【やり直し軍師SS-575】遠路訓練(5)
初日の行程を終え、ゼクシアは専用に設らえられた天幕の中にいた。
同席しているのはレゼット、ラゼットと、ネルフィア、サザビーのみだ。
設営や食事の準備は同級生と共に汗を流したが、流石に寝所は別となる。室内にいる人数はわずかだが、外には陣幕を囲むようにして第10騎士団の警備がなされていた。
食事の後のまったりとした時間。
ネルフィアは何かの報告書に目を通し、サザビーは暗器の手入れ。レゼットラゼットはあまり無駄口を叩かないので静かなもの。
読書でもしようかと、持ち込んだ書物に手を伸ばしたところで、ネルフィアとサザビーが立ち上がった。
二人は速やかに、ゼクシアを挟むよう陣取る。一歩遅れてレゼラゼも動いた。
「……複数か?」
しかし外には第10騎士団がいるはず。よほどの相手が近づいてきたのか? 一気に緊張感が張り詰めた室内に、ゼクシアの声だけが響く。
「断言はできませんが、少人数かと」
すっとネルフィアが入り口に近づき、右手を袖の中に入れた。
しかしそんな警戒も束の間。
「入っていい?」
と外から聞こえたのは聞き慣れた声。
同時に、なぜ? という疑問が湧く相手でもあった。
ネルフィアが念の為ゼクシアを見る。ゼクシアが許可するのを確認してから入り口を跳ね上げた。
「こんばんは、ネルフィアさん」
「こんばんは、ロピア。……アヴリと呼んだ方が良いですか?」
「私だけだからロピアで大丈夫」
ネルフィアもロピアだけというのを理解した上で、あえて聞いたのだろう。そうでなければ、この陣幕まで辿り着けない。彼女一人だったから、第10騎士団も顔パスで通したのだ。
「しかしどうしてロピアがここに? 馬車の方で異変でもあったのか?」
ゼクシアの問いにロピアは首を振った。
「もうみんな寝たから。ちょっと遊びにきただけ」
「もう寝た? 随分と早いな」
確か、馬車組は馬車の中に簡易ベッドを作って全員で眠ると聞いていた。が、それにしてもまだそこまで遅い時間ではない。
「疲れちゃったんだよね。みんな馬車で長時間移動も慣れていないし、朝からずっとテンション高かったから。ご飯食べたらあっという間」
「なるほど」
日常的に第10騎士団と接しているロピアとは、慣れも基礎体力も違う。
「ロピアちゃん、お茶入れるから座って」
「サザビーさん、それなら俺が」
「サザビーさんも座っていてください」
レゼラゼにお礼を言って、ゼクシアの前に座るロピア。
「……なんだか疲れているな?」
「わかる?」
「ああ」
「色々話題に気を使うのよ。そんな時間がずっと続くから、正直ぐったりする」
言いたいことは大体わかる。当然のように顔パスでゼクシアの陣幕に出入りできる娘と、本当の庶民の娘では話が噛み合わない。
「……なんというか、お疲れ」
「お気遣いどうも。……ところで今回はユイメイさん達が後から来るの?」
「ああ。誰かから聞いたか?」
「ううん。この手のイベントで、ゼクシアの護衛にあの二人がいないとは思えない。パパなら必ずつけると思ったから」
まあ、その通りだ。あの二人は独自の嗅覚が持つ。危機察知には適任の人材といえる。
「少し前に任務に駆り出されたのだ。今はジュノス達と一緒に任務中のはず」
「げ。ジュノスくるの?」
露骨に嫌そうな顔をするロピア。
「一応若手筆頭の武将だぞ。そこまで嫌そうにするな」
「い、や」
ロピアとジュノスはどうも相性が悪い。というか、ロピアがあまりよく思っていない感じだ。
理由ははっきりしている。今でこそかなりまともになったとはいえ、昔のジュノスは結構な傍若無人ぶりであった。
ゼクシアはあまり記憶にないが、ロピアはその頃の我が母上への対応を覚えていた。
結果的に昔から母上を慕っているロピアは、うっすらと敵認定しているのである。
「まあまあ、それよりお菓子食べる?」
「……食べる」
サザビーがやんわりと話題を変えて、その夜はゆるゆると過ぎていった。
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2日目、3日目と順調に行程が進む。
「明日には目的地に着くな。今日は確か、町で休めると」
ゼクシアが旅程を思い返しながら口にすれば、
「ええ。補給も兼ねて、モリスという小さな町に立ち寄ります。殿下は宿でお休みいただきますが、お疲れですか?」
「いや、疲労は問題ないが、毎回私のためだけに陣幕を用意してもらうのは、少し申し訳なかったのだ。一日でも負担が減るならその方が良いと思った」
「ご配慮ありがとうございます」
「それに、馬車組もそろそろちゃんとしたベッドが恋しい頃だろうしな」
学園の生徒も町で一泊予定。初日はともかく、日を追うごとに目に見えて口数が少なくなってきていたので、この辺りでちゃんと休ませた方がいいだろう。
「あまり疲弊している者がいたら、ここで待たせる予定です」
そのあたりはすでに織り込み済みか。
「まあ、その方がいいだろうな」
こうして到着したモルスの町で、思わぬ事態が発生するとは、ゼクシア達も想像していなかった。




