【やり直し軍師SS-190】志、二つ。(中)
あの頃の第10騎士団は、俺の両親が言うように“野蛮な傭兵集団”という言葉があながち間違いではなかった。
もちろん対外的には王直属のエリート集団という体だ。実際に、結成当初に各騎士団から優秀な者達を強制徴収している。グランツ様などはその筆頭だろう。
しかし内情を見れば中々に悲惨。下へゆけばゆくほどに、兵の質の低下が顕著だった。
何せ戦死率は高く、任務の危険度合いは他の騎士団の比ではない。だから初期の人材はともかく、追加の人材確保に非常に苦戦していたのである。
それゆえ10日に一度は入団試験の機会があったし、給金も他の騎士団に比べて高く設定されていた。結果的に、野心に溢れた多くの荒くれ達がその門を叩いたのだ。
当然のことながら新しい指揮官や指揮官候補を確保するのに苦労しており、レイズ=シュタインの才覚によってどうにか成立している騎士団であったことは間違いない。
慢性的な人手不足の中にも関わらず、入団候補の選別は必ず、レイズ様自らが行なっていた。
レイズ様は荒くれ者に混じってやってきた見どころのある者達を、身分や国籍を問わずに登用して、のちの第10騎士団の礎を築いていったのだ。
俺もそうやってレイズ様に拾われた。子供の頃から剣技や馬術の鍛錬を怠らなかった俺は、採用されて早々に部隊長の補佐役である副長見習いに抜擢される。
通常の騎士団であれば、見習いとはいえこのような経験の浅い若輩を抜擢するなど暴挙に近い。
だが、それを平気でやるのがレイズ様というお方だ。
そして、俺が無事に第10騎士団に加入したのとほぼ時を同じくして、同じく貴族出身の若い娘が入団したと耳にしたのである。
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「ルデクの大鷲の孫娘?」
「おお、あの英雄の孫が物好きにも第10騎士団に入ってきたんだとさ」
ルデクの大鷲といえば、大将軍ビルドザル=ゾディアックのことに他ならない。先王の信頼厚く、引退する時には王が涙したと言われるほどの御仁だ。
その孫……しかも、娘?
「その娘は年は幾つなのだ?」
騒がしい食堂の中で世間話を振ってきた同期に聞けば、俺と大して変わらないという。
「まだ子供じゃないか?」
思わずそのように口にした俺を、その同胞は揶揄う。
「何言ってんだフレイン、それならお前もガキだろ?」
「うるさい。俺はきちんと鍛えてここに来た。そんな奴と一緒にするな。どうせ、レイズ様の活躍に憧れたとか、そんな夢みがちな理由で、ゾディアック家がねじこんできたんだろ?」
武門の誉、ゾディアック家が推せば、流石のレイズ様も断れないだろう。つまりコネだ。俺はそう断じる。
「まあなぁ。10代の娘がいる場所じゃねえよな。ただでさえウチは男が多いし」
死にやすい、金目当て、即戦力特化。この3つが揃っている第10騎士団は男性比率が他の騎士団よりも高い。女性は治療兵などに僅かにみられる程度だ。
「実情を知れば、すぐにいなくなるだろうさ」
「それもそうだな……」
俺は数日もすれば実家に逃げ帰るだろうと思っていた。
だから、初めてラピリア=ゾディアックと対面したのが訓練場であったことは、俺にとって少しの驚きがあったのは否定しない。
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屋内訓練場には異様な光景が広がっている。
肩で息をしながら天井を仰いでいるのは若い娘だ。手には模擬剣が握られていた。そしてその娘の目の前には、身長差が2倍近くあろうかという巨漢が腹を押さえて沈んでいる。
巨漢に追い回されながら、娘の、ラピリア=ゾディアックの剣が一閃。巨漢の腹を突いたのだ。
巨漢の方に侮りがあったのは間違いないだろう。対峙した時は『早めに降参してくれよ』などと笑っていたから。
しかし巨漢の油断を差し引いても、先ほどの突きは見事なものだった。“大鷲の孫”の名は伊達ではないということか。
「ありがとうございました」
ぺこりと礼をして引き下がるラピリアの姿を、その場にいた兵士たちはなんとも微妙な空気で見送る。
中には小さな舌打ちも聞こえた。まあ、面白くないと思う奴がいるのも分からなくはない。
そんな風に思っていると、ラピリアと一瞬視線が交わる。
その瞬間、なぜかラピリアが俺に対して不快そうに眉間に皺を寄せように見えた。
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その日の訓練が終わった後のこと。俺が通路を歩いていると、後ろから「ちょっといいかしら?」と声をかけられた。
振り向けばそこにいたのはラピリアだ。
「なんだ?」
「あなた、デルタ家のフレイン=デルタよね」
「ああ。君はラピ……」
「足を引っ張らないでね」
「は?」
何を言われたのか分からず、俺は固まる。
「私は第10騎士団でレイズ様のお役に立つため、ルデクの平和を維持するために、全てを投げ打つ覚悟でこの騎士団に入ったの。貴族の遊びと思われると迷惑なの」
それはつまり、俺がコネで入ってきたお遊びとでも言っているのか?
「ふざけるなよ。俺は将軍になるために覚悟を持ってここに来た。俺のほうこそ、お前みたいなコネ入団と一緒にしてもらうのは迷惑だ」
「なんですって!」
「事実だろ!」
一触即発、そんな状況に待ったをかけたのは、たまたま通りがかったグランツ様。
「2人とも、そこまでにしておきなさい。レイズ様はコネで第10騎士団に人は入れぬ。きちんと実力を鑑みた結果だ。とはいえどちらも見習い。こんなところで争っても、子犬の喧嘩にしか見えぬな」
「「ですが!!」」
「まあ、確かによく似た境遇だな。仲良くせんか」
そんなふうに言われて、俺たちは一度顔を見合わせると、
「「ふん!」」
と、思い切り顔を逸らすのだった。




