【やり直し軍師SS-112】女王、襲来②
「折角ですから、裏から回りませんか? そのほうがより、ライラの園を楽しめると思います」
というゼランド王子の提案によって、僕らは大きく迂回して離宮を目指す。一度フェマスを抜けて、北ルデク側から三女神の湖に向かうのだ。
フェマスで通過の際には祈りを捧げ、北ルデクへ。僕らが到着すると、既にホックさんたちが待ち受けていた。
「ホックさん!」
「あら、ロア、やっときたのね」
「すみません、遅れました」
僕が謝罪すると、軽く手を振る。
「冗談よ。アタシたちもついさっき到着したところ。ちょうどいいタイミングね」
騒ぎを聞きつけ、サピア女王もこちらへやってきた。
「サピア様。ご無沙汰しております」
「うむ。此度は世話をかけるが宜しくな。おお、双子にサザビーもちゃんと来ておるな。楽しみにしとったぞ!」
「よーう女王!」
「狼たちは元気か?」
「ふふん。あの後厳しい取り締まりを行ったでな、もはや、我が代で不埒者が現れることはそうあるまいて」
気さくに会話を交わす双子。状況を知らぬ兵たちが、ルデク、ツァナデフォルともにギョッとした顔を見せる。
しかし誰も咎める者がいないと分かると、複雑な顔のままやりとりを眺めていた。僕は適当なところで会話に割って入り、ゼランド王子の方へ手を差し出す。
「サピア様、こちらはゼウラシア王が長子、ゼランド王子です」
僕に紹介された王子は、一歩前に出て一礼。
「ツァナデフォル女王、サピア=ヴォリヴィアノ様であらせられますね。ゼランド=トラドと申します。初めまして。北の守護者と名高い貴女様にお会いできて光栄の至り」
対する女王も、そつの無い礼節で返す。
「ご丁寧な挨拶、痛みいる。サピア=ヴォリヴィアノである。此度は、いや、此度に限らず貴国には多大なる厚意を頂き、深く感謝している。今後とも良き隣人でありたく願い申し上げる」
それからついっと王子に近づくと、その顔をまじまじと見た。
「あの……?」
「ふむ。良い目をしておられるな……。おい、双子、お主ら王子のことは好きか?」
「王子はなかなか面白いぞ」
「ああ、なかなか悪くない」
双子の返事を聞いて、満足そうに頷いてから、王子から距離をとる。
「ゼウラシア王は良い後継者を持たれたな」
「いえ、私などまだまだ。女王の統治の方法なども学ばせていただければと存じます」
「ああ。なんでも聞くが良い。妾に教えられることであれば、いくらでも教えよう」
「ありがとうございます」
周囲の者たちがそんなやりとりを眺めている中、僕は別のところに視線を向けていた。そこにいたのはルファ。
女王が王子に顔を近づけた時、少しだけ頬を膨らませたルファを見て、僕は一人、ほっこりしていたのである。
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「あれが新しい離宮です」
ゼランド王子の指差す先、白く塗られた大きな建物が北ルデクに背を向けるように建っている。背後からでも既に立派な建物だなと思わせる佇まいだ。
「ルデク以外のお客様がこちらに滞在するのは、初めてのことになりますね」
王子のそんな言葉に、女王は愉快そうに、「それはドラクに恨まれそうだな」と笑う。
確かに皇帝が文句を言ってきそうな案件ではある。あの人、基本的に大人気がないからなぁ。
ともかく僕らは裏口から離宮へと入り、そのまま建物へ。
「上階のバルコニーより見渡す風景も見事ですが、まずはこのまま」
そのように先導する王子に続いて、僕らは館の正面玄関へ。
僕の執務室ほどもある玄関に到着すると、王子の指示でゆっくりと扉が開いてゆく。
「これは……!!」
眼前に溢れるのは、色、色、色!
ライラの花の最大の特徴である、とりどりの色彩が、緑の葉の中から溢れ出してくる。その先には湖の青と、空の青。
言葉を失う絶景とはかくやとばかりに、その場にいた全ての人々の口をつぐませる風景は、そのまま極上の絵画のよう。
「……すごい」
最初に言葉を取り戻したルファの一言、それが全てを物語っている。綺麗とか美しいというより、凄い。
「……王子よ、この景色を他国で見ることができたのは、妾が初めてであったな……」
「はい」
女王は目を閉じ、ふーと長く息を吐いた。
「この天上の園を目に焼き付けることができたこと、妾は生涯忘れることはないぞ」
後に、この女王の一言をもって「天上の園」と謳われることとなる庭。今、この場で、その言葉を大袈裟だと笑うものは誰一人いなかった。




