【やり直し軍師SS-404】グリードル83 平野の覇者⑧
ゴラーレの砦より少し離れた場所にいたドラクの元へ、砦の指揮官、パザドの戦死が伝えられた。
討ち取ったのは他でもない、ルアープだ。
この策はルアープ自らの提案による。『俺の視界の範囲内に出てくれば、確実に射抜いて見せます』と。その言葉通りの成果である。
六ヶ月戦線を境に、“剛弓”を名乗り始めたルアープは、更なる鍛錬を重ね、その肩書に恥じぬだけの存在感を放っていた。
「もう、あいつだけいれば勝てるんじゃねえか?」
そんな軽口を放ったドラクに、エンダランドが苦言を呈する。
「陛下。今はまだ、ルアープの名がそこまで知られていないからこその成果です。個の武力に傾倒するのは感心致しませんな」
「分かってるわ! 冗談だろ?」
「人のいないところでの冗談なれば私も何も申しませんが、周囲に人がいる場では、あらぬ誤解を与えますぞ」
そのように正論を吐かれればぐうの音も出ない。ドラクがほめそやせば、ドラクのお気に入りに擦り寄ろうとするものも出てくるだろう。余計な派閥をつくって、いらぬ軋轢を生むことはないのだ。
しかし、面倒なものだな。
少し前までは、このような軽口も気軽に口にすることができた。だが今はどうだ。何を言うにも皇帝という肩書きがついて回る。
もちろんこれはドラク自身が始めた物語だ、後悔などありはしない。だが同時に、いっそ、全てを捨てて、裏町の顔役でもやっていた方が向いているのではないかとも思う。
まあ、そのような妄想、詮無いことだ。まして今は戦場、気持ちを切り替える。
「……気をつけよう。で、次はどうする?」
「最も足止めを喰らう懸念があったのは、ゴラーレの砦でしたからな。この先は敵の動き次第ですが、一気に王都に迫れるかと」
「あとは、向こうが打って出るかどうかか」
「はっ。ですが、今のところその動きは見られませんな」
「スキットは?」
おそらく、この戦いで大きな焦点となるのはスキットの動きだ。ドラクはそう信じている。根拠のある話ではない。それはもはや“勘”に近い。
「まだ、その所在を確認できてはおりません」
「……分かった。どのみち王都に迫れば嫌でも出てくるだろう。進むぞ!! ルアープには急ぎ合流するように伝えろ!」
ドラクの号令によって、グリードル軍は再び足を動かし始めた。
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「……いったいどういうことか、説明せよ」
重々しく口を開いたランビューレ王、その眼前で青くなりながら跪いているのは、側近のルボットだ。
「私にも詳細は……取り急ぎ、改めて使者を送ったところにございます」
「今から再び使者を送り、援軍が届くのはいったいいつになるというのか?」
援軍が来ない。ズイスト、レグナ、ルガー、そのいずれからも、だ。
これは想定外である。ルガーはともかく、ズイストとレグナは間違いなく協力すると思っていた。だが、返ってきた返事は芳しいものではない。
特に、最も期待していたレグナの反応が良くなかった。『出兵するつもりはあるが、いささか時間がかかる』などという、曖昧な返事であったのだ。
何を悠長なことを、今まさに帝国兵が攻めてきているのだとランビューレの使者が抗弁しても、芳しい返答は返ってはこない。
重苦しい空気の中で、ルボットは早口にまくし立てる。
「む、むろん、しばしの間は援軍なしでの戦いになるかも知れませんが、時が経てば、必ず、必ずや!!」
そのように口にしながら、ルボットはレグナがなぜ動かないのか考える。
レグナはランビューレの実力を疑っているのではないか? 故に、まずはランビューレの戦いぶりを見てから援軍を出そうと。婚姻関係にあるというのに、なんという恥晒しな。
心の中でレグナに唾を吐きながら、ランビューレ王の苦言にただひたすらに頭を下げる。
「足止めといえば、スキットはどうした?」
ひとしきり怒りを吐き出してやや落ち着いたのか、ランビューレ王が別の話題を持ち出す。ルボットは密かに胸を撫でおろし、ここぞとばかりに怒りを他へと誘導せんと口を開いた。
「スキットの部隊が帝国と衝突したという一報は届いておりませぬ! もしかして、敵前逃亡を図ったのでは?」
ルボットの言葉に、諸将の一部から不満そうな声が漏れた。だが、ルボットはそれらを無視し、スキットを散々に罵り続ける。
王はそんなルボットを見て、少しつまらなさそうな顔をした。
「ふん。まあいい。戦が終わったらスキットの処分は考える。必ず撃退して見せよ」
「ははっ! 万事このルボットにお任せくださいませ!」
建設的とはいえぬ軍議のこの時も、ランビューレ王都を巡る攻防戦は、刻一刻と迫っていた。




