【やり直し軍師SS-123】シャンダルの小さな冒険③
北ルデクの中で、特にシャンダルの興味を惹いたのは、ヴィオリという街だ。今回の目的地でもある。
ヴィオリは北ルデクでも東部にある。北ルデクがリフレアであった時代、この街はそれほど注目される場所ではなかった。
リフレアの宗都であったレーゼーンは、北ルデクでも西寄りだ。そのため人の往来から外れていたヴィオリは、かつては鄙びた農村であったという。
しかし、今のこの街を見て、ヴィオリがほんの3年前まで小さな村であったなどと思う旅人はいないだろう。
この地に価値を見出したのは、やはりロア=シュタインその人だ。ヴィオリの近くには、北ルデクでも有数の大河が、ツァナデフォルと帝国の国境付近に向かって流れている。
ロアはこの河を新しい街道とともに流通の要と考え、川辺に張り付くように存在していたヴィオリの開発に着手したのである。
街の規模がある程度整った段階で、北ルデクにおける騎士団の本部も移された。街は事実上、北ルデクの首都のような立ち位置を確立しつつある。
事前知識があったものの、到着して実際に見た風景にシャンダルは小さくため息を吐いた。
道中で見た町村もそれなりに活気があったが、この場所は頭ひとつ抜けている。
「たった3年でここまでの規模にするのは、大変だったのではないですか?」
シャンダルが素朴な疑問を呈すると、ロアは少し微笑む。
「それほどでもないですよ。人の流れと、人が集まりやすい場所を作ってあげるのです。そうすれば自然と栄えてゆきます。尤も、たくさんの者達の尽力があってのことですが」
「人の……流れ?」
「ええ。街とはすなわち人ですから。そこに利益があるとか、楽しいことがあるとか、動機はなんでもいいので人を呼び込む方法を考えれば良いのですよ」
言われてみれば、フェマスでも似たようなことがおきていた。あそこは人々が観光に訪れ、その人たちを目当てに商人や旅一座がやってくる。そうして盛り上がりを見せていたのだ。
「人の流れ……」
シャンダルはもう一度呟いてみる。
そんなシャンダルの様子を、ロアや周りの人々は温かい視線で見守っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おお! ルファよ! 会いたかったぞ! また少し美人になったな!!」
大柄で高齢にも関わらず、想像以上に素早い動きで突進してくるザックハート将軍。その勢いにシャンダルは思わず後ろへのけぞった。
「御義父様!!」
屈託なく駆け寄ってザックハート将軍に抱き上げられるルファ。ザックハート将軍はそのままクルクルと回る。
そうしてひとまず満足したのか、ルファをゆっくりと地面に下ろしたザックハート将軍は、ようやくこちらに近づいてくると、シャンダルの前で膝をついた。
「シャンダル王子、ご無沙汰しておりますな。一年ぶりでしょうか?」
「そのくらいになりますね。この度は色々と学ばせていただきます」
「うむ。良い顔つきですな! ゴルベルのために、好きなように見学なされよ!」
豪快に笑うザックハート将軍。それから今来た通路を振り返り、
「おい! 何をのんびりしているのか!」と大声をあげる。
そんな声に呼応して
「ザックハート様が早すぎるからですよ! お年を考えたらどうですか!」
と抗議をしながら走ってきたのは、シャンダルとそう年の違わぬ少年兵。
「何を言う! ワシに足で負けるなど、まだまだよの!」
再びガハハと笑うザックハート将軍に対して、その少年は不満そうに口を尖らす。
「あの、ザックハート将軍、そちらは?」
気になったシャンダルの問いに、「挨拶せんか」と少年兵の背中を叩く。
少年兵の方はなおも不服そうであったが、シャンダルの前に出ると仏頂面のままぺこりと頭を下げた。
「第三騎士団、見習いのジュノスと申します! シャンダル様および第10騎士団の皆様の案内を仰せつかりました!」
ジュノスの挨拶ののち、ザックハート将軍が続ける。
「無論他の騎士団員もつけるが、シャンダル王子と歳が近い故、やりやすいかと思いこやつにも案内を任じた。気になることがあればなんでもお伝えくだされ。少々生意気ですのでな、粗相があった場合もすぐにお知らせいただきたい」
「そ、そうか……よろしく頼む」
想定外の出来事に、少々面食らいながら、かろうじてそのように返したシャンダル。
これが、シャンダルとジュノスの最初の邂逅だった。




