戦い。
これこそが青春ですね。
お次はルミナパート!
火曜日にお会いしましょう〜




