【やり直し軍師SS-409】共演⑨
「あーあ、見たかったなぁ」
とある旅一座の娘が、ため息と共に不満を溢すのは何度目だろうか。前代未聞の祭典。本日はついに最終日である。
各ステージでの最終日の演目は、全て夕方までに幕を下ろしている。そうしてフィナーレはル・プ・ゼアの歌姫、ゾディアの独唱が予定されていた。
このゾディアの歌は、今回の催しで唯一、競い馬会場の中で行われる。尚且つル・プ・ゼアが芸を披露するのは期間通してこの一回だけ。
その特別感も影響しているのだろう。会場内でゾディアの歌声を楽しみたい人々が殺到した。けれど、会場に入れる人数には限度があり、厳正な抽選を勝ち抜けなければならない。
一応、旅一座のための特別席が確保されており、一般客に比べれば会場に入れる可能性は高かった。
が、考えることは皆同じ。祭典に参加した一座のほとんどが観覧を希望したため、狭き門であることには変わり無かったのである。
「まあ、仕方がないさ。せめて一番評判を集められればな」
慰めるように娘に声をかける、熊のような男。10日間、各会場で一番評判を集めた一座に関しては、無条件で座席が用意されたらしい。
彼らも彼らなりに大いに健闘した。今までの旅の中で、一番多くの歓声を浴びたと言っても過言ではない。
だが、まだ一座結成からの期間が短い彼らの芸は、成熟したベテランの一座の芸事には敵わなかった。
こればかりは仕方がない。自分たちの実力不足であるのだから。むしろ、今回の一件は団員たちの大きな自信につながったことだろう。
しかし、それはそれ。
娘は納得がいかない。願わくば、会場内で歌を聞きたかった。雰囲気を味わいたかった。
口を尖らせて返事をしない娘に、熊のような男は苦笑しながら続ける。
「……まだ、開演まで時間がある。つけそばでも食べにいかないか? あんな珍しいもの、次はいつ食べることができるかわからんぞ」
「……いい。動いたら場所、取られちゃうもん」
競い馬会場の周辺は身動きが困難なほど、人々が集まっていた。いずれも会場に入ることのできなかった者達だ。
皆、せめて会場の外からでもゾディアの歌声を聞きたいと、場所取りに忙しい。
「そうか……。まあ、レヴの気持ちは理解できるが……」
熊のような男、ルベールは言いながら天を仰ぐ。
今日の歌は特別だ。
「あーあ、見たかったなぁ」
レヴは肌身離さず持っている本をギュッと握りながら、もう何度目かになる同じ言葉をつぶやいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「最終日だけ、それもたった一度の公演とは、さすがロア様、恐るべき計画性ですわね。この終幕、長く語り草になりましょう」
貴賓専用の特別席の中で、僕はレナーデ様に絶賛される。
「は、はぁ。恐縮です」
とりあえず無難に返しておいたけれど、誤解も良いところである。ル・プ・ゼアの公演が一度だけになったのは、もっと現実的な問題からだ。
まず、単純に会場の設営と警備の関係から毎日開催するのは難しかった。加えて、ル・プ・ゼアには、今回集まった旅一座との折衝をお願いしていた。
前例のない催し、一座からも問題や不満などが出た時に、同胞の方がまとめやすいという配慮からだ。
旅一座は流浪の者たち、僕らとは違った理の中で生きている。下手に兵士を窓口にすると、考え方の違いで揉める恐れがあった。
この期間中、ル・プ・ゼアはその役割に奔走してくれたのである。
つまり、最終日ただ一回の公演は、狙ってやったわけではなく、結果的にそうせざるを得なかっただけ。とはいえ、わざわざ否定するのも野暮というもの。
「でも、また次も開催されるのでしょう?」
「来年もやるのよね!?」
無邪気に問いかけてくるのはデール様、ナデリア様姉妹。
「あー、えっと……」
次回、あるかなぁ。めちゃくちゃ大変だったんだけど……。
「これ、無茶を言うではありません。このような催し、おいそれとできるものではありませんよ」
おお、レナーデ様、良い事を言う。さすが各地を遊び歩いているだけある。
が、僕は感心したことをすぐに後悔した。
「3年に一度くらいがちょうど良いでしょう。そうだ、北ルデクにも同じような、いえ、こういった催し専用の会場を作りましょうか!」
姉妹と同じくらい無邪気な提案に、僕はただただ苦笑するしか無かったのである。




