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【やり直し軍師SS-553】甘き集い、再び(8)


 トラド祭り当日。


 孤児院の敷地が開放され、広場には多くの市民が足を踏み入れている。


 この日に限っては、孤児院の通りに無許可の屋台を出すことが許され、子供たちが自ら製作した、ちょっとした商品や食べ物も売られていた。


 かつてはこの屋台の収入も、孤児院を運営するための重要な資金源の一つであったらしい。


 国も多少は支援していたけれど、戦時中は国としても予算は戦費を中心に組まねばならず、孤児院の運営などは注目度が低かったのだ。


 貴族の手厚い支援が始まってからは、これらの屋台は子供たちの職業訓練的な意味合いが強くなっている。


 それらの屋台とは別に、逆に孤児院と近隣の子供達向けの店もある。子供たちには既定の枚数のチケットが配られ、その範囲内であれば、全ての屋台のものを無料で求めることができる。


 大半は食べ物関係で、特に甘味を扱うお店が多い。なお、大人でも代金を払えば普通に購入可能。


 ちなみにこのチケットも、一年間手伝いを頑張った子供には多く配られるそうで、孤児院内の治安の維持にも一役買っていたりする。


 僕らが手伝いに来たのはルデクトラドでも一番大きな孤児院なので、人の出入りもかなり多い。


 他の孤児院はここまでではないとは思うけれど、資金援助は等しく行われているため、今日はどこも盛況だろう。


 と言うわけで僕とリヴォーテは今、孤児院の敷地の屋台でクロップ巻を黙々と作成している。


 リヴォーテが生地を作る係。僕が焼く係。あとはアウリルが泡雪(ホイップクリーム)を作り、ローメート様をはじめとした貴族の女性陣が果実の飾り付けと提供役。


 万全の体制かと思っていたのだけどとんでもない。


 焼いても焼いても終わりが見えない。


 どうやらこのクロップ焼きは子供たちの心を無事に掴んだようだ。先ほどから延々と行列ができている。


 子供たちの様子を見て、大人たちも興味津々でこちらを見ているが、今日は子供たちのお祭りであるので、子供の波が引かない限りは並ぶことができずにいた。


 ただもう、今日は終日、子供の行列が途切れることはないのではないかという勢いだ。


 果物を数種類用意して、好きに選べる方式をとったため、一度食べ切った子供が、別の果物での組み合わせに挑戦しようと再び並ぶのである。


「……他の孤児院にも伝えておいて良かったですね。そうしなければ後から不公平だと言われたかもしれません」


 こちらも黙々とひたすらに泡雪(ホイップクリーム)を作っていたアウリルが誰に言うでもなく呟く。


 クロップ焼きのレシピは各孤児院に共有されていた。これはローメート様の提案である。


『美味しいお菓子はたくさんの人に食べてもらいたいのです』


 と言う気遣いによる。作り方そのものは難しくない。泡雪(ホイップクリーム)を作成できる人がいれば問題ないため、他の孤児院で再現するのも問題なかった。


「そうだね。それにしても……ものすごい」


 焼いた端から消えてゆく生地。ここ最近で一番忙しいの、今この時かもしれない。僕がそう口にすれば、アウリルが苦笑する。


「当然かと思います。クロップ巻きは間違いなく、新しい名物になる可能性を孕んでいるお菓子です。生意気な物言いになってしまいますが、本当に宰相様の着眼点は素晴らしいものがあると思います」


「いやいや、僕は元となるアイディアを提案しただけで、凄いのはこの形を考案したリヴォーテや、実行に移したアウリルやローメート様たちだよ」


「む? 何か呼んだか?」


 一心不乱に生地を混ぜていたリヴォーテが名前に反応する、


「リヴォーテの食の探究心がすごいって話」


 と伝えると、


「……俺はそこまで食べることに興味はない。あくまで効率的な方法を口にしただけだ」


 などと言って、再び生地作りに没頭する。


 リヴォーテ、なぜか自分が食にこだわっていると思われたくないらしく、こう言う時は頑なに否定するのだ。


 食い意地が張っていると思われたくないのかな。割と公然の秘密みたいになっているけれど、本人がそう主張するなら、まあ、そう言うことにしておこう。


「あ、そういえばさ、アウリルに聞きたいことがあるんだけど」


「なんでしょうか?」


「ロエナのこと。王都でも育てられるって言っていたけれど、育成は難しいの?」


「いえ。そこまで手間かかかりません。ただ葉っぱが大きいので場所は選びます。それとやはり、寒さが続く年などはあまり育ちが良くありません」


「なるほどね。……じゃあ、一応大量生産も可能っぽいかな」


「できなくはないとは思いますが……そこまで大規模に育成したことがありませんので、なんとも」


「分かった。ちょっとまた相談させてもらうかもしれないけれど、その時はよろしくね」


「……はい。私の拙い知識でよろしければ」


「おい、手を動かせ」


 リヴォーテの指摘によって、僕は慌てて生地を焼く仕事に戻る。こうして本当にひたらすらクロップ巻きを作っていたら、いつの間にかトラド祭りは終わっていた。


 この日のクロップ巻きは、王都で大きな話題となる。


 そうしてちょっとしたブームを巻き起こすことになるのだけど、それはまた、別のお話。




今回はあと3話ございます!

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― 新着の感想 ―
最弱者であり最貧民である孤児を中心に据えたイベントで、嗜好品である菓子の最先端を振る舞う… なかなか無いことですよね ルデクの強さの発露と感じました
 想定とは違う形で直接的にロア(と太郎)に仕事が回ってきたw お祭りの時のガキンチョの食欲は洒落にならんしな、クロップ巻き(クレープ)なら男女問わず売れまくるやろう。
これだけ平和や笑顔を作れる王族がいたのに本当の歴史は暗愚と言われていた王とは周りの貴族がかなり腐り切ってたのもあったか…
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