【やり直し軍師SS-458】知者の戦い(13)
オリヴィア様の頼みを引き受けた僕は、古典的の盤上遊戯に集中せざるを得なくなった。
結果的に、翌日からのルデク代表としての戦いは惨憺たるもの。具体的には全敗である。
帝国との対決では陛下と一戦交えて負け、ルベットよりも先に陛下の溜飲を下げる結果に。僕が足を引っ張ったこともあり、ルデクの勝率は七カ国で四番目に後退。現状の勝ち数では、トップは帝国、次にシューレットが後を追う。
僕らのチームの中で一人気を吐くのはフォリザ。帝国戦では、それまで無敗であったルベットに土をつけ、全ての代表の中で唯一の全勝を守っていた。
「や、全く不甲斐なくてごめん」
ツァナデフォルとの戦いが終わったところで、僕が二人に謝ると、逆にカペラさんが申し訳なさそうにする。
「私こそです。ロア様は例の件で大変なので、その分私が頑張らねばならなかったのですが……」
ルベットの件、事情を鑑みれば、あまり情けない姿は見せられないというか、できれば勝ちを収めたい。
そのため、僕が取り組んだのは、改めて古典的への理解を深めようというものだ。とはいえ、時間はほとんどない。そのため他の代表への対策時間を利用していた。
実力が拮抗しているのならば、対策してくる相手に無策で挑んでは結果は見えている。そして案の定苦しい戦いを強いられる悪循環である。
今回は気楽に屋台の料理を楽しんで、のんびりしようと思っていたのにとんでもない。どうしていつもこうなるのか……。
ちなみにルベットとの対決は、全ての催しが終わってからと決まった。ごく一部の関係者のみの立ち合いで行われると。オリヴィア様と陛下の間で様々な要素を鑑み、そのような形になったらしい。
陛下とも一戦交えるのかと思っていたけれど、陛下の方は通常の盤上遊戯に勝てたので満足していた。
と言うわけで今日も本戦が終わった僕は、他の対戦や雰囲気を楽しむ暇もなく会場を後にすると、城門を入ってすぐの空き家へ。
そこはリヴォーテに頼んで用意してもらった、秘密の特訓部屋である。別に王宮内でも構わないのだけど、集中できる環境の方が良いかなと思ったのである。
空き家で僕らを待っていたのはリヴォーテと双子。
「む。今日の対戦は終わったのか?」
そんな風に言いながら、テーブルに広げられた料理を片付け始める。
当初、空き家使用の監視役として立ち会う目的だったリヴォーテ。気が付けば、僕の不在中の屋敷は、双子とリヴォーテの屋台の試食会場と化していた。
会場に程近く、混雑している会場よりも、ゆっくりと料理を楽しめる点に双子が気づいたのである。
「ロア、食うか?」
「今日はこれがうまい」
もう完全に盤上遊戯に興味を失っていた双子は、対戦結果すら聞いてこない。
僕らは双子に勧められるままに腹ごしらえをして、一息ついたら古典的の盤面と向き合う。
こうして改めて追求してみれば、通常の盤上遊戯と比べて、古典的は本当に実戦的だ。遊びとしての要素は薄いし、勝敗も明確ではない。勝ち負けはあくまで対戦者同士が決める。
どちらかに、撤退の二文字が頭に浮かんだ方が負けなのだろう。
やろうと思えば最終局面までできるけれど、恐ろしく時間がかかるし、多分、それは無粋である。
各地の戦局を見極めつつ、被害を最小限にして負けを判断できるのも、古典的の上手い人間と言える気がする。
というかこれ、撤退の判断の訓練にすごく向いている気がするな。負けを見抜くための教材か。今後当面大きな戦いはないだろうけれど、視野を広く持つと言う意味では何かに流用できそうではある。
ゼウラシア王も古典的には興味があるみたいだったし、騎士団に普及させてみようか?
いや、どうせなら、本当に教材にしてみようかな。
今、計画中の王立の学舎。ここで教えると言うのはどうだろう。面白いかもしれない。
でもそうすると、教える側の人間が必要か。
あ、そうか、その辺はフォリザに依頼してみればいいのか。今回の催しのおかげで、フォリザの盤上遊戯の実力は大陸屈指であることが証明された。その才能を埋もれさせる必要はない。
現に彼女は古典的もそこそこ打てる。でもあれか、指揮官的な判断は難しいかな。
うーん。まずはフォリザから誰か騎士団の人間に教えてもらうのはどうだろう。本当はカペラさんにお願いできれば話が早いけど、トール将軍が首を縦に振らないだろうから、やっぱり第10騎士団から人選した方がいいな。
「何をぼんやりしている、俺は打ったぞ」
完全に余計なことを考えていた僕に声をかけてきたのはリヴォーテ。
古典的の練習相手はリヴォーテが担ってくれているのだ。フォリザやカペラさんは次の対戦の検討をしているので頼めなかったので、どうしようかと考えていたら、手伝いを名乗り出てくれた。
『え? リヴォーテって古典的できるの』
『うむ。多少はな』
などと言っていたけれど、相当な腕前だ。古典的が撤退の教材に良いと思い至ったのも、リヴォーテと対戦してからである。遊戯よりも実戦を意識させる戦い方は、本番の前に知っておいて本当に良かった。
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」
「時間を無駄に使うな」
リヴォーテは屋台の料理を齧る手を止めることなく、そんな苦言を呈するのだった。




