【やり直し軍師SS-234】グリードル⑥ 無意味な死
「ドラク……貴様……」
ドラクの声に反応し、見下ろすドラクを睨め付けるバウンズ。その目に、俄に炎が宿る。
「で、これはどういうことだ? 部下に見限られたか?」
「……」
バウンズの歯軋りが聞こえた。実際のところバウンズを幽閉していた兵士から、すでに事情は聞き及んでいる。それでもドラクはあえて問う。
なお、ワックマンの命でバウンズを捕らえた者達からは、剣を捨て、散っていった者達を弔いたいとの申し出があった。ドラクが了承したため、すでにこの場にはいない。
「……このウルテアの柱石たるバウンズを見下し、さぞ、良い気分であろうな」
「ああん?」
「私はどうなる? 王都で絞首刑か? それとも公開斬首か? いずれにせよ、貴様の残虐性をせいぜい引き立ててやる」
「……」
今度はドラクが沈黙する番だ。こいつは何を話そうとしているのだろう。
「貴様は所詮、どこまで行っても簒奪者よ。ウルテアを支えた忠臣を殺し、その死体の上に立つ暴君でしかない。それをこの私が証明してやろう。ウルテア最期の臣として」
「……お前、もしかして自分の死が歴史に残るとでも思ってんのか?」
驚いた。この後に及んでなお、この男は名声が欲しいらしい。
「思っているのではない。事実だ。いつか貴様が敗れ、惨めな死を迎えた時。私はウルテアの名前とともに復権するのである」
今この状況で、命乞いではなく自分の欲に忠実なバウンズに、少々感心さえ覚える。尤も共感は皆無だが。
「あー、確かにお前の言う通り、王都へ連行して処刑するつもりだったんだがなぁ……」
それはグリードルの民に向かってのものではない。サリーシャのためだ。サリーシャの父、コードルを謀殺した張本人。サリーシャの前で、せめて謝罪させようと思っていたのだが、これでは無理だ。
むしろ、サリーシャにも暴言を吐きそうだな。
「よし、決めた。ジュベリアーノ、頼まれてくれるか?」
「はっ」
「こいつ、街から離れた場所で適当に斬って捨てといてくれ。斬った証拠もいらん」
「よろしいので?」
「ああ。公式にはひとり逃げて、金目当ての野盗に殺されたたとでもしておけば良いだろ。そうだ。服装だけ庶民の格好に着替えさせろ。野ざらしにするのに、貴族の服じゃあ目立ってしょうがねえ」
「かしこまりました」
一礼してバウンスを立ち上がらせようと、腕を掴むジュベリアーノ。ドラク達のやりとりを聞いていたバウンズが初めて慌てた声を出す。
「貴様、いったい何を考えている! なんの真似だ!? 放せ!」
もう、ドラクの興味はバウンズにはない。かけてやる言葉は一つだけ。
「お前には一番無意味な死をくれてやる。グリードルの記録にも残さん。ただ、朽ち果てろ」
「貴様ぁ! このバウンズを!! 待て!! 放せ! 放せというのが聞こえんか!!」
必死に叫びながらも、ジュベリアーノ達に引きずられてゆくバウンズを、ドラクが視界に入れることはもう二度と無かった。
朝日が上がるのを待って、ケイーズの街の民にここはグリードルが占領したことを宣言。
市民からは歓声が上がり、誰一人としてバウンズを悲しむ声は聞かれなかったのである。
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「バウンズが敗れ、本拠のケイーズは占拠されたようです」
ランビューレ王国のスキットの元へ届いた一報。
「そうか。で、バウンズは?」
「消息不明とのこと」
「ほう」
スキットは顎に手を当てて考える。本来なれば大将であるバウンズが消息不明というのは考えにくいことだ。何があったか。
「こちらに向かっているということはないのだな?」
「はい。バウンズの逃亡は失敗し、バウンズ以外はその場で処刑。バウンズのみ街へ戻されたのは手の者が確認しております」
元々、バウンズの亡命先であったのは、他ならぬこのランビューレである。仕掛け人がスキット本人なので間違いない。
自領をランビューレに差し出す代わりに、自分の身を保護してもらう。そういう約束でやってくるはずだった。というか、そのように差し向けた。
そのために元ウルテア王妃のライリーンにも一筆認めさせ、身の安全を保障したのだ。
バウンズが無事にランビューレに到着し、調印が成立すれば、名実ともにバウンズ領はランビューレの一地方になり、それを攻めるとあれば、明確なランビューレへの敵対行為となる。
グリードルはあまり外交筋が強くないのは分かっている。バウンズ領を利用して、まずは外交から揺さぶろうと思ったが、本人が逃げおおせなかったのであれば仕方がない。
「……密約があったとして、ゴリ押しましょうか?」
配下が問うも、スキットは「必要ない」と答える。失敗した策に拘泥するのは愚かなことだ。
「本拠地が落ちたとて、バウンズ領の掌握のためにも、ドラクはしばらくあの辺りに滞在するはずだ。予定通り、その間に兵を動かしてみよう」
「かしこまりました。準備は整っています」
平原の盟主がついに、その腰を上げようとしていた。




