第18話 離れていても
第三章 出会いと共に編、スタートです!
この国の事など、まだまだ彼らには知るべき事がたくさんあります。
離れていても
どうぞ。
——数日が経ち、新しい朝が始まった。
戦いの疲れが癒えきったルミナとルキは、城下のとある場所で、まだ姿を見せぬ誰かを待っていた。
「——よっしゃあ! ついに、今日からだな!」
待ちに待った日を迎え、拳を握るルキの横で、耳を塞ぎ呆れるルミナ。
「うるさいわねぇ、全く……張り切りすぎよ——」
再び戦う決意を見せてくれたルミナと、この日を迎えれた事に、彼は喜びを隠せなかった。
だが、内なる闘志を燃やしていたのは、彼だけではない。隣にいる彼女もまた、密かに笑みをこぼしていた。
「今日からお世話になるんだから、あまり生意気を言っちゃダメよ。私達、ここからまた……始めるんだから——」
過去に味わった同じ痛みを、二度と繰り返さないためにも、強くなる事を胸に誓う二人。
——すると、荒ぶるルキを宥めていると、二人の元に待ち人である彼がやってきた。
「よっ! もう元気そうだな。——ルミナも、決断してくれてありがとよ」
声をかけ歩いてくるのは、あの大槍の男アバン。
彼は、軍入りを決意した二人をそれぞれの場所へと案内すべく、ここに呼び出していたのだ。
「……うん。心配かけて、ごめんなさい」
吹っ切れた様子で会釈を見せるルミナに、微笑みを返すアバンだったが、彼の目の前に少年の期待に満ちた瞳が近づいた。
「なぁ! ここでは、アバンが俺に修行つけてくれんのか⁉︎ アバンは、マルクやマールさん位強いから楽しみだぜ!」
目を輝かせた彼が申し出るが、首を横に振ったアバンは、次の目的地へと足を向ける。
「違う違う。兵隊教育は、俺の担当じゃない。それに二人は、この国について知らないこともあるだろうから、歩きながら説明するよ——」
頭の後ろに手を組み口を尖らせたルキと、それを見ながらクスリと笑うルミナは——アバンの後ろをついていった。
——現在のギルバディア王国は、数年前に都を変えたばかりの新しい国。
帝国の侵略により、多くの有能な兵を失った旧ギルバディア王国は、この地への撤退を余儀なくされたという。
「まあ俺も、一度滅びた旧国を抜け——ついこないだ、この国に来たばかりなんだけどな」
すると、頭を掻くアバンの後ろから、ルキが辛辣な言葉を呟く。
「——ついこないだまでのアバンは…….盗賊だったもんな」
「ぷっ……!」
思わず吹き出すルミナだったが、アバンは必死に手を振り弁解を始める。
「あれは誤解だ! お前達は知らないだろうが、俺はこの国では結構偉いんだぞ?」
盗賊の谷での初めての出会いで——ペガサスに乗りルミナを助けた彼の登場に、ルキは誤解を残していた。
「本当かよ……」
「——おほん。……続けるぞ」
腑に落ちない様子の空気に、咳払いをした彼は再び口を開く。
——新生ギルバディアには、三つの隊に配属される隊長と副隊長。”上位六騎士”と呼ばれるこの六人こそが、この国の要であり中枢を担う存在だった。
「その軍の隊長の一人が、この俺って訳だ。——まあ今じゃ、その上位六騎士の席も、一つ空いちまってるんだがな……」
さらに彼が言うには、人手不足であるこの国は今、隊長であるアバンが総指揮官を兼任し、一人の副隊長に至っては未だ不在らしい。
「——驚いたか? 俺にこの国で直々に会えるってのは、光栄な事なんだぞ?」
彼は旧国時代から仲間の信頼も厚く、出戻りでありながら、今でもなお軍を任される存在にまでなっていた。
——しかし、鼻高らかに胸を張る彼の後ろで、ルキは一人大きく首を傾げていた。
「偉いって言っても……一番偉いのは王様だろ?」
彼にしてみれば、当然の疑問だった。
バルナ王国でもそうだったように、国の象徴である国王こそが、ギルバディアを引っ張っていく存在。
——しかし、少しの沈黙を見せるアバン。そして、それを察したルミナが、庇うように言葉が添えた。
「ギルバディアには、今——王様はいないのよ……」
その言葉を聞いたルキも、アバンの周りの空気が少しピリついていた事に気づいた。
「……皆、帝国にやられてしまった。国王も、そしてあの人でさえも——」
旧国が滅んだ忌まわしき日を、静かに語るアバン。言わずとも、彼の声色は全てを物語っていた。
戦いを通しての仲間との別れ——アバンにもまた、辛い敗北の過去があったようだ。
——だが、こういった空気を嫌う少年が、突如言い放つ。
「……うん。決めた! ——俺はこの国で、その“隊長”ってやつになる」
沈んだ空気に、一石を投じるルキ。
「そんで、この国で最強の戦士になって、帝国なんかぶっ潰してやる!」
それは、引き返すことを知らない、いつも通りの彼の真っ直ぐな瞳。初々しいその眼差しに、どこか懐かしさを覚えたアバンは微笑んだ。
「ははっ。……お前には、期待してるよ。でも、隊長になる前に、まずは少年隊に入り色々と経験しないとな——」
「少年隊ぃ……⁉︎」
聞き慣れない言葉に、ルキはたじろぐ様子を見せる。
少年隊とは——主に体が成熟しきっていない若者達だけで編成された隊である。
それを卒業し、一般兵としていずれかの隊に配属された後、初めて戦闘の許可が得られるという。
「——ガキに紛れて、わざわざ訓練するのかよ……」
「ガキって……あんたねぇ——」
バルナ王国で、大人に紛れて戦っていたルキにとっては、物足りない待遇に感じたようだが、身の程をわきまえない彼の発言に、ルミナは眉をひそめていた。
「まあそう言うな。まだまだお前にも、学べる事があるさ——さあ、着いたぞ」
——アバンの説明も終え、そのまま城門をくぐった三人は、人だかりのできた広場の前でその足を止めた。
そこには——明日を見る若者達が、己を高めあう為、剣を振る睦まじい光景が広がる。
「これが……少年隊——」
少年少女だと高をくくっていたルキだったが、彼らの剣に、洗礼された“技”を見た。
気の迷いは払拭され、彼はやっと確信する事ができた。
自分はまだ——強くなれると……。
「と言うわけで、ルキはここでお別れだ。俺はルミナを——ヨヨ婆の元まで送り届ける」
「……お別れ」
訓練場の方にばかり目を輝かせるルキを、名残惜しそうに見つめるルミナ。
「——ルキ……しばらく会えないけど、一人で大丈夫よね?」
「ルミナ……?」
彼女の瞳は、少し涙ぐんでいた。
今まで、片時も離れる事のなかった彼との別れは、まさに、巣立ちを見送る母の心境。
——だが彼は、涙を見せずに拳を突き出した。
「心配すんなって……ルミナの方こそ、負けんなよ?」
送り出す側だと思っていたルミナだったが、いつの間にか自分が励まされていた事に気づく。
そして、大きく、逞しくなっていた弟の拳を見つめながら、彼女は静かに笑みを浮かべた。
「……ばか。お姉ちゃんの心配なんて、十年早いわよ」
拳を合わせ、ようやくの別れを告げたルミナは、彼へと背を向ける。
——離れていても、同じ思いを背負う彼らは、それぞれの目標に向かって、ここから歩んでいくのだった。
* * *
——少し前の時間、宿屋にて。
『おはようございまぁす!』
『おはよう! カガミさん』
(ああ——二人とも、おはよう)
呼び出しをかけずとも、二人は定時になると、勝手に飛び出すようになっていた。
——すると、早速ラキが、俺の近くへと舞い寄る。
『これからは、マリラさんも戦ってくれる事ですし! 今日は何をしますか⁉︎ カガミさん——』
ルミナの荒療治により心を救われ、マリラが戦いを決意した事で、ラキは張り切り腕をまくっていた。
(そうだな——戦うといっても、俺たちにできる事は限られているし、今のところ情報収集ぐらいしか……)
『……またですか』
何か面白い提案でも期待していたのか、口を尖らせていたラキに、今度はマリラが言い聞かせた。
『ラキ——情報と言うものは、とても大事なのよ。戦い一つにとっても、情報一つで結果が大きく左右されるんだから』
『なるほど……さすがマリラさんですね!』
彼女がわかりやすい説明を付け加えてくれたおかげで、ラキも納得したようだった。
マリラの存在は、ありがたいな……。
——すると、何かに気づいたラキは、今度は部屋の方へと目を向ける。
『あっ! ルキとルミナさん、どこかへ出かけるみたいですよ——』
彼女が指差す方向には、支度を済ませた二人がどこかへと向かう様子。
『——二人とも、訓練場の方にでも行くんじゃないかしら?』
マリラの考察は当たっていた。今日は二人が、修行を積むべく、ギルバディア軍に入隊する日である。
(——ここにいても仕方がないし、俺たちもついていくしよう)
そう言って、三人は共に出かけるルミナとルキの背中を追って行った。
* * *
——そして俺たちは、アバンと共に二人が足を運んだ、少年隊の訓練場に来ていた。
『いよいよ、今日からですか——おお! 小さなかわいいエギル達が、たくさんいますね!』
そこには、ルキと変わらない歳頃の若者達の姿。
彼らを興味津々に観察するラキに、俺は促した。
(よかったら、ラキはそのまま少年隊のとこにいてくれないか? ——俺とマリラは、ルミナの方を見に行くからさ)
『ええ! そうします!』
俺はルミナとルキ、二人の様子を見届けれるよう手分けして見守ることにした。
ラキだって、弟の様子が気になる事だろう。
(しばらく別れることになるが、憑依なんかして遊ぶんじゃないぞ?)
『わかってますよ! それよりカガミさんも、マリラさんにスケベな事しちゃだめですよ?』
(し、しねぇよ!)
弟を見守るべく、訓練場にただ一人残るラキに別れを告げた俺は、クスクスと笑うマリラを連れ、アバンの後ろを歩くルミナの背中を追って行くのだった。
少年隊に入り、一から剣を学ぶルキ。
これからまだまだ出会いが待っています!
お次は火曜日に会いましょうm(_ _)m




