【やり直し軍師SS-133】ゾディアと幼子④
お金に余裕のある今だから。ベルーマンはそう腹を決めたようだ。ゾディア達に相談の上、ハンタノの街で馬車のフルメンテナンスを頼む決断を下す。
一座の大切な一員である馬車。ここまで細かな修繕は数え切れないほど行ってきた。
形は少々古くなってきたが、この街でしっかりと手入れがなされれば、まだまだ十分に共に旅することができるはずだ。
ゾディアにとっても愛着のある馬車だ。工房に収める前に、幌をひとなでして送り出す。
馬車を引く馬もしばしの休養。ル・プ・ゼアでは3頭の馬を所有している。馬車が2頭引きのため、交代で回すための構成である。
この馬達の面倒を請け負いたいと言ったのは、案内を任せているノーラだった。
「うちの孤児院でみんなで面倒見るよ! そういうこともやってるんだ!」
元々運営母体が厩も手がける商家であるらしい。割安に請け負う代わりに、孤児院の子供達に面倒を見させ、将来運営する厩の使用人として雇う勉強としている。
このやり方はすでに長く続けており、何かあった時の保証も商家が面倒を見るとのことだったので、任せることに決める。
「ついでだから、孤児院を見学しても良いかしら?」
ゾディアの提案をノーラは快諾。こうして一座は馬を連れてノーラの住む孤児院へ。
到着してみれば、なるほど納得だ。孤児院は厩の裏にあった。裏、というよりも併設されていると表現した方が正しいかも知れない。
普段は当番制でノーラも馬のお世話をしなければならない。しかし今回は、ゾディア達から貰った賃金でお菓子を購入し、それを餌に交代してもらったという。
レナントへの売り込みといい、幼くして強かだ。
こちらに気づいた少年の一人が大きく手を振り、ノーラがそれに振りかえす。孤児院の仲間らしい。様子を眺めていると瞬く間に子供達が集まってきた。
ノーラが厩のお客さんだと伝えると、最初にこちらに気づいた少年が、店主を呼びに行ってくれる。
店主がやってくるまで、ゾディア達は子供達から囲まれて質問攻めだ。
「どこからきたの?」
「歌を歌うの? 劇をやるの?」
無邪気に質問を繰り出す子供達の血色は良い。ここの孤児院を運営する篤志家は、ちゃんと子供に目を向けていると感じられた。
―――良い孤児院でよかった―――
ル・プ・ゼアにも孤児院出身者が多い。中には、ちゃんとしていないところから、逃げ出すように一座に転がり込んできた者もいる。
パリャも逃げ込んできたくちだ。初めて会った時はガリガリに痩せて、細枝のようであったことを思い出す。
ゾディアは僅かに懐かしい気持ちとともに、パリャへと視線を向けた。今はすっかり女性らしい体つきのパリャは、子供達と楽しげに戯れている。
さして時をおかずやってきた厩の店主に、馬の面倒を頼みたい旨告げる。
その後は子供達に手を引かれ、孤児院の見学。と言っても、それほど見どころがあるわけではない。馬屋が併設されている以外は、至って普通の建物である。
住まう子供の人数は思ったよりも多かった。別の孤児院が閉鎖したため、ここに移ってきたというノーラが言っていたから、その影響だろう。
ひとしきり見学の後、院内の小さな広場でベルーマンが代表してお礼を告げる。
そうして、「礼代わりと言ってはなんだけど」と、それぞれが楽器の準備を始め、音を爪弾き始めた。突如始まった、孤児達のためだけの独占公演だ。
子供達のために歌ってあげるのは、孤児院の見学が決まった段階で、皆で決めていたことだった。
子供達にとっては降って湧いたイベントである。大いに盛り上がり、みな、ゾディアの歌声に聞き入る。
途中からは孤児院を運営する大人も集まってきて、孤児院の小さな広場は人がひしめき合うほど。
その最前列にはノーラの姿。ノーラは地面に腰を落とし、目を閉じてうっとりと、ゾディアの歌に聞き入っていた。
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「ね、ゾディアさん。旅一座って、どうすればなれるの?」
ノーラがそんなことを言ったのは、一座が街に滞在する最終日のことだ。
「どうすれば……。さあ、どうかしらね」
ゾディアは曖昧な言葉を返す。もしも一座の歌を聞いて、旅一座になど憧れを抱いたのであれば、そのような願望は早々に打ち砕いていおたほうが良い。
流浪の民など碌なものではない。それはゾディア達自身が一番わかっている。
ゾディアがそんなことをやんわりと伝えると、
「実はね、同じ孤児院にいたお姉ちゃんやお兄ちゃんが、旅一座になったんだ」と言う少し意外な返事。
詳しく聞けば、以前の孤児院閉鎖の際、行く場所を失った年長者が旅一座を結成したのだという。
「私も連れて行って欲しかったけど、子供はダメだって」
賢明な判断だ。ただでさえ不安定な生活の一座、しかも結成したばかりとなれば、幼子を連れての旅など無謀でしかない。
「だから私はね、服職人になってヴァ・ヴァンビルのお洋服を作ってあげたいんだ」
「その一座はヴァ・ヴァンビルっていうの?」
「うん」
「素敵な夢ね。もし、私たちがヴァ・ヴァンビルと会うことがあったら、ノーラが頑張ってるって伝えるわ。機会を見て会いに行ってあげてって」
「本当! 絶対、約束だよ!」
「ええ」
こうしてゾディアは、小さな未来の仕立て屋さんと約束の握手を交わしたのだった。




