【やり直し軍師SS-578】遠路訓練(8)
私たち今、誘拐されている最中です。
この事実をどのように伝えるか考えた結果、ロピアはちょっとした嘘を織り交ぜる事にした。
ロピアの説明に、引率役のスワンソン先生が首を傾げる。
「私たちを救出するのが演習の一環ですか? ……何も聞いていませんが」
「でも、もう半刻以上馬車が走り続けています。さすがに宿につかないのはおかしいです。なら、これも演習ではないですか?」
「そうかもしれませんが……。ちょっと声をかけて確認してみましょう」
「あ、待って下さい! それはまずいかも」
「なぜです?」
「こう言うのって、リアリティが大切だと思いませんか? もしかしたら、救出に来る生徒たちも演習だと聞かされていないかも。台無しにするべきじゃないかと」
「演習について、随分とお詳しいのですね」
「……っていう物語を読んだことがあるんです。ひとまず、止まるまでは待ちませんか?」
相手の目的がわからない以上、今は動かれても騒がれても困る、いずれは嘘だと露呈するだろうけれど、今は大人しく騙されていてほしいと願う。
しばし悩むスワンソン先生。その横でミティさんが不安そうに口を挟んだ。
「……もしかして、私達本当に誘拐されたんじゃ?」
私はすかさず軽い口調で応じる。
「私たちを? あの場所には貴族様のご子息もたくさんいたのに? それとも誰か、たくさんのお金を払えるおうちの人が、この中にいるんですか?」
「……それも、そうね」
まあ、実際いますけど。一人。
「でも少し不安ね」
友人のアンナが呟く。おっとりとした性格の彼女は、こう言う時慌てず騒がずなので助かる。
「大丈夫よ。きっと、物語の騎士様のように助けが来てくれる」
……本当は来ない方がいい相手の顔を思い浮かべながら、私はそんなふうに慰めた。
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馬車が減速を始める。
そろそろ目的地か。結局あれから半日以上移動していた。思ったより距離を走ったようだ。
でも、どうしてそんな長い距離を移動したのだろうか? 今回の件、全体的には計画性を持った動きだ。ならば拠点も事前に用意してあったはずでは?
第10騎士団は、私の馬車がいないことに気付けば追ってくる。騎馬速度との差を考えれば、さすがに半日以上の距離は遠すぎではなかろうか。
となると、どこか途中で計画が変更になった?
狙いがゼクシアなのは間違い無いと思う。だとすれば、変更になった計画とは、即ち私たちの誘拐だろう。
……つまり、誘拐自体はイレギュラーな展開だった。本当は、別の手段でゼクシアを襲おうとしていた。
そう考えると、今いる場所になんとなく予想がつく。ここは演習の最終目的地の近くでは?
演習の本来の目的地は、谷間の森林地帯。身を隠してゼクシアを狙うならおあつらえ向き。だから森の中に拠点を準備していた。……うん。ありえるな。
ついに馬車が止まった。
馬車の中に妙な緊張感が走る。
唐突にドアが開き、「全員降りろ」との一言。間違っても友好的な声ではない。
スワンソン先生が先頭で立ち上がり、扉へ。先生のあとに続くようにアンナ達、最後が私の順で馬車を降りる。
あまりキョロキョロしないように観察してみると、やっぱり深い森の中。うん、演習目的地の近くの可能性が濃厚になってきた。
正面にはわずかばかりの広場といくつかの建物。建物は古く、酷いものは傾いていた。ずいぶん前に使われなくなった集落、そんな印象を受ける。
待ち構えていたのは12人。そのうち女性が二人。簡易的ではあるけれど皆、武装していた。
そいつらは揃って私たちを眺めながら、言葉を発しない。耐えかねたスワンソン先生が口をひらく。
「……随分と手の込んだ演出ですのね。それで、私たちはこれからどのようにすればよろしいのかしら?」
そんなふうに、厩の主人に声を掛ける。この感じだと多分、偽物なのだろうけれど。
偽主人はやや煩そうな顔を見せて、視線を一人の男性に向ける。するとその男性が、軽く手を挙げてからこちらに歩み寄ってきた。
「……演出? ……ああ、これが演習の何かだと勘違いしているのか。残念だったな。これは演習ではない」
「な、何を言っているのですか、冗談も……」
「あっ! 先生!」
私が止めようとした直後、先生のそばまで近づいてきた男が、平手で先生の頬を打つ。
「きゃあ!」
倒れ込む先生を見て、悲鳴を上げたミティさんとアンナ。
「これで理解していただけたかな? 我々が用があるのは、おそらくこの中の一人だけ。順番に聞いて回ろうと思ったが、その手間は省けたな。そこのお前、お前だ」
その視線がロピアを捉える。
「ただ一人、この状況に動じぬ娘か。お前の話を聞こう」
「……何の話かわからないけれど、嫌と言ったら?」
「そこで怯えている女どもの耳をそぎ、お前が首を振るまで切り刻んでいく」
その返事を聞いて、ロピアは密かに胸を撫で下ろす。少なくとも、すぐに殺すとは言わなかった。ゼクシアに対する餌は多い方がいいと判断したのか。
「分かった。何を話せばいいの?」
「話が早いのは良いことだ。ついてこい。おい、他の奴らは閉じ込めておけ!」
そうして早々に踵を返した相手を追い、ロピアは比較的まともな建物に足を踏み入れたのである。




