【やり直し軍師SS-403】グリードル82 平野の覇者⑦
帝都から、ランビューレの王都へ向かう主な道筋は3つある。
ゆえに、ドラクは兵を3つに分けた。1万をネッツに、もう1万をジベリアーノに預け、2つのルートを進ませていた。
本来なら兵力の分散は避けたいところだが、現在の帝国にはそれをしても充分な兵力がある。
加えて、ランビューレの動きが読めない以上、最低限の保険をかけたのである。
懸念しているのはランビューレの反攻。グリードルが選ばなかったルートから、電撃的に帝都へ攻め込まれる心配だ。
帝都には守るべき者たちがいる。放置はできない。こちらが退かざるを得ないのだ。スキットあたりが指揮を執れば、そのような策を当然のように選択してくるだろう。
ゆえに全ての道筋を埋めた。ランビューレが動いても、いずれかのルートで激突する。
“当たり”の道を進んでいた部隊は、全滅覚悟で帝都を死守。その間に他の部隊が王都を陥落させる。事前にそう取り決めた。
相手は平原でも最大の国力を誇るランビューレ、連合軍が瓦解し、求心力は低下しているとはいえ、単独で4〜5万の兵は動員できる底力がある。
ただし、今のランビューレには大きな泣きどころが存在しており、全軍をグリードルに向けることはできない。
泣きどころとはランビューレの北にある、ルガー王国の存在だ。六ヶ月戦線ではルガーと歴史的な和解を見せて共に攻め寄せた両国だが、それ以前は天敵同士。
エンダランドの掴んだ情報によれば、現状は微妙な状況が続いているようだ。
ルガーはここのところ、ランビューレとまた距離を取り、頻繁にツァナデフォルへと使者を送っている。ツァナデフォルと同盟を組んで、ランビューレやグリードルに対抗するための動きと推測された。
尤も、喫緊においてルガーとランビューレが、はっきりと敵対したことはなく、今回の侵攻に対してランビューレの援軍要請に応じないとは限らない。それは他国も同様だ。
周辺国の動きに翻弄されないためにも、グリードルとしては、可能な限りの速さで王都に襲いかかる必要があった。
「あと数日でゴラーレの砦ですな」
並走するエンダランドが口にする。
ドラク達本軍が進むルート上では、最も規模の大きな砦がゴラーレの砦である。
「予定通りで?」
エンダランドの最終確認に、ドラクは短く「ああ」と応えた。
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ゴラーレの砦には3千の守備兵が籠っていた、砦を任せられていたパザドは、ランビューレの五本槍と謳われる自慢の腕をぐるりと回す。
「パザド様、敵兵が迫って参ります!」
「来たか。それで、どの位だ?」
報告では3万近い大軍だと聞いている。帝国の総力を一点に集中してきたのだろうか。ならばそれでも良い。ゴラーレはそう簡単に落ちはしない。時が経てば、各方面から味方が押し寄せるだろう。それまでの辛抱だ。
「それが……敵は1000に満たぬほど」
「なに? そんなわけがない。3万はいるという報告はなんだったのだ?」
「ですが、今、我らが砦を囲もうとしているのは、その程度の数しかおりません」
「1000で砦を囲む? そのような包囲、紙のようなものではないか」
「実際に見ていただいた方が早いかと」
配下に勧められるままに、塁壁へと出てみれば、確かに眼前に広がるのはもの寂しい数の敵である。
「釣り出すための罠か?」
パザドが呟く。考えられるとすればそれくらいしかない。
「もしや、先を急ぐために、適当な兵を置いて本隊は先に進むのでは……」
一人の部下から意見が上がる。しかし、それにしては数が少なすぎる。
「帝国とて、ゴラーレの砦の規模を知らぬわけではなかろう。当然、規模から籠る兵士も予測できる。囲んでこの砦を封じるのならば、できれば5000は、最低でも3000は必要だ。たった1000では脅しにもならん」
「では、蹴散らしますか? 他に近くに敵の姿なく、伏兵がいたとしてもたかが知れております。仮に罠だとしても砦に戻れば良いかと」
別の部下が口にする。
悩ましいところだ。罠であれば無駄に兵を減らす真似はしたくはない。だが、本当に敵が1000しかいないのであれば、後々、1000の兵士に怯えて引き籠った将と侮られはしないか?
配下の言葉の通り、見渡す限りでは他に迫ってくる部隊は見当たらない。そもそも、この辺りは身を隠す場所も少なく、伏兵には向いていなかった。
「……よし。一度蹴散らし、すぐに砦に戻る。準備せよ」
「では、小官が……」
「いや、私自ら出る。その方が何かあった時に対応しやすい」
「ですが……」
「安心せよ。逃げたとて追う気はない。それより準備を急げ! 速攻戦となるぞ!」
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すぐに準備が整い、城門を開かせたパサド。この間も注意して敵の動きを見ていたが、やはりこれ以上兵が増える様子はなかった。
「出陣!」
パザドの号令で一斉に駆け出す兵士たち。一番最後にパザドが城門を出た瞬間。
パザドの眼前に迫る一本の矢。
まずい!
その一言が、パザドの最後の思考となった。




