第171話 ななみ。6
七海:午前11時でお願いします。
店長:集合場所はどうする?
七海:東公園の時計台の前で待っててください。デートなのでかっこいい感じの服装でお願いします。
◇
――デート当日。
何故か朝早くに目が覚めてしまい、ラインのやり取りを確認していた。……なんだよかっこいい服装って。こういうシンプルな要求が気が狂うほど悩ませるんだよ。ボケが。
クローゼットの中から乱雑にしまってある服をいくつか取り出し、どれがいいのか考えてみる。なんだか女子みたいだ。散々迷った挙句、大学の時に雰囲気で買った3万円する謎のヴィンテージジーンズと『アイラブニューヨーク』と書いたTシャツを着ていくことにした。
……果たしてこのぼろ臭いのは本当にヴィンテージジーンズと呼ばれるものなのか?俺はニューヨークが好きなのだろうか?
様々な疑問が俺の脳を攻撃してくるが、あまり深く考えすぎても仕方がない。自分でも理解しがたいファッションだが、簡単に言えば字の書いた白いTシャツにジーンズを穿いているだけだ。ださくはないだろう。
準備を終えると家の鍵を閉め、集合場所に向かう。時間に余裕を持ち過ぎたせいか、集合時間の30分前には到着した。周りに七海ちゃんの姿は見当たらない。……そりゃそうか。早いわな。
そもそも俺がこんな時間に来てしまっているのも、七海ちゃんが無駄に『デート』という表現を使ってくるところにある。『デート』という意味を辞書で調べると『男女が日時を決めて会うこと』と出てくるため、確かに今回のは『デート』呼べる。
……しかしだ。俺みたいなピュアピュア純粋ボーイからしてみると……その……なんていうの?交際を視野に入れた男女が遊びに行くみたいな、そんなイメージがあるわけなのよね。だから緊張しているわけなのよね。
特に深い意味はなく『デート』と呼んでいるのだろうが……そういう性質の悪い嫌がらせは止めてほしい。わざとそういう言い回しをしているように思えるもん。――いや、待て。もしかするとこうやって俺を困らせるためにわざと『デート』と呼んでいるのかもしれない。
……考えすぎか。
そんな感じで時間を無駄にしているランキングがあれば、上位に入れそうなぐらい何の意味もないことを考えていると後ろから声を掛けられた。
「……こ、こんにちは」
振り返ると、そこには七海ちゃんの姿があった。全身を見ると白のブラウスにネイビーの花柄スカートを着ていて何とも春らしい印象を受ける。頭には青色のカチューシャを付けている。普段はクールな印象を受けるが、今日の七海ちゃんはなんというか――。
「あの……あれだ。……今日は可愛い感じだな」
「……で、デートなんで可愛くしてきました」
「な、なんだそりゃ」
俺が珍しく褒めたせいか、少し照れくさそうにしている。……こっちまで恥ずかしくなるわ。ボケ。
「ち、ちなみに俺の格好はどうだ???」
しばらく俺の姿を無言で上下に何回も見る七海ちゃん。
「……えっと……あの……ニューヨークお好きなんですね」
今さらになって服装を間違えてしまったと非常に後悔した。




