【やり直し軍師SS-451】知者の戦い(6)
コピアルは東方諸島列島で栽培されている、豆の一種だ。
豆といっても、そのまま齧って美味しいものではない。乾燥させ、さらに炒って、それから細かく砕いてお湯を注ぎ、抽出された液体を口にするのである。
この液体は苦味が強いのだけど、頭がスッキリしたり、疲労回復に効果がある、などとされ、主に薬として珍重されている。
このコピアル。東方諸島との貿易が盛んな帝国では、少量だけどすでに流通が始まっていた。特に上皇陛下などは仕事の合間に好んで飲んでいると聞いた。
そこで思いついたのが、コピアルのゼリーである。昔の未来において、コピアルは帝国よりもリフレアを中心に各地へ広まっていた。どうやら薬効成分があるという点が、リフレアの教義にうまく合致したらしい。
ただ、そのままでは苦く、苦手な人々もいたため、ミルクを追加したり、砂糖を混ぜたりして飲みやすくするのが主流となっていった。その延長線上でできたのが、コピアルのゼリーなのだ。
確か、本来の発祥はシューレットだったはずだ。彼の国はデザートに関して実に貪欲である。果物のゼリーはすでに存在しているけれど、デザートに苦味のあるコピアルを融合させようという発想には恐れ入る。
僕が今回レシピを考えた原因は、シューレットにある。なので、本来発明した料理人には申し訳ないけれど、諸条件が揃っている帝国に伝えて試行錯誤してもらうことにしたのだ。
僕はあくまで基本的なアイディアだけ伝えて、調理手順や味のバランスは帝国の料理人に任せることにした。
一応おまけとして、雪泡のレシピも伝えてある。雪泡はルデク以外でも真似されて広まっていたので、今更隠す必要もない。
そのような流れであったので、実は僕もコピアルのゼリーを口にしたのは、先日の戴冠式が初めてだった。
お味については、ルルリアが到着した僕らを早々に連れてきた通りである。
とはいえ見た目は黒いゼリー。初見のカペラさんやフォリザは手を出しかねていた。ゼリーの横には雪泡も添えられているので、フォリザは雪泡だけ口にしている。
そんな2人に、『そうよね? そうなるわよね』と全て理解した表情で食べ方を教えるのはルルリア。
「2人とも、そんなに怖がらなくても大丈夫よ! ちゃんと美味しいから。ほら、こんなふうに」
言いながら自らコピアルのゼリーにスプーンを突き刺し、そのまま口に運ぶ。
「ん〜〜おいし!」
ルルリアの食べっぷりを見て、カペラさんが意を決したようにゼリーをスプーンに乗せる。
それから一度目の前まで持ち上げて凝視したのち、ぎゅっと目を瞑って口の中へ。
しばらくモニュモニュしていた口がぴたりと止まると、今度は目を大きく見開いて、
「美味しいです……」
とため息と共に感想を漏らす。
「でしょう? 雪泡と一緒に食べると、これがまた、絶品よ!」
見本を見せるように雪泡をゼリーに乗せたルルリアは、それも口の中へと放り込み、再び至福の表情を見せた。
ルルリアの様子を見たカペラさんは、やや慌てるように、今度は躊躇なく同じようにしてゼリーを口へ。
「ああ! これは素晴らしいです!」
うっとりとするカペラさんを見たフォリザも、つられたようについにゼリーを口に運び、こちらも目を閉じて味わい始めた。
2人とも気に入ってくれたようで良かった。様子を見ていた僕も、満を持してコピアルのゼリーにスプーンを差し込む。
ぷるんと離れたゼリーは、口の中でホロリと溶ける。甘味が先にやって来て、その奥の方からほのかな苦味と、コピアル特有の香ばしい香り。僕がかつて未来で食べた代物よりも、こちらの方が美味しい気がする。
ふと、隣を見るとウィックハルトが別のテーブルを眺めていた。
「何かあった?」
僕に問われたウィックハルトは、
「いえ、本当かどうか知りませんが、サザビーから面白い話を聞きまして」
「面白い話?」
「ええ。戴冠式でもネルフィアが同行してましたが、その時にこのコピアルのゼリーをいたく気に入ったらしく。今回もこれを食べるために同行したと」
いつも冷静なあのネルフィアが? それは確かに少々興味深い。
僕もネルフィアの方を盗み見てみれば、なるほど確かに、彼女の皿からは早くもゼリーが消えていた。
「ねえ、ルルリア。コピアルのゼリー、おかわりしてもいいのかい?」
「もちろん」
ならばと、僕は率先しておかわりを希望し、他の人たちからも希望を募るのであった。




