【やり直し軍師SS-131】ゾディアと幼子②
ノーラが案内してくれた服屋は、大通りから離れた目立たぬ場所にあり、ゾディア達のような旅人では到底辿り着けないような店だ。
しかし、意外と言っては何だが、ついてきた甲斐のあるお店であった。
布の質も良く、デザインも程よい装飾で普段使いに向いている、何より価格が手頃だ。懐に余裕があるとはいえ旅一座は基本的にお金がないので、出費を抑えることができるのは助かる。
ゾディア達一座の女性陣は夢中で物色しながら、話題がロア達への土産に移ってゆく。
「ゾディア、これ、ルファって娘さんに似合いそうじゃない?」
「ラピリア様にはこっちはどう? あ、でもロア様とお揃いが良いのかしら?」
2人が勧めてくるものを、ゾディアが品定めする。特にゾディアが決定権を持つわけではないのだが、なんともなしにそのような役割分担になる。
そうしてしばらくゾディア達がわいわいやっていると、店主から声をかけられた。店主はまだ若手のようで、どことなく接客は得意でないようだ。商売人というよりは、職人気質な雰囲気をまとっている。
「あ、あの、先ほどからあなた達の仰っている、その…ロアという方は、もしかしてあのルデクの英雄、ロア=シュタイン様の事ですか?」
「ええ」
ゾディアが答えると、店主は意気込みながら、質問を重ねた。
「ってことは、あなた方は、あのロア様とお知り合いなのですか?」
「そうよ」
なぜかパリャが自慢げに胸を張る。特に隠していることではない。現に、ル・プ・ゼアの演目にも、ロア達をテーマにした曲が何曲かあるし、ル・プ・ゼアとロアの関係は、時が経てば自然と広まってゆくことだ。
ロアの名をいたずらに使うつもりはない。が、利用しようと言い寄ってくる相手に対する、牽制には利用させてもらう。
ロアにもそのように伝えてあるし、ロアからは「僕の名前でよかったら困ったら適当に使ってよ」との返事も得ていた。
「ロア様の名を使って商売をされるのなら、諦めた方がよろしいかと思いますよ?」
ゾディアがやんわりと機先を制すると、店主はブルブルと首を振った。
「ち、違います。お客様がたが私の店の商品を、ロア様のお土産にすると仰っていたので、まさかと思って……あの、本当に?」
「ええ。こちらの商品は質も良いので。何か不具合が?」
「いえいえ! 光栄なことです。ですが……あの……」
店主は何やら言い淀むような仕草で下を向く。
「言いたいことがあれば、はっきり言いなさいよ!」
パリャにせっつかれた店主は、意を決したようにゾディア達を見ると、
「あの! ロア様達の衣装、私に一から誂えさせてもらえませんか!?」と言うのだった。
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その夜。
「へえ、ロア=シュタイン殿の衣装をねえ。面白いことになっていたんだね」
夕食の席でゾディアが服屋でのやり取り話すと、ベルーマンは楽しそうに相槌をうつ。
「ええ。どうしても感謝の気持ちを伝えたいって。それで、今日からお店を休んで5日間でロア達全員分の衣装を縫うから、時間をくれないかと言うのだけど」
「全員分?それは流石に無理じゃないか?」
「それが、職人を何人も集めて作るからって」
「随分と大ごとになっているね」
「そうね」
ベルーマンの言う通りだが、同時に、ロアの食糧支援は人々にとって非常に大きなものであったことが改めて実感できる。
ルブラルと比べてルデクとの利害関係の薄い専制16国では、より純粋に感謝されているのかもしれない。
「それでね、ベルーマン、衣装ができるまでの5日間、この街に滞在しても良いかしら?」
「構わないよ。なあ、みんな? それに男どもはまだ買い物が終わってないからね」
そんなベルーマンの言葉に、パリャが口を挟む。
「なら、明日はノーラに案内して貰えばいいわ」
ノーラには街の滞在が伸びたら、案内を頼みたいと話をつけてきていた。もちろん、ちゃんと案内料は払う。明日、例の服屋の前で結果を伝えることになっている。
「じゃあ、そうしようか。そのノーラという娘さんにも会ってみたいし。そういえばこちらも面白い人に絡まれたよ。なんとかっていう弓の達人らしくて、「ウィックハルトと戦いたいが、話をつけてくれないか?」って言われた」
「それで、なんて答えたのかしら?」
「ルデクに行って聞けばいいんじゃないですか? って」
「……またそんな、適当なことを……」
「そうかな? こう言うことはやっぱり直接会って頼まなきゃね」
ベルーマンは流浪の民らしい気楽さで口にした。旅一座にとっては近所の街に出かける程度の感覚だが、普通の人はそうではあるまい。
まあ、私には関係のないことか。ゾディアはそれですっかりその話に興味を失い、明日の予定を計画し始めるのであった。




