【やり直し軍師SS-530】惜しい男(下)
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さて、どんな命令が降ることやら。
グランツは小さくため息を吐きながら王都へと到着した。
帝国が動き、戦い間近のこの状況で呼び出されたのだ。第一騎士団との因縁を考えれば、何らかの閉職に追いやられることは容易に想像できる。
本来ならば今は一兵さえ惜しい状況のはずだ。このような嫌がらせをしている暇などないだろうに。
せめてもの抵抗として兵装でやってきたので、目立つ正門は避けて軍用門へ向かう。
「止まれ! どこの所属の者か!?」
「第五騎士団所属のグランツだ。王の命令でやってきたのだ」
門番に命令書を見せると、「少しここで待っていろ」と言い残して去ってゆく。そうして待つことしばし。戻ってきた門番に誘われて王宮へと向かう。
道中、時折すれ違う同胞の様子を窺うも、第五騎士団ほどピリついた雰囲気はない。
王都を軍装で闊歩している以上、おそらくその大半は第一騎士団所属だろうと思われるが、このような状況下にしてはあまりにも……。
「ここだ。部屋で待て」
「ここ? 謁見の間ではないのか?」
王の呼び出しであるから、当然謁見の間に通されるかと思ったが、連れてこられたのは別の場所。
王宮内ゆえに、扉のしつらえは豪華であるものの、至って普通の部屋にしか見えない。このような場所で謁見するのか?
「俺は言われた通りに連れてきただけだ。ここで待てとの命令だ。入って待っていろ。それじゃあな」
つれない返事で早々にいなくなる門番を見送り、命令ならば仕方なしと部屋へと入る。
中は思ったよりも広く、ちょっとした会議を行うような場所だった。軍議などで使用する部屋かもしれない。
と、グランツが中を見渡そうとすると、部屋の一番奥に座って、こちらを観察している人物がいるのに気づいた。
目つきの鋭い文官のようにも見えたが、その居住まいから同じ軍部の人間だと思い直す。
若手官僚と言われてもしっくりくるような、どこか不思議な雰囲気のある男だ。 己の記憶を探るも、その顔に見覚えはない。
一瞬の睨み合いののち、そいつは表情を和らげると口を開いた。
「貴殿が第五騎士団のグランツか?」
「そうだが、それを問う貴殿は誰だ」
「私は―――」
相手が名乗ろうとした直後、慌ただしく扉が開くと数名の兵士が並び、その直後に王が入室してきた。
グランツは即座に膝をつき、王へと頭を下げる。
「かまわぬ。顔を上げよ」
「はっ」
「お前がグランツだな? すまんな、少々立て込んでおった」
まさか王がこうも気軽に登場するとは思ってもみていなかった。少々戸惑うグランツが何を口にすべきか迷っていると、王は部屋の奥にいる男へ視線を移す。
「レイズ、すでに顔合わせは終わっているのか?」
「いえ。グランツ殿も、つい今しがた部屋に入ってきたばかりですので」
「そうか。ではまずは紹介しよう。グランツ、そこにいるのはレイズという」
「レイズ様、ですか」
王直々の紹介ということは、貴族か。ではやはり、第一騎士団の。
グランツがそんなことを考えていると、当のレイズ本人は苦笑しながら近寄ってくる。
「私に畏まった挨拶は不要だ。つい先日、王よりお引き立ていただいたばかり。それも様々な理由あってのこと。改めてレイズという。よろしく、グランツ」
差し出された手を困惑のまま軽く握り返せば、そのままの姿勢でレイズは続けた。
「……ところで不躾な質問になるが、グランツは第一騎士団と揉めて、第五騎士団でも微妙な立ち位置にいる。その情報に相違ないか?」
本当に不躾な質問だ。概ね事実であり、自分でも認めてはいるものの、さすがのグランツもムッとする。
「……少なくとも、第五騎士団で浮いていると感じたことはございませんが?」
そんなグランツの言葉は無視して、
「おそらく、今回の呼び出しは第一騎士団の嫌がらせ、そんなふうに考えたのならば、違う」
「なぜそう思われるのですかな?」
「何、簡単な話だ。王は詳しい内容を命令書に載せず、グランツは王宮へ兵装のままやってきた。もはや、一考するまでもない」
随分と目端のきく男のようだが、ではなぜ、自分はこの場所に呼ばれたのであろうか?
そんな心の中を見透かすように、レイズは、
「戦場で死ぬ気はあるか? グランツ」
と問うてくる。
「……愚問ですな。戦場で散ることこそ、我が本望」
「それでは駄目だ」
「何? 先ほどから随分と……」
「帝国に勝つ」
レイズの突然の宣言。
「は?」
「死ぬのではなく、生き残る信念を持った将が欲しい」
「お前……いや失礼、貴殿は一体何を……」
「帝国と戦うために、新しい騎士団を創るのだ。グランツ、協力してくれるな?」
有無を言わさぬ物言い。握ったままのレイズの手の力が、少し強くなる。
虚言と笑うのは簡単だ。だが、どうしてもそれができない。
何かグランツには見えないものが、このレイズという男には見えている気がする。
膂力は明らかにグランツの方が強いはずなのに、どうしても手に力を込められずにいる。
得体のしれぬ、小さな恐怖。
グランツの額を一筋の汗が伝った。
これがグランツにとって、すべての始まりとなったのである。




