【やり直し軍師SS-226】山村の娘達③
書籍版表紙イラスト公開解禁となりました!!
今回のあとがきにて公開いたします!
おかしな旅人がやってきた翌日早々、私の家に双子がやってきた。双子は揃って朝が弱いので、ちょっと珍しいことである。
「珍しいね。どうしたの?」
小首を傾げる私を半ば強引に森へと連れ出すと、
「昨日の話、くわしく聞かせろ」
「モリスのおやじ、話を聞いてたろ?」
と、急かすように言う。
「昨日のって、旅人のこと? なんか大きな木材工場を作るから、周辺の村に協力して欲しいって言ってるらしいよ。2人のお父さんからは聞いてないの?」
「うちのはそういうの興味ないからな」
「昨日もずっと森にいた」
双子の父親は腕の良い木こりだけど、寡黙だし人付き合いはあまり良くない。元々、双子の一件で一部の人からは白い目で見られているから、あまりこういった話は回っていかないのかもしれない。
「それで“あいつら”、また来るのか?」
「来るなら、いつだ?」
「今日、また来るらしいけど……あいつら? え? ひとりだったでしょ?」
「何言ってんだ。村の周りにいっぱいいたぞ」
「嫌な匂いを撒き散らしてた。あれ、血の匂いだ」
「えっ!? じゃあ、悪い人ってこと!?」
「たぶんな」
「逆にだれも気づかないことにびっくりだ」
「大変、お父さんに伝えないと!」
慌てて戻ろうとするモリスの腕を、ユイゼストが掴む。
「むだだぞ。信じてもらえるわけがない」
「へたにさわげば、あいつらから目をつけられる」
「じゃ、じゃあどうしたら……」
「まあ、任せとけ」
「今日来るってことは、今日の夜かな? メイ」
「いや、明日の昼だろ? ユイ」
「あ、そっか。戦える大人は少ないほうがいいもんな」
「今日の夜やるか?」
「だな。あとで尾けよう」
モリスを放置して、何やら危険な会話をする2人。
「ねえ、危ないことはやめようよ。相手は大人だよ? 2人のいう通りなら、殺されちゃうよ」
「あんしんしろ。ほうっておいても殺される」
「やられる前にやるしかない」
「全然安心できないよ!?」
「モリス、たぶん大丈夫だが、今日の夜はねるな」
「もしも騒がしくなったら、すぐに逃げろ」
「ユー……メイっち……」
2人がこんな風になったら、私には止められない。ただ、相手が相手だ。私はただ、2人が無事に帰るのを祈るしかなかった。
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村から少し離れた場所に、野盗が集まっている。
そのうちの1人は、2日続けて村にやってきた旅人である。
「それで、どうだった?」
野盗の頭がその旅人へ問う。
「上々ですよ。明日、朝一番にもう一度村に行って、この辺りの木の質の確認をするために、男衆と山へ入ります。俺の話をすっかり信じているんで、皆、馬鹿みたいについてくるでしょうね」
「愚かな奴らだ」
「まあ、目の前でパンパンに詰まった金貨を見せられちゃあ、まさか嘘だとは思いませんて」
「ふふん。その金貨が他の村を襲って手に入れたものだとは思いもしねえか」
旅人の報告に満足した頭は、部下たちにを見渡すと、
「野郎ども、いよいよ仕事だ! 襲撃は明日の昼。目についた奴らはガキ以外全て殺せ。ガキは攫ってゴルベルへ連れて行く! そこそこの金になるだろ! 金目のものは見逃すなよ!」
「「「「「へい!」」」」」
「そんじゃあ、今日は前祝いだ!」
頭の宣言で盛り上がる野盗たち。
だが、
「よし! かんぱっ!?」
頭が乾杯を最後まで言い終わることはなかった。その額には、暗闇から飛んできた片手斧が突き刺さっている。
「お、お頭!?」
状況が掴めずに、頭の元へと駆け寄ろうと立ち上がったひとりの背中にも、片手斧が命中。血反吐を吐きながら焚き火の中へと突っ伏した!
「誰だ!」
「出てこい!」
慌てて武器を掴んで構える野盗たち。
がさりと音が鳴った方向へ剣を振り回しながら分け入った男は、首につるをかけられて、声を上げることもできずに倒れ込む。
また飛び散った焚き火を松明代わりに周囲を窺っていた男は、足元から掌底を喰らい、松明を口に突っ込まれて昏倒。
何が何だか分からぬ間に数を減らしてゆく仲間に、その場は混乱の極みに至る。
「ひっ」
騙し役の旅人は、暗闇からやってくる得体の知れぬ怪物に腰を抜かし、どうにかその場を逃げようと、這いずりながら進む。
そんな旅人の手が、何かに触れた。
「?」
闇の中で手の感触だけで“それ”が何か確認しようとすると、どうやら靴であることがわかった。
野盗の誰かだろうか? 旅人が恐る恐る顔を上げようとするよりも早く、
「よう、どこに行くつもりだ」
耳元で、この場には似つかわしくない、可憐な少女の囁きが聞こえるのだった。




