第0話 ぶつかる魂
——これは、本来なら“平和に終わるはずだった”ある大陸の物語。
「——有り金全部置いてきな。それから、その女もな……へへ」
道ゆく森で、青年を囲む複数の盗賊。
彼の隣に佇む少女に向ける、欲望の眼差し。
「次から次へと、しつこいわね……」
「と、盗賊……?」
呆れた様子の少女の後ろで、微かに震えた手で剣を握りしめる少年。
その様子を横目で確認しながら、ゆっくり剣を抜いた青年は静かに口を開く。
「ルミナは左を、ルキは右の一人を頼む。——残りの三人は……僕が引き受ける。できるか? ルキ」
「お、おう! 見てろよ、マルク!」
なんとか勇気を振り絞る少年を横目に微笑んだ青年は、立ちはだかる敵の方へと再び向き直った。
「——じゃあ、いくよマルク!」
同時に、少女の掌から炎が燃え上がる。
彼女の掛け声と共に、今、戦いの火蓋が切って落とされた——!
——ここは、剣と魔法が飛び交うファンタジーの世界。
青年騎士マルク。
魔法使いルミナ。
見習い戦士のルキ。
笑いあり、涙ありの感動ストーリーが、今まさに始まろうとしていた——!
……ん? 俺か?
紹介が遅れたな。
俺の名は、白銀鏡。
この世界での俺の立ち位置はズバリ、“天の声”である。
俺は以前、現実世界で命を落とし、この世界に転生した存在。
俗に言う、“異世界転生”と言うやつだ。
訳あってこの世界の全てを知っている俺は、まさに神様とも言える存在。
現在、皆に”姿の見えない状態”の俺は、空から助言をし、この世界を平和に導く役目を担っているのだ。
『——神様!』
(うわっ⁉︎ 急にどうした?)
『さっきから、何をぶつぶついってるんですか⁉︎』
(うそだろ……また聞こえてたのかよ——)
ちなみに、俺の思考は、口に出してもいないのに“だだ漏れ”になる事がある。
どこから漏れてるのかは知らないが、いささか不便なものだ。
——そして、宙に舞いながらこちらを見ている少女。
実を言うと、俺の姿を唯一確認できる彼女の正体は——この世の者ではない。
『ボーッとして……置いていきますよ!』
(お、おい。待てよぉ——)
——これから俺が語るのは、“天の声”と“死んだ少女”と、物語の裏側を知る者だけが見届けた、本来なら平和に終わるはずだった物語である。
俺の名は白銀鏡、小説家だ。
とある人気ファンタジー小説の、著作者である。
その物語とは、王国騎士である主人公マルクが、“女神族”と呼ばれるヒロイン、ルミナと共に旅をし、大陸に平和をもたらす王道ファンタジー。
仲間との、出会いと別れを通じた友情、恋愛といった誰もが引き込まれる胸熱ストーリーだ。
今やこの作品は、アニメ化、グッズ販売などと飛ぶ鳥も落とす勢いの人気で、念願の“第二シリーズ”の著作が発表されている。
……はずだった。
——しかし、現実は。
大金をはたいて、思い切って自費出版に踏み出す挑戦をし書籍化を果たしたのだが、結局のところ全然売れずに、六畳一間のボロアパートの隅に山積みとなる始末。
おかげで今は、うだつの上がらないアルバイト生活に安酒をあおるだけの毎日。
続編の話の発表など、夢のまた夢だった。
……こんなはずではなかった。
税金は日々増すばかりで、物価は高騰。俺の努力の結晶である作品も誰にも理解されない。
今日もまた、なけなしの財布を持って、その心を誤魔化すための薬を買いに行く。
——帰り道。
とにかく全部どうでもよくて、ただ足だけが一人でに動いていた。
金も希望のすっからかんの抜け殻状態に、俺はさらに酒を流し込む。
……どこで間違ったのだろうか?
幼少期から普通の家庭に生まれ、普通の学生生活を送り、普通の会社に就職。
だが、このまま普通の結末を迎えることに、どこか嫌気がさし、思い切って小説家になることを決意した。
だが、そのおかげで今は——普通以下の結末まっしぐらだ。
諦めるな? いつか夢は叶う? ……笑わせる。
いくら足掻いたって、ダメなものはダメ。なぜ、こうなるまで気づかなかったのだろうか。
——この時俺は、極限にまで低下した思考能力により、目の前に迫る巨大な鉄の塊に気づく事ができなかった。
(——あれ? 何が、起きたんだ?)
俺の思考能力は、さらに低下していた。
唯一理解できたのは、俺の体の全面に押し付けられたアスファルトが、妙に冷たいという事だけ。
(ああ、そういうことか……)
人だかりの中心で横たわっていた俺には、もう声を発する力すら残っていなかった。
——これが最期の瞬間。
そうだと知った俺は、心の中で大切な人を想い——念じていた。
(母さん……ごめん)
こうして白銀鏡の魂は、一人虚しく、この世界から消え去ってしまった——。
* * *
——”白銀鏡”の命が終わったその“ほぼ同じ瞬間”。
ある大陸のどこかでもまた、ひとりの青年の生死が揺れていた。
「——はあ……はぁ」
深傷を負った青年騎士が、草木を掻き分けただひたすら走っている。
「観念しろ! 女神の犬め!」
殺意のこもった罵声を背に浴びながら、彼はついに足を止めた。
「ここまで……か」
森を抜けた先で見たものは、立ちはだかるような激流。
やがて、彼の背を黒甲冑の男達が囲んだ。
「もう、逃げ場はないぞ——」
——だが次の瞬間、青年は迫る脅威に振り向くこともせず、その激流にそっと身を預けた。
「何っ——⁉︎」
彼の早すぎる判断と共に、その身は一瞬にして行方をくらませた——。
「ごぼっ……ごぼっ」
——薄れゆく意識をなんとか保ち、必死にもがく青年騎士。激流の中、度々目の前を横切る鮮血が、彼の終わりを示唆していた。
「(アリシア……様)」
何かを念じ、最期の時を迎えようとする青年。
やがて、彼の目の前は——真っ暗になっていく。
——ここは、自然に囲まれた“アリヴェル”と呼ばれる国。
そしてこの物語は
魂と魂がぶつかる音によって
今、本当の意味での始まりを迎えた——。
だだ転シリーズ、プロローグ+第0話でした。
今回のep1は、第一部完結記念のリメイクバージョンでお送りしました!
処女作でガタガタの作品でしたが、これからも徐々に進化を遂げていきたいと思いますのでどうか温かい目で——。
てなわけで!ep1からもリメイク企画はちょくちょく行っていきますので、だだ転読んでるよ〜って方も、初めての方もお楽しみください\(//∇//)\
天声だだ漏れ転生〜女神の温もりと共に〜
はじまるよ♫
白銀鏡でした。




