【やり直し軍師SS-528】南征(37)
今回はここまでです!
長いお話でしたがいかがでしたでしょうか?
次回は10月5日から!
書籍版&コミック発売カウントダウン更新となります! 話数短めですが、ひとつのテーマでまとめてみました〜
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僕の予想通り、ブラノアはやってこなかった。
理由は病によるためだそう。追及するつもりもないのだけど、代わりに現れた人物には少し驚いた。
スラン王である。
まさか、臣下の代理で王が出張ってくるとは思わなかった。確かにこれなら、僕らも文句のつけようがない。
よくもまあスラン王を説得したものだ。これはブラノアの意地かな? 『すべてお前達の思う通りに行くと思うな』とでも言いたいのか。
それとも逆にブラノアは発言力を失い、これ以上選択は誤れないとみた王が、自ら出てきたか。
正直どちらでも僕らは構いやしない。スラン王まで巻き込めたのであれば、目的は十分に達せられる。
ルデクや帝国に安易にちょっかいを出したらどうなるか、よくよく理解してくれた事だろう。
スラン王は今回の件に対し、完全なる第三者を決め込んだ。
僕らに対しても『此度は南の諍いに巻き込んでしまい、申し訳ない』などと謝罪の意を示し、こちらの要望をすべて飲んだ上で、責任もって監視すると約束したのだ。
ひとまずこれですべて完了である。
僕らは速やかに軍を退き、撤収の準備を進めると、出立の前々日に宴会を行なった。
これは戦勝祝いではない。この地に残してゆく魂達に捧げる儀式。今回の戦い、全体的に見れば僕らの圧勝とはいえ。被害なしというわけにはいかない。
海を渡るまでは当然のように隣にいた友を、異国の大地に残して帰る。
これが戦争。
新兵であっても、戦を美しいなどとのたまう者はもういないだろう。
酒はモリネラ王に提供させた。兵達には好きなだけ飲むように言ってあるので、明日一日は動けない兵士も出てくるかも知れない。それもいい。
ウラル殿下やジュノスも、色々と学ぶことが多かったようだ。
『帰国したら、各騎士団を巡って修行したい』
などと口にする表情は、随分と引き締まって見えた。
「ロア殿? 飲まないんですか?」
「いや、飲むよ。サザビーも今回はお疲れ様。第八騎士団には随分と世話になったね」
新兵達の被害が最小限で済んだのは、間違いなく、ウラル隊に混ざり込んでいた第八騎士団のおかげだ。
「いえいえ。たまにはこういった任務も刺激になりますから。ロア殿もお疲れ様でした」
僕とサザビーが軽く杯を合わせたところで、
「ロア! 肉が足りなくなった!」
「ドラクのやつが盗って逃げた!」
「陛下を盗人扱いするな! 斬り捨てるぞ!」
「やるか!?」
「その片眼鏡ぶち割るぞ!」
と、騒がしい面々が僕らの方に近づいてくるのが見えた。
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旗艦船は洋上を軽快に進む。
流石ノースヴェル様は有能だ。出航して間もなく、うまく海流に乗り、瞬く間にモリネラ王国は見えなくなった。
僕は彼方に消えたモリネラの大地に想いを馳せる。なかなか疲れる遠征だった。
早く帰ってラピリアやロピアの顔を見たいな。
北の空を見ながら妻と娘の顔を思い浮かべていると、陛下がやってくる。珍しくひとりだ。
「どうしたんです?」
「ロアに頼みがある」
「何でしょう?」
「オリヴィアに手紙を書いてくんねえか?」
その一言で僕はすべて理解する。
「ルベットの件ですね。助命嘆願ですか?」
今回の遠征で、大きな罪を犯したルベットは、帝国内でも問題になった。
命令を無視して流言に踊らされ、軍令違反を犯し、有望な若手を扇動して連れてゆき、さらにはその半分を死なせるという失態は、言い訳できるものではない。
現在は拘束され、船室に軟禁されている。
ウラル王子らも似たような軍令違反を犯したものの、ルベット達を助けるための行動である点、砦を陥落させた功績、それにルデクの第二王子という立場が加味され、厳重注意で納めた。
けれどルベットはそうはいかない。
「ネッツがこの結果を知れば、あいつは間違いなく息子に死罪を望むからな」
ネッツ将軍の立場を考えれば仕方のない判断だと思う。上皇陛下の右腕たるネッツ=ストレインの息子が、身勝手な行動で帝国軍に看過できぬ被害を与えた。広く噂にもなるだろう。
ここでルベットが許されれば、『ネッツ=ストレインが権力で揉み消した』と認識する人は少なくない。帝国のことを思えば、ネッツ将軍は自ら厳しい処断を望むしかないのだ。
そしてそれは上皇も同じ。陛下が口添えをしても、ネッツ将軍への忖度にしか映らない。
特に今はタイミングが悪い。皇位を譲ったばかりで、上皇とその腹心の命令に従う新皇帝というのは、あまり外聞のいいものじゃない。
そこで僕だ。そしてルベットの母、オリヴィア様。
オリヴィア様もまた、国家の礎を築いたひとり。ただし、既に引退同然の身であり、陛下の腹心的な立場からは外れている。
しかしながらその功績を無視できる者は、帝国内にはいないという存在。
そのオリヴィア様が、独自に僕から助命の嘆願書を引き出したとすれば、これは瞬く間に政治的な話に変わる。
オリヴィア様の功績と、オリヴィア様に協力した僕の立場を考えれば、皇帝も無視できない。多分、処罰なしとは行かないけれど、死罪を免れる程度の効果は得られるかも知れない。
……というシナリオにしたいのだろう。
もとより新しい皇帝もルベットの首にこだわりはしない。今後のストレイン家との付き合いも考えれば、穏便に済ませたいことは簡単に想像できる。
「……僕は問題ないですよ。今のうちに認めておきますから、うまくオリヴィア様へ渡してください」
「感謝する」
「一応、聞いてもいいですか? その後、ルベットはどうなるんですか?」
「軍部は無理だ。ロカビルの下に席を用意してやる。帝国の臣下として生きるなら、そこで必死にやるしかない。それが嫌なら、あとは知らん」
僕は少しため息を吐く。本人が強く望んでいたのは、父の、ネッツ将軍のような英雄であったはず。
彼は焦りすぎたのだ。戦いの無くなる世の中で、他に父親に追いつく方法を見いだせなかった。
才能はあった。
でも、時代が悪かった。
いや、逆かな。彼は生まれた時代が良かったんだ。これが激動の時期であれば、どこかで命を落としていた気がする。
ルベット=ストレインは今ごろ、強い後悔と絶望の中にいるだろう。
けれど、彼が本当にしなければならないのは、周囲の人々への感謝だ。陛下も最大限の温情を見せている。あとは本人次第。
「……ひとつ、貸しですよ?」
「おうよ」
僕らの言葉は風に乗って空を舞う。
海鳥が鳴きながら、船の上を飛んでいった。




