【やり直し軍師SS-283】シューレット11
今回の更新はここまでです!
次回は6月3日からとなります。またお付き合いくださいませ!
その日は僕とラピリアにとって、特別な1日。
ルデク北東部にある小さな村、カムナルには4つの国の要人が集結していた。
彼ら、彼女らは僕とラピリアの婚儀に参列するために、遠路はるばるやってきてくれたのである。
主だったところでは、ルデク国王夫妻、帝国皇帝ドラク=デラッサ、その息子ツェツェドラ=デラッサとその妻、ルルリア=フェザリス=デラッサ。
北の大国ツァナデフォルから、女王、サピア=ヴォリヴィアノ。隣国ゴルベルの王、シーベルト=アベイルと、その実子でルデクに留学中のシャンダル=アベイル。
もちろんどの人たちも、僕らの婚儀を心からお祝いしてくれるためにこの場にいる。
けれど同時に、リフレアに端を発した一連の騒動が終結し、北の大陸に平穏が訪れたことを民衆に宣言するための、政治的発言の機会という意図を含んだ来訪だ。
僕らの婚儀に関する諸々の儀式が終われば、各国の首長が並び、平和宣言がなされる段取りとなっていた。
会場には南の大陸の要人もいる。4国の宣言は海をも越えて、耳目を集めることになるだろう。
各国の首長達が座るのは特別席だ。国ごとに分かれて座っている。周囲には護衛もいるので、それぞれなかなかに物々しい人数である。
そんな高貴さが漂うような空間の片隅に、表情を布で覆い隠した、異様な風体の人物が座っていた。そして、その隣にはザードの姿も。
すでに各国には僕の方から通達が行っているので、誰もその人物を見咎めることはない。
というかむしろ、完全に存在しないものという扱いで、一人として声をかける者はいない。
これが僕がザードに提案した“策”だ。
元々僕らの婚儀で、王達の平和宣言が行われることは決まっていた。それをザードの雇い主に見せてはどうだろうと思ったのだ。
僕はシューレット国内の、現状に対する理解度に疑問を持った。シューレットのやんごとなき人々は、正確にこちら側の状況を把握していないのではないかと。
客観的に見た場合、帝国とツァナデフォルはつい最近まで干戈を交えた仲で、未だ緊張状態が燻っていると考えてもおかしくない。
それにルデクと帝国も最近まで争いあっていたのだ。さらに、ゴルベルは世間的に見ればルデクに従属しているような状況。
これらの事実を並べてみれば、うん、なかなかに危ういバランスの上に成り立っている関係性に見える。というか、普通に考えたら結構簡単に崩壊しそうな気さえする。
シューレットの人々も馬鹿ではないだろうから、この辺りの状況を勘案して、どこかを突き崩せばもう一波乱ある、そんな風に考えたのではないだろうか。
僕がシューレット側の立場だったら、各国の関係を突き崩そうとする。大陸でもう一度騒動が起これば、シューレットが勇躍する好機だ、と。
シューレットは西の端の国だから、リフレアの騒動では蚊帳の外だった。
訳が分からぬ内に、ルデクと帝国が大陸の2大国家にのしあがったという気持ちはあるのだろう。
自分たちが風下に立たされている事も、ルデクと帝国に莫大な借金を背負った事も、それらを受け入れているシューレット王にも納得ができない。そんな感じ。
しかし実情は大きく異なる。
ルデクとゴルベルの仲は、シャンダル王子の存在や造船所の協力によって、かつてないほどに良好だ。
帝国とルデクも然り。皇帝であったり第三皇子であったり、言うまでもなくツェツィーやルルリアなど、ちょっと呆れるほどに交流がある。
ツァナデフォルに関しては、ルデクよりも帝国との関係が懸念されるところだけど、大きな問題は起きていない。
両国間の関係は僕も完全に把握しているわけではないけれど、少なくとも、皇帝と女王は性格的にウマが合うみたいだ。
というわけで、シューレットで鼻息荒い人たちが付け入る隙は、僕から見ても今の所見当たらない。
けれどそれを言葉で伝えても、多分理解してもらえないだろう。だから直接確認してもらう。それが一番手っ取り早いよね。
ザードには「僕らの婚儀にその雇い主を連れてくればいい」と伝えた。本来なら“雇い主の上の人物”に来てもらえるのが理想的だけど、まあ、それは難しそうだなとは思っていた。
話を持ち帰ったザードは、しばらくしてから、ルデクトラドにひょっこりとやってきた。
「ロア様の婚儀に、本当に、非礼な振る舞いとなってしまうことは重々承知の上なのですが……」
と、飄々としたザードであっても、流石に言いにくそうに口を開いた参加の条件が『顔を隠すのであれば』ということだったのだ。
ま、雇い主の立場もわかる。多分ここで僕の婚儀に参列するなどと公にすれば、かなり立場が危うくなるのだろう。
けれど、ザードを介して僕が伝えた意図も理解している。だからこその苦渋の提案と言ったところか。ある程度物わかりの良い人物で助かった。
別に僕の方は構いはしない。ザードが雇い主に話をしている間に、僕の方も根回しはしておいた。各国の王達はすでに納得済みである。
むしろ皇帝からは「なんなら俺が直接話してやろうか?」などという返答が来たけれど、完全に面白く思っているだけなので、余計なことはしなくていいと返しておいた。……サリーシャ様宛で。
そうしてこの場にやってきた、顔を隠したシューレットの貴族。彼は身じろぎ一つせず4国共同の平和宣言を聞き、その後の各国の王のやり取りを見ていた。
婚儀を一通り見聞し、その人物はザードを伴って己の国に帰ってゆく。
これでひとまず血気盛んな御仁を説得できればいいけれど。ま、少なくともすぐに動くことはないとは信じたい。
だけど、この一件に結論が出るのは、僕が思っているよりもしばらく先の話となる。
このお話は多分、後々続きを書く予定です。




