【やり直し軍師SS-104】2人の軍師11
ラジュールの部下を名乗る男は、クルーガの前で落ち着きなく首を垂れる。それを見るクルーガの視線は厳しい。
ラジュールはクルーガにとって不倶戴天とも言える存在であった。何かと対抗心を燃やして足を引っ張る男で、クルーガはこいつのせいで、大将軍になれずにいると思っている。
しかし、今回の計画にラジュールの参加予定はない。
「一体、ラジュールがなぜこの様な場所にいるのだ?」
問われた男は、言いにくそうに口を開く。
「じ、実は……ラジュール様より王へ、クルーガ様の監視を申し出て……」
「監視だと?」
「その……手柄を求めて勝手に国境を越えて攻め込まないか、と……」
「何!?」
クルーガの怒りに、ラジュールの部下は身をすくめ、震え上がった。
「この俺が、自分の功績のためだけに動くと思うてか!」
「も、申し訳ございません! 主人は王より許可をいただき、僅かな手勢を連れてクルーガ様の監視に……」
「巫山戯おって! しかもその上、敵に見つかり矢を射かけられているというのか!」
「実は、気づかずに国境を越えていたようで……」
「では、勝手に監視にやってきて、自ら国境を越えて相手に攻撃の名分を与えたというのか? 馬鹿か貴様らは!」
「申し訳ございません。その、それで……我らは寡兵……援軍を……」
「冗談も休み休み言え!!」
クルーガは激昂しながらも、頭の片隅の冷静な部分で状況を整理する。すでに戦端は開かれた。ならばどうするのが理想か?
ラジュールの援軍に向かうにせよ、森を抜けるには時間がかかる。それならばアーセル領に浸入し、馬の背を登って進んだ方が圧倒的に早い。
だがそもそもラジュールを助ける必要などあるのだろうか? そんな暇があるのならば、アーセル王やドランの首を狙った方が、イングのために、そして俺のためになるのではないか?
いずれにせよ開戦のきっかけを作ったのはラジュールだ。俺の責任ではない。ならばラジュールにはその責任を命をかけて負ってもらおう。
「……よし分かった。援軍には向かってやる。ただし条件がある」
ほっとした表情を向けるラジュールの部下に、クルーガは続ける。
「見ての通り、大軍で森を抜けるのは難しい。我々は馬の背を通り、援軍に向かう。当然アーセルの兵も放っては置かぬであろう。我々が到着するまで、死に物狂いでドランの部隊を引きつけておけ」
「しかし……」
「しかしも何もあるか! 貴様らの失態の尻を拭ってやろうというのだ! すぐに戻り、ラジュールにしかと伝えよ!!」
「は、ははっ!」
転がる様にして、出てきた森へと立ち去ってゆくラジュールの部下を見送ってから、クルーガは自身の側近に指示を出す。
「王へ事の次第を伝え、我々はアーセル王の捕縛に動くと伝えよ。全軍、馬の背に移動する。狙いはアーセル軍だ」
「畏まりました……ラジュール様の方はよろしいので?」
「ふん。全てにケリがついて、スイストの街の制圧が終わっても、まだ生き残っている様なら手を貸してやろう」
そのように口にしたクルーガの視線が、森の向こうに向かうことはなかった。
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「イングの兵、馬の背に現れ始めました!」
アーセル王への報告を隣で聞いていたビッテガルドがニヤリと笑う。
「おお、本当に”あれ”で釣れたのか。大したものだな」
出陣前に、ドランはアーセル王にある提案をしていた。
「周辺に他に敵がいないか確認するために、何度かイング領に弓を射掛けたいと思います。お許しいただけますか?」
ドランの提案に、イング兵を狙うのでなければ良いと許可。
そしてドランは”誰もいない場所”に、ただ無為に弓を放ち続けただけだ。にも関わらずイングの部隊はアーセル領に踏み込んできたのだ。
アーセル王は怒りと不安の綯い交ぜになった顔をしているけれど、僕らはおおよそ予想通りである。
ビッテガルドが感心するのを聞きながら、僕はイングの軍を動かした方法を考えていた。可能性が高いのは流言の類かなぁ。
イングの部隊を率いる将軍を動かすだけの理由を、あの無意味な弓に持たせたのか? なんだろう。終わったら教えてくれないかな。ダメ元で聞いてみようか?
「ロア殿、なんだか楽しそうなところすみませんが……」
想像を巡らせていた僕に、サザビーが呆れながら声をかけてきた。
「どうしたのサザビー?」
「いや、俺たちも行かなくて大丈夫ですかね? 結構な兵数差ですよ?」
「うーん。まあ、押し込まれそうになったらで良いんじゃないかな?」
馬の背と呼ばれる丘に現れ始めた敵兵は1万程度とのこと。こちらはドランが1000を連れて離れ、本隊として1000を残す。残った3500が主な攻守の要だ。
とはいえ僕はあまり心配していない。アーセルの部隊の中には、双子やラピリア、そして帝国の名将が加わっているのだ。
正直彼らが大軍相手にどのような活躍を見せるのか、少々楽しみですらある。それに……
「敵兵、馬の背よりこちらへ!!」
戦いが、始まった。




