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天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜  作者: 白銀鏡
【第一部】 第三章 希望と共に
31/63

第30話 転生者

勝利は目前!

その時皇帝は……。


転生者


どうぞ。

 ラキが憑依したカラスの活躍により、結界の発動は防がれた。ルミナとルキは小さく拳を握り、作戦の成功を喜ぶ。


 一方で、皆の注目を集め静寂を披露してしまったシュダを、哀れみの目で見つめるバルナ兵達。


「絶望って……はは」


「何を言ってんだ……」


 皆の前で大手を振り、大それた絶望宣言をしたシュダを笑い物にしていた。


「ぐぐぐ……」


 唇を噛み、肩を震わせる。

 顔を伏せ、悔しさを押し殺すように震えていたその肩が——次の瞬間、爆ぜた。


 ガバッと顔を上げ、血走った目を見開く。


 その視線は、嘲笑していたバルナ兵たちではなく——一匹のカラスに向けられる。


「カッ!(ひっ!)」


 怒りに突き動かされたシュダは、理性を捨てた獣のような咆哮と共に、一直線に飛び込んでいった。


(まずい!)


 憑依した者が意識を失えば、エギル体のラキはもう戻れない。そう予感した俺は、彼女の方へと飛んでいく。


「——この鳥がぁぁぁ!」


「カカァ!(あんたも鳥でしょうがー!)」


 鬼の形相で襲いかかるシュダから逃げようとするラキだったが——。


「——隙を見せましたね」


 剣が一閃——男を捉え、膝をつかせる。


「ぐっ!」


 そこに立っていたのは騎士長マール。

 頭に血が上り自慢の視野を失ったシュダに、渾身の一太刀を叩き入れる。


「何の気まぐれかわかりませんが、お逃げなさい」


 魔法陣の刻印の消去した功績を讃え、小さな命を救ったマール。あの光を見た時点で、敵の魔法がただの術ではないことを、戦場の勘で感じ取っていたのだ。



 ——そして、飛んでくるカラスと合流した俺は、すぐにラキのエギルを引っ張り出した。


(ラキ! よくやったぞ!)


『うう、マールさ〜ん。助かりました〜』


 ラキを無事回収して、俺がホッと胸を撫で下ろしていると、マールは皆に言い放った。


「この様な愚策に屈するバルナではない! 今こそが勝機だ!」


 ——怪しい光によって、勢いを止めたバルナ兵達だったが、その掛け声の共に再び動き出す。


「うおぉぉぉ!」


「俺たちもいくぞぉ!」


 半妖の奇襲を掻い潜り、策を封じられた帝国軍に対し、恐れず進軍するバルナ兵。


「くっ! まずいですね……」


 皇帝の元へと舞い戻り、一度守りを固めるシュダ。


 帝国軍の要の一人であるシュダが負傷した事で、バルナ兵はさらに歩を進める。

 そして、夢中で剣を振っていたガンツも、迫る群衆の前にたじろぐ様子を見せた。


「おいおい、まじかよ……」


「——そこだ!」


 それを見逃さず切り込むマルク。それを間一髪防いだガンツだったが、そのまま後退し皇帝の盾となる様に傍につく。


 一方皇帝は、怒るでもなく一人何かを考え込んでいる様子。


(皇帝よ……万策尽きたな)


 高みからそれを見物する俺だったが、バルナ兵は進軍の手はまだまだ止まない。


「こいつら……」


「大人しくしろ!」


 勢いに乗ったバルナ軍を止めようとする帝国兵だったが、彼らはものともせず敵を切り進み、あっという間に玉座の周りに囲いを作った。


 ——そして、孤独に戦うマルクの背中に、二人の足音が近づく。


「マルク! 無事でよかった……」


 マルクの無事に安心し、潤んだ目を見せるルミナ。

 その横で、ルキは胸を張り鼻をかいていた。


「へへ! 感謝しろよな!」


 背中を預けられる仲間の存在に、マルクの表情からは思わず笑みがこぼれる。


「よく戦ったな。二人とも」


 少ない兵力で、王の間を制圧に成功したバルナ軍。

 もはや皇帝に——逃げ場はなかった。


(詰みってやつだ。この勝負、俺たちがもらった)


 作戦は、狙い通りに進んでいた。

 細心の計画と勇気が噛み合い、戦局は明らかにこちらへと傾いている。


 ——もう、勝利は目前だ。


 いつも嘲笑を浮かべていた帝国軍の連中が、今は誰一人として笑っていない。


 戦いを楽しんでいたはずのガンツも。

 人を愚弄し笑っていたシュダも。

 そして——あの皇帝ですら、沈黙の中に立ち尽くしていた。


 ——しかし皇帝のそれは、恐れから来る沈黙ではなかった。


「半妖であるシュダへの奇襲、魔法陣の破壊による結界封じ……」


 ぶつぶつと呟き、一人思考を巡らせる皇帝。


「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」


「お前の蛮行も、ここまでだ!」


 口では皇帝を罵るが、彼から放たれる異様な雰囲気に、誰も切り込めない。


「……これらの動きには明らかな予測がある」


 全ての策を封じられ不審に思っていた皇帝に、シュダが言葉を添える。


「誰か内通者でもいるんでしょうかねぇ?」


 この場にいる帝国兵を見渡し、睨みをきかせるシュダ。


「ひっ……」


「そんな、滅相もありません!」


 絶対的恐怖で縛られている彼らの反応を見て、裏切り者はいないと確認する。


 ——すると、皇帝はゆっくりと顔を上げ、血の気のない白い頬に再び笑みを刻む。

 それは——彼の中の何かが確信に変わった瞬間だった。


「なんだ?」


「へっ! 気でも狂ったか」


 理解不能の表情に、バルナ兵達は思わず笑い飛ばす。


「クックックッ……実に面白い……」


 だが、低く響くその声にはどこか異様な気配があった。ぞくりとした空気がその場を包み、一同の笑いが凍りつく。


『あいつ、何か変です』


(な、何を笑っている?)


 その余裕が虚勢でないことを、隣のラキの硬直した表情が何より物語っていた。



 ——そして、長い沈黙を破り、皇帝が口を開く。

 


「噂とばかり思っていたが、“ここ”にいたとはな」


 絶体絶命のこの局面で、そんな言葉を口にするなど正気の沙汰ではない。

 もし本気で言っているなら——一体何を知っている?


 皇帝は王の間の天井を見上げ、大きく息を吸う。

 胸に溜めていたものを、ようやく吐き出すかのように。


 その場にいた誰一人として、この異様な落ち着きの意味を理解していなかった。

 だが——俺だけは違った。


 その口から発せられた言葉に、全身が凍りつく。


「——そこにいるのだろう? ……“転生者”よ」

皇帝は何かを知っている様です。


お次は金曜日。

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― 新着の感想 ―
な、え、ええ!?
2025/10/23 14:39 退会済み
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