【やり直し軍師SS-298】グリードル37 六ヶ月戦線①
ランビューレの王都に、ルガー、レグナ、ズイストの主だった諸将が集っていた。
この歴史的な風景を見渡しながら、ランビューレ王は満足げに髭を触る。
緊張感が支配する部屋の静寂を、ランビューレ王の言葉がゆっくりと破ってゆく。
「では、平野の秩序を乱し、“帝国”などと大袈裟な名を名乗る反乱軍、グリードルの討伐会議を始める。ウルテアにとどまらず、あろうことかナステルも危機に陥らせたドラクを、我らは決して赦しはしない」
諸将は表情を動かすことなく、ランビューレ王の言葉に耳を傾けている。
「幸い、ウルテアの正当なる王の血筋も、そしてナステルの王族も、我が国が保護しておる。あの愚か者共を討ち果たし、ウルテア、ナステル両国の復権に助力願いたい」
ランビューレ王の挨拶を受け、諸将が軽く頭を下げた。
「では、討伐戦の陣容について話を進めさせていただく。ここからは我が宰相の1人、スキットより説明をさせよう」
指名されたスキットが立ち上がり、地図を貼った板を準備させる。
「スキット=デグローザと申す。まずはこの地図を見ていただきたい。現在のグリードルの支配地域において、ランビューレ側からの主な攻め口は3つ。既にグリードル側も重要拠点の強化を進めているとの報告が入っており、この3箇所の帰趨が勝敗を分ける事となりましょう」
スキットの説明に、1人の将が手を挙げた。
「敵が籠る砦がはっきりしているのであれば、裏をかいて帝都を直接襲撃したほうが効率的ではないか?」
「貴殿のおっしゃることも一理ございます。しかしながら、当然グリードルも予測しているはず。それに何より、あの、ドラク=デラッサという男は帝都を囮に、こちらの喉元に喰らいつくような真似を平気でいたします。ここは王道を歩み、確実に叩き潰すことが肝要かと」
「……随分とドラクを恐れておられるようですなぁ」
また別の将が、スキットを揶揄うような口調を投げかけ、ランビューレの諸将がざわめく。だが、当のスキットは意に介する事ない。
「恐れているというのは誤解ですな。私はドラク=デラッサという人物を“侮って”いないだけです。宜しいか。なぜ、この場に4国の諸将がこうして集まっているのかお分かりでしょう。それぞれの国が別々に戦っても、もはや、帝国には勝てぬからです」
「なんだと?」
揶揄った将が、ガタリと音を立てて席を立った。すぐに一触即発の空気がその場に流れる。
しかしスキットは平然と続けた。
「私は客観的に事実を述べています。ウルテア、ナステルがなぜ“こう”なったのか? そして今、もう1国でも同じ目に遭えば、グリードルは平野で最大版図の国になる。これ以上グリードルを調子つかせるのは許されない。ここにおわす諸将や、各国の王はそのように判じたからこそ、今、席についておられる。違いますかな」
スキットの毅然とした反論に、立ち上がったままの将の隣に座っていた人物が、「サラン、座れ。スキット殿のいう通りだ」と、声をかけ、サランは小さく舌打ちしてから席に戻った。
そのまま場が落ち着くと思われたが、今度は別の場所から手が上がる。
「……ルガー王国のジャステと申す。発言を宜しいか?」
「……どうぞ」
スキットが譲るとジャステは、
「配置決めを行う前に、一言、伝えておきたい。持ち場に関して要望はないが、我がルガー軍は単独で行動する。各所、合同軍を想定なれば、変更願いたい」
と宣言した。
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「配置決めする前に、一言、言っておきたい。持ち場に関して要望はないが、我がルガー軍は単独で行動する。各所、合同軍を想定なれば、変更願いたい」
ルガーの将の言葉を受け、先ほどサランを席に戻らせたレグナの指揮官、リエルは、心の中で「やはりな」と思う。
ルガーとランビューレの仲の悪さは、今更の話だ。連合とはいえ、ランビューレなどに背を任せられるかという思いがあろう。
しかし、こうなる事は当然、あのスキットという男も織り込み済みのはず。さて、どう対応するか。
リエルが興味深くやり取りを眺める中、スキットは、淡々と口を開く。
「ジャステ殿の、いや、ルガー王国の気持ちは分かります。此度の戦いは、それぞれ各国が主体で持ち場をお任せいたします。我らランビューレは、各国の皆様が我らが領内を自由に動くのをお手伝いするばかり。しかしながら、条件が一つ」
「その、条件とやらを伺おう」
「全ての軍に、僅かばかりランビューレの部隊を参加させていただきたく。無論、各国の邪魔にはならぬ程度のささやかなものです」
スキットの提案に、ジャステが顔を顰めた。
「それは監視役ということですかな?」
「いえ。誤解ですな。我らが一軍を加わらせるのは、この連合軍の連携のため。連合に参加する以上、その利益は各国最大限に利用すべきでしょう。各所で起こる戦いの状況を、常に共有することで戦いを優位に進める。ジャステ殿もそこはご理解いただけるかと」
「異論はない」
「その上で、各国の伝達役を担うのは、発起人であり、領内の道をよく知る我が国であるのが効率が良いというだけの話です。もし、貴国がその役割を担っていただけるのであれば、それでも構いません」
スキットの答えに、リエルは上手いなと思った。確かにスキットの言い分は理にかなっているし、連絡役といえば聞こえは良いが、各国の手綱をランビューレが一括で握ることができる。
平野の盟主か。よく言ったものだ。自国が上に立てる方法をよくわきまえている。
まあ、ランビューレがどのように動こうと構いはしない。レグナとしては、連合に参加して美味しいところを啜ることができれば良い。
そんなことを考えていると、今度はズイストの将からも声が上がる。
「そういうことならば、我が軍は説明のあった3つとは別の攻め口からグリードルへ侵攻したいが宜しいか?」
「理由を伺っても?」
「我が国は一部といえど、グリードルと国境を接している。こちらがランビューレに兵を入れた隙に、そこから逆に奇襲されては敵わぬからですな」
ズイストの将の言い分もまた、理解できぬものではない。
こうして各国それぞれの思惑が錯綜しつつ、グリードル討伐作戦が動き始めていた。




