【やり直し軍師SS-162】ローメートの野望②
「どうしたものかなぁ」
僕は呟く。
僕とラピリアとネルフィアが頭を悩ませている間に、ルファと双子に好き勝手にされていたリヴォーテがいよいよ怒った。
双子とルファが笑いながら部屋の中で逃げ回り、「暴れるなら外でやりなさい」とラピリアに叱られて、揃って部屋を出てゆく。
部屋に残ったのが3人になって、ようやく落ち着いたところでネルフィアが聞いてきた。
「ロア様の“例の記憶”の中に良さそうな物はありませんか?」
「うーん。そうだねぇ……」
今回の件、ローメート様の希望は、「砂糖を使用すること、できればどの地方でも作ることができること、砂糖以外は価格を抑えることができること、目新しいこと」を満たしたお菓子だ。
ローメート様の理想は高い。
シルク焼きで良いのではと提案してみたのだけど、「シルク焼きはザクバンが主役ですから。あれ、砂糖がなくとも作れませんか?」と指摘された。まあ確かに、甘さ控えめにはなるけれど、できないことはない。
というわけで残念ながらシルク焼きは却下。
加えて、確かに僕には未来の記憶があるけれど、別に未来で菓子職人を目指していたわけではないので、菓子の引き出しは少ない。それに滅亡回避の時と違って、手段を選ばずなんでも利用するという状況でもない。
せめて海の外から入ってきたもので、何か良いもの、ないかぁ。
記憶を弄る僕の横で、ラピリアが小さく嘆息した。
「あの場では思わず賛成に回っちゃったけれど、ローメート様があんなにお菓子に情熱を注がれる方だったとは知らなかったわね」
そんなラピリアの言葉に、ネルフィアも同意。
「私もつい流れに乗せられてしまいました。ロア様には申し訳なく思います……」
「まあ、仕方ないよ。それにローメート様の提案、案外的外れでもないんだよね」
そう、ローメート様は良いところをついているのだ。これから確実に戦ごとは減る。そうなると今まで軍部で消化していた様々な物が余剰となるはずだ。砂糖などもその一つだろう。
かと言って輸入量を減らすのも芳しくない。一定量の取引があるからこそ、相応の価格で仕入れることができているのだから。
ならばやはり市場に放出するのが現実的で、みんなが気軽に買うことができるようになれば必然的に輸入量も増えて、仕入れ価格を抑えることができれば価格も安定してゆく。
そして菓子は手頃な嗜好品だ。国が安定して、民の収入に余裕ができれば自然と関心は高まるだろう。
ローメート様がそこまで考えて、今回の件を提案したのかは分からないけれど、とにかく理に叶っているからこそ、王も許可を出した。
「ロア、頼むぞ」と王に言われれば、あとはなんとかするしかない。
ラピリアとネルフィアは、そんな僕を何か手伝えないかと、こうして執務室にやってきてくれていたのである。
「あ、そうだ」
ラピリアがふと、何かを思いついたように口にする。
「ラピリア、どうしたの?」
「参考になればだけど、最近、王都の貴族の間で新しいお菓子が出回っているのよね。“プリン”っていうの。知ってる?」
「プリン? ああ、あの食感が面白いやつだね。昔の未来では食べたことがあるよ。へえ、この頃に貴族の間に登場したのか」
「元々はシューレットの菓子職人が生み出したらしいわ。それが段々と広まってきたの。私も先日のお茶会で食べたけど、ロアのいう通り面白い食感のお菓子よね」
「話を聞いていたら久しぶりに食べてみたくなったよ」
「そう、それじゃあ今度一緒に食べに行きましょ」
「うん。そうだね……あっ!!」
そうだ、“アレ”があった。“アレ”ならローメート様の希望を満たせるかもしれない。
「何か思いついたの?」
「何か思いついたのですか?」
2人が僕に詰め寄ってくる。
「うん……。まずはちょっと準備しないといけないんだけどね。うまくいけば、面白いものができるかもしれない」
「何? どんな物なの?」
「えっとね……あ、折角だから実際に作ってからの方が楽しめると思うけれど……今聞く? 僕はどちらでもいいけれど?」
念の為先に確認すると、2人はいっとき悩んでから「後で良い」との返事。
「それじゃあ僕はちょっと準備があるから、今日はこれで解散にしよう」
そう宣言して2人と別れた僕は、その足で文官の集まる棟へと足を向けた。
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「ドリュー、いる?」
兵器開発室改め、綜合開発局となった部屋に顔を出す。大部屋で多くの人たちが忙しくしている中、ドリューの側近であるホーネットがこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「ロア様、お疲れ様っす。局長ならまだ帰ってきてないですよ」
「あれ、出発前にデリクに聞いた日程だと、もう帰ってきている頃だと思ったのだけど」
「遅れるのはいつものことっす、何か、局長でないとできない工作っすか?」
僕はホーネットに作って欲しいものの形状を伝えると、「そのくらいの物なら、俺でも作れますよ」と言ってくれる。
「あ、じゃあ頼めるかい? ちょっと急ぎなんだけど」
「ロア様の頼みなら、最優先でやるっすよ」
「忙しいところ悪いね」
こうしてホーネットに頼むこと数日後、僕の元へと希望の物が届いたのである。




