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【やり直し軍師SS-455】知者の戦い(10)


 本戦が始まった。


 初日の僕らの対戦相手は、ルブラルの代表者だ。


 相手の代表者に一人、顔見知りがいた。ルブラルの外交官で、たまにルデクにもやって来るウオーマーさんだ。


 他の国の代表も確認すると、シューレットのフィリングさん同様、一人は国の要人が混ざっている。意図的にバランスを調整したらしい。まあ、一人くらい外交慣れしている人間がいれば、催しもやりやすいか。


 それと、陛下の前でそんなことをする人物がいるとは思えないけれど、権力を後ろ盾にして相手を威圧するような参加者がいたら興醒めだものなぁ。


 といわけで僕の初戦は、そのウオーマーさんと、である。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。ロア様の胸を借りたいと思います」


「いやぁ、僕なんか今回の代表者の中では、下手な方だと思いますよ」


「ご謙遜を」


 そんな会話をしていたら、進行役より開始の音頭が。


「では、ルデク対ルブラルを開始する! 始め!」


 僕らに対してではなく、観客に知らせるための宣言だ。待ち構えていた人々が一斉に歓声を上げ、反響で少し耳が痛いくらい。


 ともあれ、試合開始である。先手はウオーマーさん。ウオーマーさんの駒には重騎兵がある。なら、どちらかと言えば守備的な戦略スタイルかな?


 正式な盤上遊戯には、一部に種類の選べる駒がある。その一つが騎兵駒。騎兵、軽騎兵、重騎兵。それぞれ機動力や動きに特性があり、自分の得意な戦略によって選ぶのだ。


 盤上遊戯に確たる定石はないけれど、たくさんの型は存在している。ざっくりと、速攻型、波状攻撃型、守備型に分類分けが可能。騎兵の種類などはその型に合わせて選ぶ人が多い。


 重騎兵は進行コマ数は少ないけれど、代わりに移動できる方向が多い。いざという時に王のそばにあると、強力な盾となる。なので序盤は守りに徹して、相手の攻め手が尽きたところで攻めに転じる守備型の戦法向き。


 とはいえもちろん相手がいる話だから、盤上の戦局を常に睨みながら、臨機応変に戦い方を変えなければ上手とは言えない。


 予想通り、ウオーマーさんはまずは僕の攻撃を凌ぐための陣形を作り始めた。対する僕は攻め急ぐ事はせずに、徐々に敵陣を削っていく方法を採用。いわゆる波状攻撃の派生戦術で、少しずつ相手の防御を削ってゆく構えだ。


 中盤、僕の攻撃が効果的に効いていると判断したウオーマーさんは、守勢を見かぎり、盤上の右側のコマを前に押し出し始めた。


 ここままの展開では不利と見たのだろう。僕が右辺の戦いに応じるか否かを、窺うような動かし方である。


 損切りの判断が早い。この場に来ているだけあって、やはりかなり打てる人だ。


 付き合ってあげても良いのだけど、今は若干だけど僕の方が優勢に見える。ならば、主導権は握ったまま進めたい。


 なので、僕は右側ではなく中央に戦力を投入。ならばとばかりに左も動かし始めたウオーマーさん。


 それならば僕は、逆に守備陣系を手堅くし始める。相手が強行に出るならば先行しているコマを戻しても良い。中央を狙うなら、手薄になった両翼のどちらかを突く。


 ここでウオーマーさんが長考に入った。


 盤面を睨んだまま、「失礼」と断って動きを止める。


 僕は一旦、盤面に沈ませていた思考を浮かばせて、手元にあったお茶を一口。ついでに他の二人の戦況にざっと目をやる。僕がいるのは中央の盤面なので、両側の戦いは確認しやすい。


 フォリザの方は、すでにフォリザがかなりの優位を築いていた。大きなミスがなけばこのまま終局になりそうだ。


 帝都に来る前に何度も対戦して、フォリザの実力はよくわかっている。僕らの代表の中では頭ひとつ抜けた実力者である。


 カペラさんの方は、僕と同じくらいの戦局かな? 互角、いや、やや相手の方が優勢か。あ、今、守勢に回る手を打った。ちゃんと見ているわけではないから判断は難しいけれど、少し苦しい一手に見えるな。なんとか凌いで欲しいものだ。


 僕がそんな事を考えていると、ウオーマーさんの手が動く。


 盤面に新しいコマの動き。


 さて、周りを気にするのはここまで。


 僕は再び、盤上の戦いに集中し始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「これ以上は無理ですな。負けました」


 ウオーマーさんの言葉で、僕はほうっと息を吐く。なんとか勝てた。望んで選ばれた訳ではないけれど、代表にである以上、一勝もできなかったらどうしようと思っていたのだ。


「宰相様、さすがですね」


 すでに勝利を収め、僕の戦いを見物していたフォリザが手を叩いてお祝いしてくれる。


「いやあ、危なかったよ。途中負けたかと思った」


「確かに、良い勝負でした」


 そんな会話をしてると、逆隣から「負けました」の声。


 カペラさんだ。粘ったけれど押し切られてしまったらしい。


「すみません、私だけ負けてしまいました」


「いやぁ、僕も危なかったし。次頑張ればいいよ」


 僕が慰めるも、しょんぼりしているカペラさん。


 とは言え2勝1敗。初戦としては、なかなか良い滑り出しといえよう。


「頭を使ったから、すっかりお腹が減ったよ。まずは何か食べてから反省会としようか」


「では、甘いものが食べたいです!」


「……私も」


 僕らはそんな感じで、最初の戦いを終えたのである。


 






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― 新着の感想 ―
静かに始まって静かに終わる、とても素敵な盤上遊戯でした。 なるほど、と思ったのは出す駒が双方違う、というルールでした。 これはよく知られているリアル盤上遊戯にはあまりないかもしれません。私はほとんどゲ…
それにしても、ザックハート様打ち負かしてたレゾール出るかなと思ってたけど、出なかったのは意外だった
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