【やり直し軍師SS-426】グリードル94 平野の覇者19
ガンっ! ガラン、ガラン!!
大きい音を立てて、スキットの兜が大地に転がる。誰も言葉を発さず、その場に奇妙な静寂が漂った。
ドラクの切先に滴る鮮血。
そして。
「……どういうつもりだ?」
スキットの首はつながっていた。兜のみが跳ね上げられ、地面へと転がったのだ。その際に額についた傷から血が滴っている。
ドラクはスキットを無視して、ひしゃげた兜をゆっくりと拾い上げると、高々と掲げた。
「ランビューレ宰相がひとり、スキット=デグローザはこのドラクが討ち取った!!」
敵味方双方が状況を理解できず、なおも沈黙。そんな中、エンダランドが一歩前に出て、ドラクの言葉を受け取る。
「陛下! お見事にございます! スキットの討ち死に! ランビューレ軍にも大きな衝撃が走りましょうや! 何をぼうっとしている! すぐに声をあげよ! 王都にも声を届けよ! まだ戦は終わってはおらんぞ!!」
エンダランドに一喝された兵士たちが、口々にスキット戦死を口にし、勝利の雄叫びを上げてゆく。
先ほどとは打って変わって、その場に熱狂が渦巻いた。ランビューレ王都にも異変はすぐに伝わるだろう。
「一体なんの真似だと聞いている!」
一人納得のいっていないのはスキットだ。ドラクは兜を弄び、スキットには視線を向けずに、口を開いた。
「ランビューレ宰相のスキット=デグローザは死んだ。それだけの話だ」
「……どこぞにでも行けと? 温情のつもりか!? その甘さ、高くつくぞ! 俺は必ずや、再起を図ってお前の首を狙いにゆく!」
怒りを露わにするスキット。ドラクは続ける。
「……ここからは、ちょっとした独り言なんだが、俺は、ランビューレのどこかに、新しい帝都を作ろうと思っている。この戦いが終わったら、すぐにでも場所の選定を始める」
「なんの話をしている?」
「まだ平野を全て平らげたわけじゃねえ。本来なら、帝都なんか造るのは後にしたほうがいいんだ。金も、時間も無駄にかかる。その分、平野の統一は大きく遅れるだろうな」
「……」
「でも、やっぱな、新しい国には、新しい象徴が必要だと思うんだわ。平野の民が新時代を実感できるような、デカくて、拠り所になるような都が」
「……」
「きっと、新しい帝都には、いろんな奴が集まるぞ。俺を慕ってくる奴もいれば、国を滅ぼされて、立場や職を失って、食いっぱぐれているような奴も」
「……お前、まさか…」
「繰り返すが、これは独り言だ。確か、前に妙な事をいっていた奴がいたな。俺の造る国では生きてゆけない民もいるとかなんとか、そんな奴らを俺が救うなんて大言壮語を吐いたやつが」
「……仮に俺がそのような者たちをまとめたら、そいつらと共にお前の首を狙う。帝都も焼く」
「そこに、救いはあるのか? 救いってのは、毎日の糧を無事に得て、穏やかに暮らせるって意味だと、俺は思う」
「……なら、貴様が平原の民を虐げたその時は、貴様の首を掻き切る」
「おう。なんか問題があったら直接言いにこい。お前がくるなら、門は常に開けておく。つまらん話でもいいぞ」
「……お前の顔など、首を刈る時以外は見たくはない」
「だよな。さて、独り言は終わりだ。この俺に迫ったランビューレの精兵共よ! 戦いぶりと、スキットの"遺言"に免じて、命だけは助けてやる! 俺に従うならば歓迎する! この地を去るなら好きにしろ! ただし、もう一度戦いたいなら、次は、殺す」
それだけ言い残して、ドラクはスキット達から背を向けた。
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ランビューレの恥戦。
のちの世の歴史家よりそう評価される、ランビューレ王都攻防戦。その結末は、ランビューレ王の敵前逃亡という情けない選択により、勝敗が決する。
後詰の軍に紛れて、戦いの最中に王都を捨てた王は、第二都市へと逃げ落ちていった。
残ったランビューレ兵は、王が逃げた事を知ると、半数は第二都市へと逃げ、残りの半数は降伏を宣言。投降者の中には、名の知られた将官も見受けられた。
また、 王都攻防戦の主だった戦死者の中には、宰相スキット=デグローサを始め、ミトワ、ルービスといったランビューレの名将が名を連ね、ランビューレの大敗の事実を色濃くする。
平原の覇者は決した。
これにより平原は、グリードル帝国時代の幕開けを迎えたのである。
SSとは思えぬ長いお話となった、帝国編。
いよいよ後二話で終幕となります!




