第179話 ななみ。11
「に、二名でお待ちの……!えっと…………えっと……」
「……たぶん私たちのことを呼ぼうとしているんだと思いますよ」
ゲームの途中、店員さんの挙動がおかしいことに七海ちゃんが気付き、俺たちは無事に店内に入ることができた。
店内は入口同様に、使用用途不明のインテリアグッズがいくつも飾られ、言葉に表せないオシャレ感が滲み出ていた。周りをの客を見ると、ファッション雑誌に載っていそうなボーイ&ガール達が座っていて、俺の場違いっぷりが強調されるような気がする。……まあこういうのって周りは気にしてないパターンが多いんだけどさ。
席に案内してもらった後、店員さんから水とメニューを受け取り、それぞれ好きな物を選び注文する。待ってる間、ある意味嫌がらせのように食欲をそそる匂いがプンプンしていたため、空腹具合もそろそろ限界だ。
「初めて来ましたけど、店長さんとは一生縁が無さそうな良い雰囲気のお店ですね」
「一言余計だ」
「そういえば、こういう店に来たらやってみたいことがあったんです」
「やってみたいこと?」
やりたいことってなんだろう。一切検討が付かない。料理と一緒に自撮りするとか……?七海ちゃんに限ってそんなことしないか。
「店長さんにコップに入った水をぶっかけたいんです」
「……はぁ!?」
「ドラマとかでよくあるじゃないですか。あれって楽しそうだなと思いまして」
「楽しそうとかそんなんでやるもんじゃねえよ!」
「絶対に盛り上がると思うんです」
「誰一人盛り上がらねえよ!!!」
「あ、安心してくださいね?お店の水を使うのは失礼なので、空のペットボトルに水道水を入れてきました。後、濡れた床を拭くために雑巾も持ってきてますから」
「配慮する所間違ってんだろ!」
「それじゃあかけますね」
七海ちゃんはコップに入ってた水を一気に飲み干すと、ペットボトルの水をコップに注ぐ。
「え……ちょ……嘘だろ……!!!や、やめろよ!!!」
「え?なんですか?」
「か、かけれた後相当気まずくなるぞ!?わ、わかってんの!?周りの空気だって悪くなるしさぁ!?やっていいこととダメなことってあるだろ!?」
「え?私難しいことはよくわかんないです。それじゃあいきますよ」
「何一つ難しいこと言ってないって!おい!や、やめろって!マジでやめろって!ひっぃぃぃ!!!」
「………ふふっ」
「……な、なんだよ」
「……ふふふっ。冗談ですよ。冗談。……私、店長さんの困った顔が一番好きなんです」
「……ふ、ふざけんなよぉ!!ぼ、ぼけぇ!!!」
いつか七海ちゃんを崖から突き落としてやる。俺はそう決心した。




