【やり直し軍師SS-523】南征(32)
本日コミック一巻の書影解禁となりました!
詳細は活動報告にて!
翌日、本来なら会談が始まる時間に、僕は不機嫌な陛下に呼び出されていた。
その原因となる知らせが届いたのは、早朝のこと。
『モリネラ王体調不良につき、会談を数日見合わせてほしい』
王が体調不良では、流石に無理強いはできない。ただ、それが事実であるのなら、だけど。
陛下が不機嫌なのもその部分に起因している。
僕らがモリネラ王都へ到着した時、右大臣のダラーロは会談を2〜3日後にしようとした。それを陛下が覆したばかりだ。そうして今度は王の急病。まず間違いなく嘘。
「ロア、どういう狙いがあると見ている?」
陛下の問い。多分、陛下自身もある程度読めてはいるはず。
ディアガロス山の麓を出立して、僕らがここに到着するまでかかった時間が3日半。もしも僕らが出立した後に、ディアガロス山近郊で何か起きれば、その知らせが届くのは早くて3日。偶然の付合、ではないだろうなぁ。
「……ディアガロス山、でしょうね。多分、あそこで何かある」
「そうだな。ではそれは、こちらが譲歩しなくてはならないような理由か?」
それが微妙なところだ。僕らが譲歩しなくてはならないほどの事象となれば、両国の新兵部隊が壊滅し、ディアガロス山周辺を、ロメロ・ヴィアレの両軍に制圧された場合くらいしかない。
けれど両国の部隊はそれぞれの国境付近で対峙中。いくら新兵相手とはいえ、それらを圧倒できるほどの兵力を投入できるか疑問だ。
ブラノアの所属するスラン王国が動く可能性も完全に否定はできないけれど、ブラノアの性格や、国際情勢を見ればブラノアがそれを選択するとは思えない。
となると、もっと小規模で、それでいて僕らが困るような被害の一報が届くのを待っているのかな。ならば、やはり、僕が思い当たるのはこれしかない。
「ウラル殿下の戦死の一報待ち、かもしれません」
帝国はともかく、ルデクにとっては最悪の事態だ。交渉どころではない。
すぐにでも帰国を、となれば帝国と揉める。いくらルデクの事情があれど、帝国とて北の大国としての面子がある。陛下が首を縦に振っても、帝国諸将からの不満は避けられなくなるだろう。
つまり、ブラノアの当初の目的は達せられるわけだ。
「やっぱそこか。なら、一緒に連れてきた方が良かったんじゃねえか?」
陛下がそう考えるのは至極もっとも。
一般的な考えであればだけど。
「ウラル殿下を連れてくるとなれば、ブラノアはまた別の手を考えるでしょう。それがどんな策なのか探るよりも、狙いを絞りやすくしておいた方が良いかと」
「お前……自分とこの王子を餌にしたのか?」
「人聞きの悪い。これでも打てる手はちゃんと打ってきてますよ。よほどのことがあっても、殿下が討たれる心配はないと信じています」
「……それもそうか。なら、余計な被害が出るよりも回避しやすいな」
「ただ、僕が色々仕込んだのは、殿下の周囲がほとんどなので、他の方法を取られると困るんですけどね」
「いや、それはない。実のところ、俺も、リヴォーテも同じ考えに至っていた。俺たちの想定がここまで合致しているなら、ブラノアの狙いはそこだ」
陛下がリヴォーテを見ると、リヴォーテは頷き、口を開く。
「一応こちらも少し、“仕掛けて”おいた。ブラノアが動きやすいようにな」
「へえ。どんな?」
「簡単な話だ。新兵が勝手なことをした場合、部隊への大きな被害が出ないようなら、好きに泳がせろと命じてある」
「グリードルの方が新兵を餌にしている……」
「軍令を守らず、勝手なことをする者を見極めるにはちょうど良い」
たまに登場する切れ者のリヴォーテは、当然のように言う。ルデクよりも長い間戦いを続けていた帝国の方が、新兵に対する扱いはずっと厳しい。
「とにかく、ディアガロス山から知らせが届くまでは、あの臆病者も穴倉から出てこねえだろ。今のうちに、方向性を決めとくか?」
陛下の提案。実は、この数日の時間的猶予は僕らにとっても悪い話ではない。戦場からここまで慌ただしく、帝国との思惑の共有も不足していた。
「基本路線は出陣前に話していた通りで、問題ないかと。ただし、ディアガロス山でのブラノアの策は失敗します。となれば、それも盛り込んで動くべきでしょうね」
「ブラノアの失敗を断言するか。それほどの仕込みをしてきたのか?」
「まあ、そんなところです」
新兵の中には、たくさんの第八騎士団が紛れ込んでいる。普段顔を晒さない第八騎士団は、こういう時都合が良かった。
もともとルデクの新兵は若手だけじゃない。なので違和感なくねじ込むことができたのだ。
多分、帰国して別れるまで、熟練の第八騎士団員だと知られないままの人も少なくないと思う。今後の活動のために、多少変装している人も結構いる。
そもそもウラル殿下はああ見えて慎重なところがある。人の話を聞き入れることもできるし、個の実力も申し分ない。本当に良い成長をしているのである。なので正直あまり心配していなかった。
僕らは僕らの役割をこなそう。
そうして3日後の深夜、僕らの予想通り、ディアガロス山での一件がサザビーの元へと届いたのである。
さあ、反撃の時間だ。




