【やり直し軍師SS-572】遠路訓練(2)
ゼクシア達は粛々と西へ進む。
今回の遠路訓練に同行が許されたのは、トラド学院の生徒中でも一定水準の騎乗技術を備えかつ、成績上位の一回生である。
ユイゼスト、メイゼストの養子であるレゼット、ラゼットの双子はもちろん、貴族の出身のセルジュ、オーリンも参加を許された。
そして意外なところでは、庶民の出であるコナーも。
「いや、田舎の人間の方が馬に乗れるやつ、多いと思うぞ? 農作業があるから」
コナーに指摘されてみれば尤もだ。馬に乗るのは何も軍事行動だけではない。
そうして改めて参加生徒を見渡してみれば、確かに成績上位者の中でも、参加資格を得たのは貴族と地方出身者が多いように感じる。
何事も先入観は良くないな、と、ゼクシアが一人で反省していると、
「殿下、足元にはお気をつけを」
そう注意してきたのはネルフィア。今回は珍しくネルフィアが帯同している。もちろん、ゼクシアの教育係のサザビーも一緒だ。
ネルフィアがこういった表舞台に出てくることはほとんどない。出発前にゼクシアが「意外だな」と口にすれば、
『殿下が参加なさるのですから、これでも手薄な方かと思います』
との返答。
当然ゼクシアとしても、己の価値は認識している。だが聞くところによれば、後からユイメイもやってくるそうなので、もはや過剰防衛な気もしなくはない。
もちろんこの一団にいるのはネルフィア達だけではない。生徒の安全確保と、訓練教官も兼ねて、40名ほどの第10騎士団が協力してくれていた。
さらにそれらを率いるのは、リュゼル将軍という万全ぶりだ。
ちょうどリュゼル将軍の話題になると、オーリンがうっとりしたため息を吐き、しみじみと「素敵ですよね」とつぶやく。
「お? オーリンはリュゼル隊長が好きなの?」
からかうように口にしたコナー。
中央貴族でも有数の名家の娘であるオーリンは、学院内でも遠巻きに眺められる存在だが、この気取らなさがコナーの良いところだ。
「ええ。リュゼル将軍は幼い頃から憧れなのです。リュゼル将軍のような騎士になりたくて、学院への受験を決めたくらいですよ」
「へえ。確かに。かっこいいよな〜」
「ええ。そういえばセルジュさんはウィックハルト様に憧れているんでしたっけ?」
話を向けられたセルジュは、のんびりと頷く。
「うん。そうだよ。だから弓の練習はずっとしてる。まあ俺の場合は明確に騎士になりたくてってわけじゃなくて、実家の都合って感じだけどね」
どこか飄々としたセルジュは地方の中流貴族の出自。家の期待を背負って王都へやってきている。そんなセルジュが今度はレゼット、ラゼットに話を振った。
「レゼットとラゼットはやっぱりユイゼスト様とメイゼスト様に憧れているのかい?」
「私たちですか?」
「うーん……そうですね」
そこで一回言葉を切って、二人はネルフィアとサザビーに視線を向ける。
「母上に尊敬はありますが、俺の憧れはサザビーさんですかね」
「同じく母様は尊敬していますが、私はネルフィア様です」
「……いやあ、嬉しいねぇ。……でもそれ、君たちのお母さんには言ってないよね?」
若干引き攣った表情で問うサザビー。その懸念はゼクシアでも理解できる。あの二人が聞きつければ、間違いなく面倒なことになるだろう。
「ご安心ください」
「母様と母上の性格はわかっています」
「だよねぇ。いやあ。よかった!」
大袈裟に安堵するサザビーが、ちょっとした笑いを誘っていると、話題のリュゼル将軍がこちらにやってきた。
「殿下、特に問題はありませんか?」
「ああ。問題ない。……先頭で異変でもあったのか?」
「いえ。一度後方まで様子を見に行こうとしている途中です。……後方には学園の馬車もありますから」
ゼクシア達学院の生徒が騎乗して進んでいるのに対して、ルファンレード学園の生徒達はその全員が馬車での移動だ。その数3台。
引率の教師を含め、12名が参加していた。
そのうちの一人が、アヴリを名乗っているロピアである。
ちなみにロピアは全く問題なく馬に乗れる。
幼い頃から、某馬好きの二人が必要以上に丁寧に教え込んでいる。その上、稀に第二騎士団のニーズホック騎士団長からも直々の手ほどきを受けているので、おそらく学院内でもロピアほど乗りこなせる生徒はそういない。
とはいえそれは、英雄宰相の娘であるロピアのことであり、学院に通う庶民のアヴリは別。当然のように馬車に乗っていた。
馬車は学院の生徒が警護枠を担いながら進んでいる。今回の訓練の一環だ。
本来であればゼクシアもその役割を負うべきなのだが、立場的にむしろ護衛される側なので、ここまではわがままにならぬように配慮していた。
「では、失礼致します」
早々に去ろうとするリュゼルへ、
「いや待て、私も行こう」
と呼び止める。
「いや、しかし……」
よい機会だ。リュゼルも一緒ならば、ネルフィア達も文句は言うまい。
「学園の生徒の警護は訓練の一つなのだろう。その生徒である私とて例外ではない。私だけがこうしてのうのうとしているのは、学院の趣旨から外れるだろう?」
「ですが」
なおも難色を示すリュゼルであったが、
「ネルフィアとサザビーに加えて、リュゼルもいるのにこの私に危機が訪れると?」
と畳み掛ければ、流石に言葉に詰まる。
こうして説得に成功すると、ゼクシア達は揃って後方へと下がってゆくのであった。




