【やり直し軍師SS-263】スールの相談⑤
今回の更新はここまで!
次回更新はゴールデンウィーク中でもあるので、少し早めには5月3日からを予定しております!
僕が給仕服姿のシャンダルに声をかけると、シャンダルはにっこりと笑って「全然知らない人ですね」という。
状況がわからず固まったままだったネマンドが、「は? ロア殿、これはなんの真似ですかな?」と、どうにか言葉を絞り出す。
「え? ゴルベル王に頼りにされるご親族なのに、シャンダル王子に気づかなかったのですか?」
「戯言も大概にしていただきたい、このような給仕が王子なわけがなかろう!」
何かを誤魔化すためか無意識か。シャンダルへと伸びたネマンドの右手。
しかしその手はシャンダルに届くことなく、いつの間にかシャンダルの隣に移動していた、給仕姿のネルフィアによって叩き落とされる。
「王子に害をなさんとしたと判断し、拘束いたします。ロア様、よろしいですか?」
「そうだね」
僕の返事を確認すると、すぐにネルフィアに制圧され、床を舐めるネマンド。同じく給仕に扮していたネルフィアの部下が、残りの3人も確保。
「はっ、放せ! これはなんの真似だ! ゴルベルとルデクの関係に傷がつくぞ!!」
この期に及んでなお、同盟関係を盾に脅しをかけてくるネマンド。なかなか堂に入ったものだとは思う。
けれどそんなネマンドを見下ろすシャンダルの強い視線を受けて、その声は徐々に小さくなってゆく。
「ネマンド=バートードとか言ったな。このシャンダル=アベイル、貴様のことなど見たことも聞いたこともない。我が王家を騙るは重罪。まして貴様らはゴルベルの貴族を名乗り、同盟を脅迫材料にしながら、暴言を吐き続けた。一連の行為はゴルベルの国益を著しく損なう行為。これらを鑑みれば死罪に値するぞ」
「まさか……ほ、本物の……王子? ……いや、そんなばかな……」
唖然しながらもまだ信じられぬと言った感じのネマンド。僕は席から立ってシャンダルの横に立つ。
「こちらの方がシャンダル王子であることは、この僕、ロア=シュタインが保証しますよ。そもそもご親族であれば、ルデクに来るなら王子に一報入れるのが普通。シャンダル王子がルデクに留学中であることを知らないはずがないでしょう?」
「あ、いや……」
色をなくした顔で言い淀むネマンド。
「それで、ゴルベルと関係ない人物と認めます? その場合はルデクで裁きましょう。ゴルベルの関係者であると言い張るなら、このままゴルベルに引き渡しますけど?」
つい今しがた、シャンダル王子から死罪を言い渡されたばかりのネマンド。床に押し付けられた頭を必死に振りながら、
「も、申し訳ございません!! 名を騙っておりました! お許しを!! お許しを!!」と命乞いを始める。
僕はシャンダル王子に目配せ。シャンダル王子の許可をもらう。シャンダル王子の言葉も嘘ではないけれど、白状したらこちらで身柄を引き受けるつもりだった。具体的には、第八騎士団預かりである。
ネマンド達が、ただのたかりの類であったのならそれでよし。
確認したかったのは、ネマンド達がどこかの国の意思を受けて、ルデクとゴルベルの関係を悪化させようとした策謀の可能性だ。
その可能性がないとは言えないので、ネマンド達には第八騎士団としっかり“お話”してもらう。まあ、死罪にはならなんじゃないかな。多分。でもトランザの宿の料理を貶したし、僕が彼らを庇う理由もないしなぁ。
ともかく、ネマンド達は捕えられ、第八騎士団の人々に連行されてトランザの宿からご退場である。ネルフィアだけは、この後一緒にビベールを楽しむために場に残った。
「多分こんなことだろうと思ったけれど。無事に終わってよかったよ。みんな、お疲れ様」
僕が皆を労うと、シャンダル王子が頭を下げる。
「まがりなりにもゴルベルの貴族を名乗る者の振る舞い、ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、あの感じだとゴルベルの民かどうかも怪しいし、シャンダル王子が頭を下げる必要はないよ。それよりも給仕の真似事なんかさせて、こちらこそ申し訳ないね」
本日この部屋にトランザの宿の従業員は1人もいなかった。全て第八騎士団の人間が扮したものだ。そんな中に1人シャンダル王子が加わったのは本人の希望からである。
「いえ。それは私が望んだことですので。なかなか面白い体験でした。食事をする人間をこのような場所から眺めるというのは初めての体験でしたので」
それはそうだろう。王子は常に食事をとる側であって、料理を運ぶ側に立つことなどなくて当然だ。
「さ、あとは第八騎士団に任せるとして、僕らはビベールを楽しもうか。まだビベールの身は余っているし、別室で待っているルファやディックも呼んでこないとね」
そうして声を掛けると、すぐにルファとディックがやってくる。
「うわあ! 釣った時もすごかったけど……これ、食べられるの?」
と流石に複雑な表情を見せたルファだったけれど、リヴォーテが黙々と食しているのを見て大丈夫と判断したのだろう。早々にビベールの頭をお皿に取り分け始める。
っていうかリヴォーテ、あの騒ぎの中でもずっと食べてなかった?
そんなこんなで場が和んだところで、トランザの宿のスールちゃんが顔を出した。
「あのう……もう入ってきていいよって言われたんですけど……例のお客様は……」
「ああ、ちょっと込み入った話があったから、王宮に行ってもらったんだ。あ、今日の料理の料金は僕の方で持つから安心してね」
「いえ! ご迷惑をおかけしたのに、そういうわけにはいきません!」
「いやいや、元々そのつもりだったからさ。僕も久しぶりにビベールが楽しめるし」
「でも、やっぱり……」
しばしどちらが持つかで揉めた後、リヴォーテが参戦して
「ならば俺も金を出すから、三分割でいいだろう。俺は今日はただの客としてきているからな」
と、納得できるようなできないようなことを言って、なんとなくその場を収める。
そうして僕らはその後、ゆっくりとビベール料理を楽しんだのであった。




