【やり直し軍師SS-489】旅立ちの日(2)
ザンザルは農業と養蚕業で成り立っていました。ただ、少し変わっていたのは、そのどちらの産業においても、星読みを重視していたことです。
星読みで吉兆が出た日に種を蒔き、凶兆が見えた時はそれぞれ家にこもって静かにしているような。
どうしてそんな文化が根付いたのか、私も詳しくは知りません。
先ほどロア様が仰った通り、小国として認められた頃から連綿と続いているそうですので、もしかすると初代の王に関係しているかもしれませんね。
ちなみに、土地の人間が言うには、ザンザルは星読みの発祥の地だそうです。
ただし、私が各地を旅して見聞きしただけでも、星読み発祥を名乗る場所は、少なくともあと8箇所はありましたので。この辺りは眉唾だと思います。
集落には常に3人の星読み師がいて、様々な行事に際して交代で星を読んでいました。
一口に星読み師といっても、精度はまちまち。それでも人々が星読みを頼りにしたのは、ザンザルの立地にあります。
周囲を山に囲まれた高地。不作や絹生産の減少は生活に大きく直結します。厳しい年は周辺に出稼ぎに行かなければ、冬を越せないほどに。
ですのでほんのわずかでも、縋るものが欲しかったのでしょう。
私の祖母も、星読み師でした。
そして私の、星読みの師匠でもあります。
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「おばあちゃん!」
星読みの儀式用の特別な衣装を纏った祖母は、私が駆け寄るのを見て顔を綻ばせる。
「転ばないように気をつけなさいよ」
言いながら腰をかがめ、私を抱き寄せた。
「今日はもう、星読みは終わったの?」
「ええ。今日はおしまい」
「えー。見たかったのに」
私が頬を膨らますと、祖母はツンと私の額を突く。
「一応、誰も見てはいけない儀式なのだから、大きな声で言わないの」
「あ、そうか。ごめん」
そうは言いながら、祖母は儀式用の部屋の窓からこっそりと覗かせてくれるのだ。私はそんな祖母の星読みを見るのが好きだった。
星読みとは、水晶の中に見える星々との対話。常々祖母が言っていること。
なので星読みを見学したところで特別な動きはない。ただ、老女が水晶を黙って見つめているだけ。けれど、その姿になんだか惹きつけられるのである。
「困った孫ねぇ。でも、もしかしたら、あなたにも星読みの力があるのかもしれないわ」
「本当!?」
星読みは誰にでもできるわけではない。だからこそ、星読みの力を持つ人は、サンザルでも特別な人間として大切にされる。
私もおばあちゃんのように大切にされるのなら、それは素敵なことだ。
「じゃあ、すぐにでも星読みのやり方。教えて!」
「ふふ。まだ少し早いわね。星読みはとても集中力を使うものなの。それに、使い方を間違うと大変。そうねぇ、あなたが13才になったら教えてあげるわ」
「13才? どうして13才?」
「それも星読みの結果よ。もしもその時まであなたが星読みに興味があったらね」
そんなふうに笑っていた祖母。私は約束通り、13才になったその日、祖母に弟子入りを申し出た。
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「……見えた。北の星たちがひどくぼんやりしてる。多分、近々嵐が来るわ。麦の刈り入れを早めた方がいいかも」
「そ、そうか。ゾディアが言うならそうだろう。まだ少し早いが、早速今日から麦の収穫を始めてしまおう」
私に何度も頭を下げて去ってゆく麦農家のおじさん。それを見送ってから、ゆっくりと足を崩す。
私には星読みの才能があった。わずか一年でその才能を開花させ、今では祖母の代わりに儀式を執り行うことも珍しくなくなっていた。
ここ数年で祖母は足を悪くし、星読みの部屋に行くにも難儀するようになったので、祖母としても世代交代は丁度よかったらしい。
熟練の星読み師であった祖母から、こんな小娘に切り替わったことで、当初は随分と懐疑的な視線も向けられたけれど、それも今ではかなり減ってきた。
と言うのも、私の星読みは祖母よりも正確であったのだ。
私のために設えた特別な水晶に視線を移す。私にはまだ、もっと深く遠い場所にある星を読み解くことができる。そんな感覚がある。
そのためには、今までのやり方ではダメかもしれない。
私は、祖母の教えを越え、己のやり方を模索し始める。
自分に適したやり方を身につけるまでには3年ほどの歳月がかかった。そうして気がつけば、私は人々から、神が遣わした星読みの娘と呼ばれるようになっていた。




