【やり直し軍師SS-574】遠路訓練(4)
「もう一人重要人物がいる。確かに王子がそう言ったのだな?」
今聞いたばかりの言葉を、ログガットが繰り返す。
「ああ。その直前に馬車の中に何か声をかけ、その後、護衛について確認しながら間違いなくそういった」
問われたディオウも、同じようにもう一度同じ言葉を並べる。
ログガットは腕を組む。王子を狙ってここまで計画を進めてきたが、想定外の情報だ。
「狙いを変えるの?」
ともに聞いていたアリエスタの質問に、ログガットは何度か耳たぶのピアスに触れながら考える。
「……俺たちの目的はこの国を混乱の最中に落とすことだ。そのためにはゼクシアを殺すのが一番効果的ではある」
ルデクの第一王子、ゼクシア。その下には妹が一人のみ。ゼクシアが死ねば、継承で一悶着あるはず。
「しかし、ゼクシアのそばには手だれが多い。特にあのサザビーは厄介だ」
宰相ロアの側近の一人、サザビーの実力はよく知っている。何せ、深夜のトラド学院で実際に刃を交えたのだから。
あの一件、王都混乱のとっかかりを掴もうと、少々前がかりになってしまったログガットの失態だった。
まんまとサザビーに誘い出され、危うく全滅の憂き目を見るところであった。
多くの同胞を失ったが、組織が崩壊するほどではない。ゆえにこうして虎視眈々と好機を探っていたのだ。
今回の一件は千載一遇。しかしサザビーをはじめとした防衛網を掻い潜り、王子を暗殺するのは簡単ではない。
そんな中で降って湧いてきた“もう一人の貴人”の情報。
「……せめて、馬車の中の人物が特定できればいいのだが」
「無茶を言うな。運良く隠れられるような沼地があったから、あんな近くに潜めたのだぞ。おかけで俺は泥まみれだ」
抗議の声を上げるディオウに詫びていると、アリエスタが、
「もしかして、王女も一緒なんじゃ……それなら馬車の中にいるのも納得できる」
と口にしたが、ログガッドは即座に否定。
「いや、流石にそれはあり得ん。継承権一位と二位を式典でもないのに連れ回すなど、ルデクの上層部もそこまで馬鹿ではない」
「じゃあ、ログガッドは誰が乗っていると思うのよ?」
「……少なくとも、王子が“重要人物”と口にするほどの相手だ。普通に考えれば王家の人間である可能性は高い。例えばそうだな。直系でない王族かもしれん。ゼランド王には従兄弟もいる。その筋の可能性がある」
「なくはないわね。……例えば、北ルデク公の縁者とか……」
アリエスタが不快そうにその名を吐き捨てた。
北ルデク。それは祖国の上に乗っている仮初の名。
「……なあ、ロクガッド、こんな案はどうだ?」
「話せ、ディオウ」
「その馬車に乗っているのが誰であれ、少なくともゼクシアよりは警護が厳しくないのは間違いない」
「ああ、お前自身がそう聞いてきたのだからな」
「さらに、これは予想の域を出ないが、馬車に乗っているのは子女だ」
「まあ、演習内容を考えればそうだな。……ああ、お前の言いたいことが分かったぞ。馬車を攫って、餌にする」
「そう言うことだ。馬車の中の人物が誰であれ、ゼクシアが気にかけているのなら、誘き出すために使える」
「しかし、誘い出せるか?」
「無理なら馬車の貴人を殺してしまえばいい。多少なりとも王都に動揺が走るだろう?」
「……なるほど、悪くない。ではその方向で進めよう」
「よし決まりだな。じゃあ、それぞれの役割を決めるか。他のやつも呼んでくる」
「頼んだ」
こうして集まった者達を交え、今回の作戦の基本方針を伝え、本格的な役割分担に移ってゆく。
「―――まあ、こんな感じだろう。いずれにせよ仕掛けるのは数日後。それまでに準備を進めろ」
ロクガッドの命令に、それぞれが頷くのを確認すると、ロクガッドは組織の誓いの言葉でその場を締める。
「デジェストの意思は我らが魂に」
「「「「「「デジェストの意思は我らが魂に」」」」」」
悪意は静かに、動き出した。




