表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/584

【やり直し軍師SS-174】デリクの受難(下)


「日が傾き始めたか……」


 山間部の日暮れは早い。この谷底で夜を明かす可能性すら出てきた。無論武器などない。獣が出てきたらかなり困ったことになる。


 だが、ここでデリクが弱音を吐くのは厳禁だ。2人の女性が一緒なのだから、デリクの言葉で不安にさせるわけにはいかない。


 何か、明るい話題を……。デリクは意識的に笑顔を作ると、冗談でも言おうと、心細く思っているであろう2人の方を振り向く。


 しかしながら、山育ちのモリスは体力を温存するために目を閉じ、なんならわずかに寝息が聞こえ、ドリューに至っては緑の根っこのようなものを齧っている。


 ……根っこのようなものを齧っている?


「ちょ! おい! ドリュー! お前何食ってんだ!?」


 慌ててドリューの手から根っこを奪い取るも、すでに一部は齧られて咀嚼され、それからドリューはみるみる涙目に。


「大丈夫か! すぐに吐き出せ!」


 デリクの騒ぎに気づいたモリスが目を開けて近づいてくる。


 デリクはとにかく吐き出させようとドリュー背中を叩く。そんなデリクに向けてドリューが口を開いた。


「か……」


「か?」


「辛いですぅぅぅ」


「は?」


 予期せぬ返答にデリクが固まったところで、モリスがドリューが齧った緑の根っこを摘み上げ、「あら、これ」と声を上げる。


「モリス、これがなんなのか知っているのか?」


「ええ。珍しいですね。こんな場所でお目にかかるなんて。でも水も綺麗だし……」


「珍しいかどうかは今はいい、これ、食って大丈夫なものなのか?」


「大丈夫ですよ。これはワビという香辛料です。擦ると強烈な辛味が出て、私の地元では料理のアクセントに使います」


「香辛料……」


「でも、地元では自生する数が少ないので、ちょっとした珍味扱いでした。王都でも見かけたことはないので、一般的ではないみたいですね」


 モリスの説明を受けて脱力するデリクの横で、ドリューはようやく辛味がおさまってきたのか、「これ、向こうにいっぱい生えてるですよ?」とケロリとした顔で言う。


「たくさんですか? それは凄いですね。もしかしたら、この辺りの方がワビの育成に適しているのかもしれません。ドリュー、その場所へ案内してもらえますか?」


「良いですよ。こっちです」


 そんなふうにはしゃぎながらワビの群生地に向かう2人の後ろ姿を見ながら、デリクはなんだか色んなことが馬鹿馬鹿しく思うのであった。



「折角ですから」


 と、何か折角なのかわからないが、モリスがひとしきりワビを収穫したところで軌道修正。なんとか脱出しなければ、それこそ、その辛いワビとか言うやつを齧りながら、こんなところで朝を待つことになりかねない。


「せめて火があればなぁ……」


 それだけでも随分と違う。探索している兵士たちに合図になるし、夜を明かすにしても安全度が跳ね上がる。


 すると、ドリューが不思議そうにデリクに声をかけてきた。


「火がいるですか? じゃあ起こします」


「は? どうやって?」


「圧気発火器、持ってるので。これがあれば火が起こせます」


「おま!? そんなのあるなら、さっき言えよ!?」


「そんな会話していたですか? 聞いてなかったです」


 これ以上の議論は時間の無駄だろう。デリクは一度肩を落としてため息を吐くと、気持ちを切り替える。


「とにかくそれで火が着くんだな。なら、すぐに火を起こすぞ」


 完全に日が沈むまでに煙が上がれば、発見される可能性も上がる。


 こうして慌てて焚き火を作って半刻ほど、遂に日が暮れた。


 しかしギリギリのところで煙が功を奏したのであろう。遠くから声が聞こえてくる。デリクもよく知るその声に対して、大声で助けを呼ぶ。


「ヨルドー!! ここだー!! 谷に落ちてる!!」


 今度こそ届いたデリクの声によって、その後しばらくして3人は救出されるのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 デリク達が“燃える水”の調査をしている場所は、サスナブという町の近くだ。


 なんら特徴のない田舎の町。数少ない名物といえば蕎麦くらいなものだ。


 この辺りでは珍しくないが、蕎麦を麺状にして食すのは他ではあまり見られないらしく、わざわざこんな田舎まで食べにくる奇特な観光客もいる。


 そんなサスナブでも、美味いと評判のつけそば屋を営む店主、ヤイールは、ここのところずっと悩んでいた。


 原因は以前にやってきた旅人の一言。


 片眼鏡(モノクル)の奥の鋭い視線をヤイールに向け、その男はこう言った。


「とても美味かった。絶品であることは間違いない、だが、何か、もう一味足りない気もする。何か辛味のようなアクセントになるものがあれば……」と。


 その言葉にヤイールは息を飲んだ。実は、ここのところヤイールもなにか一つ、物足りなさを感じていたのだ。そして必要なのは辛味ではないか、と。


 様々なものを試してみたが、なかなかつけそばに合うものが見つからない。


 そうして今日も、悶々としながら店を開けていたその日の夜半。そろそろ店を閉めようかと思っていると、外が騒がしくなった。どうやら第10騎士団の面々が山から帰ってきたらしい。


 彼らはここしばらくの間に、何度かこの町にやってくるようになっていた。何かを調べているらしいが、内容は機密らしい。


 町の人間からすれば金払いもいいし、人数も多いので、騎士団が来ると良い稼ぎとなる。そのため理由などどうでも良かった。


 ヤイールの店も贔屓にしてもらっている。それにしても、今日は大分戻りが遅かったな。何かあったのだろうか。


 まあいい、彼らが帰ってきたのなら、もう少し店を開けておいても良いかもしれない。


 ヤイールの予想通り、数名の客が騒がしく入ってきた。



「マジで頼むから今度からは勝手に知らないものを口にするなよ!?」


「でも食べられたですよ?」


「偶々だったし、辛くて食えなかっただろ!?」


「まあまあデリク、ドリューも反省しているし」


「ヨルドは甘すぎる! 絶対反省していないぞ!? なあモリス」


「ワビ、どんな料理と合わせましょうかね?」


「モリス……」


 ヤイールが運命の香辛料と出会うのは、この直後のことである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リヴォ摩呂の感動は次回に持ち越しとして、 柚子胡椒を作るんだ、ロアくん。そして、ポージュの中へ!
[良い点] 面白すぎるドリューとデリクの探索話も 単純に燃える水を使って新しい技術や武器が開発できました。と なるのではなく、しっかり2話でいい感じに落とすとは・・・ [気になる点] 護衛の兵士達が大…
[気になる点] この作品は好きだけどSS集になって、よくある異世界転生ものみたいに所々で現代日本で使われてる言葉や設定を入れてくるのが冷める。 ダービーやらシュークリームやら、今回のワ(サ)ビ。 そう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ