第142話 消える。4
「なあ、ちょっといいか」
「どうしました?」
あまりにもバカの様子がおかしいため、上神妹を呼び出し事情聴取。一旦病室を出て、ロビーに置いてあったソファーに腰かける。……俺よりもこいつのほうがわかっているはずだ。
「なんかさ、あいつの様子おかしくないか?」
「え?いつも通りかっこよくて、いい匂いで、思わず舐めたくなるような感じですよ?」
「お前の頭がおかしいことはこれ以上アピールしなくていいんだ。もう十分理解している。なんかさ……あいつ変わったよな」
「……以前のお兄ちゃんより賢くなってますよね」
やはり妹。早い段階で気づいていたのだろう。
「……俺もそう思う」
「前のお兄ちゃんは「あっUFO!」って言って、横を向いた隙に首筋をペロッってできたんですけど……今じゃその手も通用しないんです」
「わかった、わかったから。もうお前の頭がおかしいことはわかったから」
「舐めるまではできるんですよ?でもなんで舐めたのって今のお兄ちゃんは聞いてくるんです……。もう私どうしていいのかわからなくなって……」
「この話を聞かされてる俺のが、どうしていいのかわかんねえよ!」
「とにかく今のお兄ちゃんは、前のお兄ちゃんと違うんです……!」
「そうだな……」
「……今のお兄ちゃんを受け入れるべきなんですかね……」
言ってる発言こそ気持ち悪いが、大好きだった兄の性格が変わってしまい、どうしていいのか戸惑っているのだろう……。
「……何されても笑ってた、猿より頭の悪いお兄ちゃんはもうどこにもいないんです……!」
本当に今のあいつを受け入れるべきなのか?…………いや、違う。
「……なんか嫌だよな。あいつがバカじゃないのってさ」
「……はい」
あんなの……あいつじゃねえ。バカじゃないなんて間違っている。
「俺達で色々やってみよう。無駄かもしれないけど、何もしないよりはましだ。あの仕事もろくにできないゴミクズだった頃に戻そう!」
「はい!私も、どんなに舐めても気づかない猿より頭の悪いお兄ちゃんがいいです!」
こうして俺達は、あいつをバカに戻すことを決意した。




