【やり直し軍師SS-151】雷雨(下)
今一度雷鳴が轟き、室内を白く照らす。そんな中、ふふん顔のまま胸を張るレーレンス様。
私は「あのう…お任せするというのは…」と恐る恐る聞く。
お姉様は王妃様ととても仲が良いけれど、私はそこまでではないのだ。もちろん、お姉様の引き合わせで普通の人よりは面識はあるけれど、レーレンス様が何を考えているのか見当もつかない。
「そうね。まずは、シヴィを貸してあげます。取材相手への交渉や実際の取材は、レアリーとウィックハルト、段取りに関してはシヴィが請け負う、それではどうかしら? 大丈夫よね? シヴィ」
「もちろんでございます〜」
レーレンス様が頼りにするほどの人だ。お任せするなら間違いはない。私はウィックハルト様に視線を移す。
「……ここはお言葉に甘えさせていただきましょう。しかしレーレンス様、宜しいのですか? 我々はあくまで個人的な趣味として動いておりますが……」
ウィックハルト様の言う通りだ。レーレンス様は国家事業としても良いなんて仰っていたけれど、そんな大層な話ではない。
けれどレーレンス様は当然とばかり大きく頷く。
「もちろんよ。私もレアリーの描く物語に興味があるわ。なので、あくまで、私の趣味の範囲で協力をします。あ、そうだ、ネルフィアには話を通しておかないと。ちなみに、ネルフィアにはまだ?」
その質問に答えたのはウィックハルト様。
「はい。いずれ折りを見て、とは思っていたのですが」
「ならばその辺りもシヴィに任せましょう。シヴィ、よろしくね」
「はい。お任せくださいませ」
大袈裟に敬礼して見せるシヴィさん。行動がいちいち演技っぽい人だなぁ。そんな私の不信感に満ちた視線に気付いたのか、私の方に向き直り、にっと笑顔を見せる。私は気まずくなって思わず視線を逸らした。
「さて、じゃあ、ひとまずの方向性はこれで良いわね。さ、始めましょうか?」
レーレンス様が姿勢を改めたけれど、私は仰っている意味が分からず首を傾げる。
「えっと、何を……」
「何をって、決まっているでしょう。あなた方はロア=シュタインの情報を集めているのでしょう? 私にも取材なさいな」
「あ、そ、そうですね」
どこまでもレーレンス様のペースに戸惑いつつも、私はレーレンス様から見た御兄様のことを聞くことになったのだ。
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ロア=シュタインの印象、私としては大恩人、と言うのが一番ぴったりな表現かしら。
あ、ルデクを勝利に導いたことではないわよ。ええ、もちろん、その事にも大変に感謝はしているけれど、私が言っているのは息子たちのことよ。
貴方たちもよく知っているように、長男のゼランドは、ロアに関わってから大きく変わったわ。あまりの変わりように、私、一時期真剣に替え玉を疑ったほどね。
けれど、ちゃんと私の息子だった。こう言ってはなんだけど、ロアは一見、とても強そうには見えないし、知恵者という雰囲気もない。
そんな地味で普通の文官が、第10騎士団で活躍しているのを目の当たりにしたことで、ゼランドは自分もできるのではないかと思い始めたみたい。
不思議なものね。一度自信がつけば、その後の成長はあっという間。まさかあれほど早く、王家の祠に行くような事になるとは夢にも思っていなかったわ。
ゼランドが独り立ちを始めた今も、ロアはあの子の目標であり続けている。ゼランドがルデクを統治する時が来ても、ロアがそばにいてくれれば安泰だと信じています。
それにゼランドだけの話ではないわね。ウラルにもロアは大きな影響を与えた。
周囲の者たちに翻弄されていたとはいえ、少し暴走気味だったあの子は、ロアに徹底的に叩きのめされて自分が無力だと思い知った。
今まで一度も挫折しなかったウラルが、初めて体験した大きな挫折。それは自分を見つめるのに良い時間を与える事になった。ついでに面倒な取り巻きたちも一掃できたし、そういう意味でもロアには助けられたわね。
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「あの、失礼な質問かも知れませんが……お伺いしても宜しいですか?」
おずおすと手をあげる私に、レーレンス様は寛容に頷く。
「もちろんよ。答えられる事なら答えるわ。そういう場ですもの。何かしら?」
「ゼランド様とウラル様の、その、確執のお話は耳にしていますが、どうしてそこまで拗れる事になったのですか?」
「ああ、そのことね。時期が悪かったとしか言いようがないのよ。あの頃のルデクの置かれた状況は説明するまでもないけれど、ルデクは窮地にあって決して一枚岩ではなかった。夫もどうにか国が内部崩壊しないように、様々な相手に配慮をしなければならなかった」
「はい」
「第九騎士団の創設もそう。そして、息子たちの教育係についても、売り込んできた貴族を取り込むために利用したの。利用するしかなかった、という方が正しいかも知れないわ」
それは、随分と歯痒い思いをしたのではないだろうか。
「ま、ロアのおかげで問題の貴族は失態を犯してくれたから、夫も気兼ねなく罰することができたのよね、そういえばあの頃から、夫も周囲に対して強気というか、不穏分子に対して戦う覚悟を決め始めたような気がするわ。もしかしたらこれも、ロアの影響かしら?」
流石にそれは偶々な気もするけれど、とにかく貴重な話を聞けた気がする。
「ありがとうございました。レーレンス様。とても有意義なお話でした」
「そう、満足してくれたのなら良かったわ。もし何か便宜を図る必要があれば、シヴィを通して伝えてちょうだい。普段は視界に入らないのに、探そうとするとすぐに現れるような娘だから」
こうして、私とウィックハルト様は、お義兄様の物語執筆にあたって、これ以上ないほどの大変強力な後ろ盾を得たのである。




