【やり直し軍師SS-271】シューレット③
半ば強引に同道を決めたザードを連れ、ル・プ・ゼア一行は入国手続のために、近くの町へと向かう。
ザードが逃げてきた町ではないかと危惧したが、本人の話ではどうやら違うようだ。
「この辺りは俺の庭みたいなものですから」
などと調子の良いことを言っているが、庭で追い回されているのでは全く頼りないものだなとゾディアは思う。
ともかく、無駄な揉め事だけはくれぐれも避けたい。問題があったらすぐに追い出す旨を、繰り返しザードへ言い含めながらの道程であった。
「着いたぞ」
ザードとともに馬車の中に留まっていたゾディアとパリャは、馬車の外からのベルーマンの声に、伸びをして馬車から飛び降りる。
「全く、すっかりお尻が痛くなちゃったよ」
そんなふうに言いながら腰をさするパリャ。ルデクを離れてしばらくするけれど、やはりルデクの道を知ってしまうと、馬車の乗り心地の悪さは如何ともし難い。
ゾディアも背を反らしてから、改めて町を見た。
この町には随分久しぶりの来訪。けれど、少し門構えが古くなっただけで、あまり変わっていないように見える。
ベルーマンがいつものように来訪の目的を告げ、一座の名を名乗ると、
「ちょっと待っていろ」
と言い残して衛兵が町へと走ってゆく。
待たされている間、一座の最年少であるデンバーがぐうと腹を鳴らし、
「腹減ったなー、ベルーマン、町に入ったらまず飯にしようぜ。国はあんまり好きじゃねえけど、飯だけはうまいからな!」
などと言って、パリャにおでこを小突かれたりしていた。
そのまま半刻も待たされただろうか。ふと、パリャが「あれ? ザード、どこいった?」と口にした直後、こちらに向かって多数の衛兵が駆け寄ってくる。
随分と物々しいな、何かあったのかと思っていると、衛兵はあっという間に一座を囲み、ゾディア達は何が何だか分からぬ間に、衛兵達に拘束されてしまったのである。
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「おい! 出せよ! 俺たちが何したってんだ! おい! 聞いてんのか!」
有無を言わさずに地下牢へと放り込まれてしまったゾディア達。先ほどから元気よく文句を言い続けているのはデンバーである。
あまりにも騒がしかったのか、見張りの兵士がデンバーに怒鳴り返す。
「うるせえな小僧! 飯抜きにするぞ!」
兵士に怒鳴られたデンバーは、その言葉でピタリと喋るのをやめた。
兵士に怒鳴られて怯えたわけではない。飯が出ることが確認できたので、ひとまずおとなしくなったのである。
旅一座にとって“食事が摂れる”という事は、とても大事だ。食事が出るなら、王宮だろうと牢の中であろうとさしたる違いはない。
ゾディアはデンバーと兵士のやりとりを眺めながら、なぜ自分達が拘束されたのかを考えていた。
まず考えられるのはザードの一件だ。いつの間に逃げたのか、結局ザードは煙のように消えてしまった。
ザードが追われていた理由が、けちな窃盗ではなく、もっと重大な何かであった場合、ザードの仲間とみなされたゾディア達を捕らえたとは考えられないか。
そこまで考えて、ゾディアは一人首を振る。
この考えはそもそも成立しない。ザードを匿ったことは誰も知らないはずだ。で、あれば、今度はザードがゾディア達を売ったという可能性。
最初からル・プ・ゼアを狙うつもりで近づいてきた。こちらの方があり得る気がするけれど、何故そのような真似をするのかわからず見当もつかないし、やりようとしては随分と杜撰な気がする。
では、ザードは無関係で、最初からル・プ・ゼアが狙われていたのだろうか。
シューレットにやってくるのは久しぶりだし、前回の来訪で問題を起こした記憶もない。
けれど、全く心当たりがない訳ではなかった。
それは、我々がル・プ・ゼアであるから。すなわち、ロア=シュタインと懇意にしている旅一座、という意味で。
シューレットに見えた凶星。そしてこの一件がロア=シュタインに起因するのもであるとすれば、なぜ拘束されたかは朧げながら見えてくる。
ロアに伝わっては困るようなことが、シューレット国内で起こっているのではないか。
それは想定しうる可能性の中で、おそらく最悪のものだと思う。
もしも想像通りなら、ゾディア達の命の保証はないと考えるべきだ。相手はル・プ・ゼアがなんらかの情報をロアに伝えることを危惧しているのだから。
しかし現状、ゾディア達が牢から脱出する術はない。せめて、交渉相手でも現れてくれれば状況は違うのだけど。
とにかくまずは、今後の展開を待つしかないわね。
ゾディアが覚悟を決め、牢屋なのにそこそこ美味しい夕食を食べ、そろそろ寝ようかと思い始めた頃、事態は動き出したのである。




