第215話 1億円。
「店長さん。質問いいですか?」
「なんだ?」
今日のシフトは七海ちゃんと一緒だ。相変わらずうちの店はガラッガラで1時間に一人ぐらいしかお客さんがこない。
最近ほんと寒いからな。暖房なしでは耐えられない気温してるからな。皆外に出たくないんだろうな。
「1億円あったらどうします?」
「何だよその質問」
「そういうのいいんで答えてください」
「ええ……」
くだらない質問に対して何故だか理不尽に攻められている俺。七海ちゃんも仕事が無さ過ぎて暇だからこんな質問をしてきたのだろう。レジ前で突っ立ってるだけじゃ暇だし真面目に考えてみるか。
「1億円だろ?うーん……。とりあえず札束をバスタブの中に入れて泳ぐだろ?その後は100万円を使ってあかっちの頬でもバシバシしばいてやるかな!」
「……はぁ。何の参考にもなりませんでした」
「悪かったな!っつかなんだよ参考って。こんなの聞いて何を参考にすんだよ」
「…………これを見てください」
そう言うと七海ちゃんは一枚の宝くじをを俺に渡してきた。
……え?まさかこれって……。
「これって……もしかして1億あたったのか?」
「……はい」
「ええ!?こんなタイミングでする話か!?!?雑談みたいなテンションでする話じゃねえだろ!?嘘だろ!?おい!?」
「だから相談したんです」
「いや……相談って……無人島に何持っていくか聞かれるぐらい現実味ねえよ!もっと深刻そうに聞けよ!」
「こういうのはさらっと聞いたほうが、いい提案してくれるかなと思ったんですが、本当に何の参考にもなりませんでした」
「そりゃそうだろうな!いやー……。でもまじか……。1億か……。すげえな……。欲しい物なら何でも買えてしまいそうだな」
「何でも?」
「そりゃ1億もあったら流石に何でも買えるだろ」
「じゃあ店長さんっていくらですか?」
「……は!?」
「じゃあ税込み108円でどうですか」
「1億あって108円って俺どんだけ安いんだよ!後なんで税金かかってんだよ!」
「え?税抜き価格なら交渉成立ってことでいいですか?」
「そういう問題じゃねえよ!!」
「じゃあ1万」
「……いやいや、一気に値段上がった気がするけど安いから!」
「じゃあ100万」
「100万……100万か……それなら……っていやいや!」
「じゃあ1000万円で手を打ちましょう」
「……1000万!?そんなに出してくれんの!?流石に1000万なら……って人を何だと思ってんだ!冗談もいい加減にしろ!」
「……なるほど。参考になりました。じゃあこの宝くじももう用済みですね」
七海ちゃんはびりびりと宝くじを破り捨てゴミ箱に捨てた。
……はぁ!?!?何やってんの!?
「お、おま……何やってんだよ!!」
「宝くじをびりびりに破きました」
「そりゃ見りゃわかるよ!!!なんでそんなことしたんだよ!!!」
「実はこの宝くじ、さっき外掃除をしたときにたまたま拾ったんです」
「……え?……っつうことは1億円当たったって話は嘘か?」
「はい」
「なんだよそれ!ふざけんなよ!」
「いやー。でもいい話が聞けてよかったです」
「いい話?」
「1000万円貯めるんで、誰にも買われずに待っててくださいね」
……俺は飛んでもなく軽率な発言をしてしまったのかもしれない。




