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【やり直し軍師SS-119】絵画(中)


 ええ、恥ずかしながら、私の趣味は絵を描くことでございます。


 いえ、下手の横好きとでも言いますか。それでも長く描いているとそれなりのものになるのでございますね。


 私が描いた絵を、同僚たちが誉めそやすものですから、ついつい調子に乗って館の廊下に飾ったりも致しました。


 主人不在で代わり映えのないお屋敷に、せめてささやかな変化を、と。


 日常的にそこにあるのが当たり前であったため、レイズ様が新たな主人となった時も、うっかりはずし忘れてしまったのです。


 たまたまレイズ様がお越しになられた時にそれに気づいて、慌てて撤去しようとしたところをレイズ様がお止めになられました。


「なんだ、これはキンドールが描いた物なのか。驚いた。著名な画家のものかと思っていた」


 などと仰ってくださり、そのまま飾ることを許可してくださったのです。しかも、「新しいものを描いたら、廊下に好きに飾って良い」とも。


 私はお休みのたびに、館のお庭を描き、廊下に飾ってまいりました。


 季節によって飾る場所を変えておりましたので、いつしかそれぞれに「春の廊下」「夏の廊下」と言った通称があてられ、その名をレイズ様も使い始めた時には、なんとも居心地の悪い気持ちになりましたが。


 流石に私がレイズ様のお姿を描いた時には、レイズ様も苦笑なされておりました。


「これは流石に、飾るのは考え物だな」と。


 ですが、使用人たちの強い希望もあり、妥協案として、お屋敷の目立たぬ場所へひっそりと掛けられることになったのです。


 レイズ様のお姿を描いたのは、後にも先にもこの時だけでございます。


 私としてはあと何枚か描かせて頂きたかったのですが、なにせ、その後、”あの大遠征”が起こりましたので。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 レイズ様が大遠征にご出発なされてから、ご帰還された後までの一連の出来事、忘れることなどありません。この生涯が終わるまで、絶対に。


 レイズ様が大怪我をなされ、急遽お屋敷でご療養されるとの連絡が届いたのは、ご帰還なされるわずか2日前のことでした。


 お屋敷は常に綺麗に整えておりましたが、お怪我をされての療養となれば、話は違います。


 全く準備も何もしていない館に、レイズ様を乗せた馬車と共に、第10騎士団の皆様が大挙してお越しになられると、瞬く間にお屋敷を占拠したのでございます。


 占拠、という表現は少々乱暴かもしれません。


 しかし、使用人の活動場所は必要最低限の生活ができる範囲に限られ、外出もままならぬような状況を強いられましたから、これはやはり占拠と言って良いかと思います。


 私はせめて庭の管理はさせてくださいと懇願いたしました。「このお館の庭が荒れるのは、国王様も、レイズ様も悲しみます」とお伝えし、どうにか許可をいただくことができました。


 しかし私たちが庭の手入れをする時も、厳重な監視がつき、私共も、レイズ様はもしかしたら……そのように勘繰らざるを得ない状況でございました。


 世間では第九騎士団が裏切ったとか、それを第10騎士団が鮮やかに撃退したとか、そんなお話で盛り上がっている頃でしたが、私共にはなんの情報も届くことはありませんでしたので、ただひたすらに、部屋の片隅に集まって怯えているような有様です。


 そんな日々は突然、終わりを告げます。


 来たときと同じく、まるで嵐のように第10騎士団の皆様は去ってゆきました。


 レイズ様を乗せた馬車を連れて。


 本当に何が何だか分からぬまま、残された私共は今まで通り館の管理を任されたのです。


 そうして、


 レイズ様がご逝去されたことが、発表されました。


 悲しいかと言えば、もちろんでございます。しかし同時に、全てのことがあまりにも急展開すぎて、何が何だか分からないという気持ちの方が強くありました。


 せめて、レイズ様がご存命のうちに一目だけでもお会いしたかったのですが、叶わぬ夢となってしまった。それだけが心残りでございます。


 とにかく私共にできるのは、このシュタイン邸を、レイズ様も愛してくださったこのお庭を守ることだけ。



 再び主人を失ったお屋敷は、以前と変わらぬ日々に戻りました。


 ささやかな変化を残して。


 私は表玄関の正面、一番目立つところに、あの時描いたレイズ様の絵を大切に飾り直したのでございます。





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― 新着の感想 ―
[一言] おっと目から汗が出てしまった。
[良い点] キンドールさんの描いた1枚の絵。 軍師としての姿ではないレイズ様をしめす唯一の遺影となったのですね。後にその館の主となるロアもその絵を大切にしたことでしょう。
[一言] うう……。 たった一枚の、レイズ様の絵……。 ドライアイ気味の我が双眸が濡れております。
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