【やり直し軍師SS-450】知者の戦い(5)
グリードル帝国の首都、帝都デンタロス。
この街は3周目の塁壁の拡張を終え、北の大陸最大の都市の名を恣にしていた。すでに4周目の拡張計画も、準備が始まっていると言うので恐れ入るばかりだ。
完成した拡張部分を見つめて、僕は一人うんうんと満足げにその様を眺める。
昔の未来で、僕もこの拡張工事の一端を担ったのだ。僕の主な仕事はスキットさんの秘書であったけれど、人手が足りない時は力仕事も手伝っていた。今でも手伝った箇所を、鮮明に覚えているくらいだ。
もちろん今の歴史では一切関わってはいないけれど、なんだか感慨深いのである。
「あの……どうされましたか?」
帝都を目の前にして立ち止まってしまった僕に、やや困惑気味に声をかけたのはカペラさん。フォリザも似たような表情で僕を見ている。
逆に、何かを察したような視線を送ってくるのはネルフィア。ネルフィアは僕の秘密を知っているので、ある程度予想がついたのかもしれない。
今回の代表団、催しに参加する僕ら3人以外で主だった同行者は、ネルフィアとサザビー、双子、ウィックハルト、それとついでに帰還するリヴォーテである。まあ、大体いつもの面々。
「いやあ、改めて見ても大きいなと思ってね。さ、行こうか」
適当にお茶を濁して先へ進む。今回はちゃんとした使節団として、護衛も連れてきているので大所帯である。出迎えてくれた帝国兵に誘われ、専用の門から帝都に足を踏み入れる僕ら。
「ロア殿」
出迎えてくれたのはツェツィー。ルルリアも一緒だ。
「やあ、ツェツィー、それにルルリアも。出迎えてくれてありがとう」
「こちらこそ、先日の戴冠式に続き、忙しい中何度も呼び出してすみません。今回、ルデクの歓待役は、私が承りましたので、何かあればなんでもおっしゃってください」
「うん。頼りにしているよ。あ、そうだ、こちらの2人が今回のうちの代表者。えーっと、カペラさんはツェツィーとは面識あったっけ?」
「いえ、ツェツィー……様、ですか?」
「あ、ごめんごめん。ちゃんと紹介するよ。こちらはシティバーグ大公のツェツェドラ様と、その奥方のルルリア妃」
僕が口にした瞬間に、カペラさんは慌てて礼をする。
「そ、それは失礼いたしました! ルデク第七騎士団副団長のカペラと申します」
「そんなに畏まらないでください。先ほどお伝えしましたとおり、今回は私が歓待役、なんでもお気軽にどうぞ」
穏やかに伝えるツェツィーだったけれど、流石にカペラさんは恐縮気味だ。一方のフォリザに至っては、もはや思考が追いついていないようで、ポカンとしている。
そんな状況の中で、いつもと変わらず口を挟むのはルルリア。
「まあ、少しすれば慣れるでしょ。ねえ、ロア、せっかくだからまずは、あれ、食べにいきましょうよ! 初めて食べる方もいるのでしょ?」
「あれとはなんですか?」
ようやく気持ちを持ち直したフォリザの質問に、ルルリアが胸を張った。
「帝国の新しい名物よ! とっても美味しいお菓子なの! ね、ロア?」
「うん、まあ。美味しいのは認めるけど、まだ名物というには気が早いなぁ」
このお菓子を帝国に伝えたのは、何を隠そうこの僕だ。シューレットの内乱に端を発した連合軍の関与。この時のちょっとした条件との引き換えに、僕が甘味のレシピの提供を約束したのである。
結局この一件、3つの国全てに別々のレシピを提供する羽目になり、僕は大変な目にあったのである。
それはともかく、現在このお菓子は帝都の一部でのみ供されており、僕は先日の戴冠式で楽しんだばかりだ。
僕のツッコミに対して、ルルリアは頬を膨らませてすぐ、笑顔に切り替える。
「まあ、それもそうね。では皆様、まずは帝国名物になる予定の菓子、コピアルのゼリーを堪能しに参りましょう!」
といい放ち、半ば強引に目的地に向かい始めたのである。
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店にはすでに話が通っていたようで、店内は僕らの貸切だった。
「先に皇帝陛下や、上皇陛下に挨拶しなくてよかったの?」
流石にルデクの代表としてまずいので、一応僕が聞くも、ルルリアは全く気にしない。
「どうせ御義父様も義兄様も今は準備で忙しいから、後で問題ないわよ」
念の為ツェツィーに目配せしても、やや苦笑するだけだったので問題ないとみなす。それならそれで、まずはコピアルのゼリーを堪能しよう。
僕と一緒のテーブルに着いたのは、ツェツィー、ルルリアとカペラさん、フォリザ。最後にウィックハルト。いわゆる主賓席というやつ。
フォリザは落ち着きなく周囲を見渡している。見るからに高級そうな室内だ。こんな機会もあまりないのだろう。
そんなフォリザに積極的に話しかけるのはルルリア。
フォリザの家ではどんなポージュを作っているのか、トリットの潰し具合は? 水の量は? などと鋭い質問が飛ぶ。
まさかフォリザも、帝国まで来て家庭料理の質問をされるとは思っていなかったのであろう、目を白黒させながらも答えている。
カペラさんの方はツェツィーが。トール将軍の話などをしながら、こちらは無難な会話で時間を潰す。
そうしてお待ちかねの菓子はやってきた。
「黒い……ですね」
それがカペラさんの最初の感想であった。




