【やり直し軍師SS-125】シャンダルの小さな冒険⑤
ジュノスの事情、シャンダルとしては気になるところではあるが、ここはひとまず置いておくことにした。
それよりも学びたいこと、学ばなければならないことが沢山あるのだ。
この街に到着したばかりの本日も、旅の疲れを癒すよりも見聞を広めることを優先したい。シャンダルが最初に見てみたかったのは、この街の根幹となる水運業、そして、運河。
街の運河は、ロアがこの地に目をつけてすぐに計画したと聞く。まだまだ完成は先らしいけれど、金と人に物を言わせて、急速に整備させている最中だ。
最終的には、ツァナデフォルや帝国まで繋げる目論見だと教えてもらった。大変な工事だが、これはゴルベルにも利用できるような気がする。
ゴルベルにも2つの大河があるのだ。そのうちの一つが造船所の近くへ流れ込んでいる。
この河を利用すれば、内陸部で部品を作って造船所に持ち込むことができないだろうか? そうすれば、今まで造船に携わっていなかった人々や、小さな村にも仕事を振ることができるんじゃないか。シャンダルはそのように考えた。
「船を動かすには、どの位の深さがいるんですか? それに、どんな船なら良いのでしょうか?」
矢継ぎ早に質問するシャンダル。ロアをはじめ、水運に携わる人たちが懇切丁寧に教えてくれる。
「若いのに、勉強熱心だね!」
そんな風に言ったのは水運業を束ねる親方。シャンダルが王子だとは伝えていないため、親方は貴族の子息が学びにきた程度に考えているようだ。
「はい。沢山勉強して、国に帰った時に役立てたいのです」
シャンダルの言葉に親方が首を傾げる。
「国? ルデクの貴族様じゃないのかい?」
「私はゴルベルの者です。いずれはゴルベルに帰り、今日学んだことを活かしたいと思います」
「そうか、そうか。こっちはロア様が許可を出しているから、どこの国のお方でも問題ないが、隣国からわざわざこんなところまでやってくるとは、ますます偉いねぇ。せっかくだから試しに船に乗ってみるかい?」
「良いのですか? あ、でも……」
シャンダルはロアをチラリと見る。流石に船に乗るとなれば許可がいるだろう。ロアは少し考えて、
「まあ、少しくらいなら問題ないんじゃないかな。シャーチさん、お願いできる?」
と、親方に声をかけてくれる。
「こっちが誘ったんだから、もちろん構わないさ。で、何人乗るんだい?」
先ほどまで元気だった双子が、ここで急速に大人しくなり、数歩後ずさった。
「船……」
「でも、護衛が……」
そんな2人にロアが笑う。
「そこまで行って戻ってくるだけだから、ユイメイはここで待っててくれればいいよ」
「ぬう」
「分かった」
双子がほっとした表情で下がると、ロア殿が乗り込む人員を選び始めた。そこにジュノスも自ら名乗りを挙げる。
ジュノスは先ほどまで黙ってついてきているだけだったのだけど、どういう心変わりだろう? 船が好きなのか?
「じゃあ、ジュノスも頼むよ」
ロアがあっさりと許可を出し、シャンダルたちはいくつかの小舟へ分かれて飛び乗る。シャンダルの乗った船には、ジュノスも同船してきた。
ゆっくりと岸を離れる小舟。シャンダルはあまり船に乗ったことがない。船の揺れと緩やかな流れに身を任せていると、なんだかすごく楽しくなってきた。
そんなシャンダルの横にやってきたジュノス。ジュノスは正面を向いたまま、不意に「悪かったな」と呟く。
「何が?」
なんのことを言われたのかさっぱり分からず、素のまま困惑するシャンダル。
しばしの沈黙ののち、ジュノスが再び口を開く。
「お前、ゴルベルの王子なのか?」
「ああ」
「俺はてっきり…ルデクの王族の一員かと……あのジジイ、ただ王族が来るから案内の手伝いをしろって……」
「…………」
シャンダルはまだ、ジュノスの言っている意味が分からない。
「……なあ、俺がなんでザックハートを倒そうとしているか知りたいって言ったな」
「教えてくれるのか?」
「無礼の詫びだ。話す。でも少し長い話だ。どこかで時間、作れるか?」
シャンダルとしても望むところだ。
「もちろん。あとでロア殿にお願いしよう」
こうして、歓迎の宴ののち、シャンダルはジュノスの事情を聞くこととなったのである。
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その夜。シャンダルはジュノスの事情を聞いた。ジュノスの父がリフレアの騎士で、名の知られた人物であったこと。父はフェマスでザックハートに討たれたこと。そしてその、ザックハート本人に騎士団に誘われたこと。
それらを、ジュノスはぽつりぽつりと話す。
「だから、俺はまだルデクを許せないし、でも、母さんや妹のために、……それに、父さんの代わりにザックハートを倒すために、騎士団にいる」
「復讐の、ため?」
シャンダルの言葉に、ジュノスは首を振る。
「いや、本当は、ザックハート……ザックハート将軍にも、ルデクにも感謝している。それに、リフレアが悪かったこともよく分かってんだ。でもな、気持ちって、そう簡単に割り切れる物じゃねえだろ?」
そこには、シャンダルが聞きたかった、本当の“リフレアの民の声”があるような気がした。
頭では理解している。だが、気持ちはどうか?
それは、ゴルベルの民にも言えるのかもしれない。負けた国の民の本音。私は、それを汲み取ってやることができるだろうか?
「なんだ? 惚けて?」
ジュノスの言葉に、シャンダルは今考えていたことを正直に話す。するとジュノスはなんともいえない表情になる。
「お前……、いや、シャンダル王子はいつもそんなことを考えているのか?」
「今更王子呼ばわりはいいよ。お前、でいい。歳も一緒であるし。私もなるべく自然に話そう」
「そうは言ってもな、ともかく、いつもそんなこと考えていて疲れないのか?」
妙に心配されて、シャンダルは少し面白いと思った。
「ジュノス、君だってその歳で、母と妹、それに父上の想いを背負って毎日鍛錬しているんだろう? 疲れないのか?」
シャンダルの反論に、「ぐっ」と言葉に詰まるジュノス。
それからしばらくして、2人で笑う。
立場も、考え方も違うけれど、2人は根底にどこか似通ったものを感じた。
後に、ゴルベル歴代でも最高の王と呼ばれるシャンダル=アベイルと、第三騎士団の名将として名を馳せるジュノス。
互いに友と呼び合う二人の友誼は、この時より晩年まで続くこととなる。




